Beer Styles: India Pale Lager



最近は上面発酵のクラフトビールが流行しているが、それ以前は黄色い炭酸水のようなラガーしかほぼ手に入らず、クラフトビールムーブメントは(特に米国においては)それに対する解毒剤のような役目を果たしてきた。多くのブルワーがクラフトラガーにこだわる必要はないと感じていたし、クラフトビールを好む若者の多くは、飲む価値があると感動したラガーを思い出すことすらできない様子だった。当然ながら、伝統があり、手作業でつくられた、特徴的なラガーは、世界の多くの場所でつくられ続けている。そして現在、こういった昔ながらのビールの、現代のクラフト版をつくろうという新しい動きが出てきている。アプローチの一つとして、新しく実験的なホップの使い方を探求するというものがあるが、クラフトエールといえばインディアペールエールが連想されるようになったように、インディアペールラガー(IPL)もクラフトラガーのスタンダードとなった。

長きにわたって人気の高いクラフトブルワーがラガーを専門につくってきた日本においては、この傾向はあまり感じられなかった。日本では、下面発酵のビールに特化してきたブルワリーがつくる素晴らしいラガーを飲む機会に恵まれている。しかし最近では、米国と同じように日本でもホップが利いたラガーが流行し始めていて、クラフトビールシーンのさらなる多様化は間違いない。

ドイツやチェコ共和国にはホップがかなり利いたピルスナーやラガーがある。新鮮なイェヴァーやビットブルガーを試しに飲んでみたことのある人ならわかるだろう。そして、そういったビールは他にも数多く存在する。日本では、特に富士桜高原麦酒ベアレン醸造所が、ホップが強めのピルスナーづくりを長い間試みてきた。これらのビールとIPLとの違いは、使用するホップの量というよりは、タイプやタイミングが大きい。一般的に、インディアスタイルのラガーは、IPAで慣れ親しんできたニューワールドのホップ(ヨーロッパで栽培されている従来のホップに対し、米国、オーストラリア、ニュージーランドといった国で栽培される、比較的新しい種類のホップ)を使用し、苦味を加えず香りだけを高めるためにかなり遅いタイミングでホップを投入したり、ドライホッピングという伝統的なラガー醸造では使われないテクニックを施したりさえする。

ヨーロッパ、米国、そして最近日本で行った、スタイルの呼び方に関する調査は、重複する部分はあるものの、前述の定義をおおよそ裏付けるものだった。一例を挙げれば、富士桜が2017年に発売した限定ビール「ホントに苦いピルスナー」では、大胆な味と苦味を求めてドイツの新しい品種のホップが使われたが、20周年記念でつくられたIPL「20th Anniversary Lager Spring」では、柑橘香をしっかり出すためにシトラホップが使用された。両方とも伝統的なドイツの醸造方法にならってドライホッピングは施していないが、IPLは香りに重点が置かれている。

米国で最も初期にホップの利いたクラフトラガーとして登場したビールの一つにブルックリンラガーがある。これは1988年に初めて醸造されたビールで、IPLというよりは伝統的な禁酒法以前のアメリカンラガーに近いが、その影響を見過ごすことはできない。色は琥珀で、カスケードホップでドライホッピングされたこのビールは、長い間人々が尊敬してきた標準ともいえるビールだ。デーブ・カーペンター著のラガーに関する書籍で彼は、最初につくられたIPLは、コニーアイランド・ブルワリーが2007年に発売した「ソード・スワロワー」ではないかと推測している。今では入手不可能なこのビールは、8種類のホップが使われ、「ラガー酵母のIPA」と謳っていた。軽く検索してみると、遅くとも2006年にはバラストポイント・ブルーイングが「ファゾムIPL」をつくっており、日本で2010年に初めて樽で飲んだことを覚えている。数か月後には、横浜ビールの「ドラゴンスプラッシュ」が発売され、ファゾムIPAと同様に美味しかった。ベアードブルーイングは、2011年にIPLとして、これまた素晴らしい「初醸造」をつくっている。

すでに確立された美味しいラガーがあるのに、なぜあえてIPLをつくるのだろうか? この質問は、IPAを好む人や、伝統的なピルスナーの愛飲家から何度か聞いたことがある。一つの答えは、エールに比べて、よりクリーンで、エステル香の少ないラガー発酵の場合、ホップがいっそう際立つからである。使用する麦芽によるが、酵母由来の味を抑えた、すっきりとしたクリーンなラガーをつくることができるのだ。特に夏には、IPAよりもIPLの方が、さっぱりしていて爽快に感じる。また、インペリアルスタイルのアルコール度数の高いビール場合、エール酵母が多すぎるほどの果実の味わいと重めのボディを生み出すことが多いため、ラガー酵母とペールピルスナー麦芽を組み合わせる方が断然よいというのが筆者の見解だ。IPLのすっきり、爽やかな味わいは、甘いジュースのようなニューイングランドIPAを飲んだあとに、特に感じられる。ダークモルトを使用したカスケーディアン・ダーク・ラガーは、ブラックIPAの代わりに飲むのにちょうどよい。

誰もが認めるIPL醸造の大手ブルワリーがアメリカにある。マサチューセッツ州で、ニューイングランドIPAをつくるブルワリーに囲まれたジャックス・アビーは、IPLも醸造するラガー専門のブルワリーだ。「キウィ・ライジング」、「エクセスIPL」、「ホポニウス・ユニオン」や「ホプスティテューション」といったシリーズは、米国におけるホップの利いたクラフトラガーを定義するビールとなった。残念なことに、ジャックス・アビーのビールは日本にまだ輸入されていない。

国内でもいくつかのブルワリーがこのスタイルのビールをつくっている。前述のブルワリー以外にも、牛久シャトー(シャトーカミヤ)、ひでじビールワイマーケットブルーイング呉ビール、明石ブルワリー、島根ビール大山Gビール鬼伝説ビールヨロッコビールが、すっきりとした味わいの、ホップが利いたIPLを一度以上つくったことがある(限定ビールがほとんどではあるが)。一年を通して入手可能で、IPLに興味を持ち始めた人におすすめのビールが3つある。コエドブルワリーの「伽羅(Kyara)」は、2012年にリニューアルされ、IPLになった。色味はオレンジがかった琥珀色で、カラメルモルトが少量使用され、ネルソンソーヴィンホップ由来のブドウと柑橘の香りが漂う。缶は大体どこでも入手可能だ。伽羅と同じくらい入手しやすく、かつ筆者の最近のお気に入りは、オラホビールの「キャプテンクロウ スラッシュラガー」だ。このビールもネルソンホップが使用されているが、全体にペールモルトが使われているため、ホップがより際立つ。木内酒造の「常陸野ネストラガー」は2014年から主力ラガービールとして流通していて、こちらも缶で購入可能だ。色は薄く、4種類のホップであふれんばかりの味わいだが、その中でもやはりネルソンの存在感が強い。

筆者は、ビールのスタイルとして、対極にあるようなピルスナーもIPAもどちらも大好きだ。インディアペールラガーは、この二つのスタイルをつなぐ従兄弟のようなビールだ。いいとこ取りのビールだと表現する人もいるだろう。クラフトビールの世界には、大胆でシロップのような味わいのウェストコーストダブルIPAや、ジュースのような、甘く小麦の風味がするニューイングランドスタイルのビールに飽きてきた人もいるだろう。その中で、IPLはこれまでとは「少し」違うビールを提案している。これまでのビールより少し伝統に近く、少し新しく、そして少しだけ爽やかで雑味のないビールだ。こういう選択肢があることを嬉しく思う。ただし、飲むなら「すごく」新鮮なビールでお願いしたい。

All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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