Beer Styles: New England-style Hazy IPAs


(T.Y. Harbor x Ise Kadoya collab NE IPA)

今回は、米国の東海岸から西海岸、北はスカンジナビア、そして日本に至るまで、クラフトビールの世界で爆発的人気を集めているビールについて取り上げたい。ノースイーストIPA、ヘイジーIPA、もしくはNE-IPAと色々な呼び方があるが、ビアスタイルとして確立されているわけではない。ほとんどの人にとっては、インディアペールエールの一種にしか過ぎないが、その特徴と人気度から、早急にこのタイプのビールを単独で特集する必要があると感じたのだ。

ニューイングランド・ヘイジーのカテゴリーは、アルコール度数にかかわらずセッションからインペリアルまで、すべてのペールエールに適用する。これらのビールの特徴は単純だ。曇りがかったものから濁りの濃いビールで、シンプルな薄色の麦芽の特徴が出ている。柑橘系やトロピカルフルーツのような香りが高く、フルーティーで「ジュースのような」味わいのホップが使われている。苦味は控えめ。そして豊かで絹のような滑らかさを持つ。美味しそうだろう。上手くつくることができればとても美味しいビールなのだが、クラフトビールのコミュニティ内では、多くの批判と冷笑の的となっている。元々このビールは、麦芽や酵母の香りに邪魔されず、ホップの強い苦味も抑え、アメリカ大陸発祥のホップの香りや味わいを一段と際立てるようなアメリカンIPAをつくろうという自然な流れで考えられたものだ。濁りという特徴は、見た目だけではなく、味わいと口当たりにも影響すると言われているが、多くの純粋主義者は、透き通ったIPAでも同じくらい美味しいし、フルーツスムージーや玉子スープのようには見えないと反論する。

濁りのあるビールは目新しいものではない。ろ過処理が広まる前の数千年もの間、ビールは濁っていた。そしてジャーマンケラービアやヘーフェヴァイツェンなど、あえて濁らせたスタイルは依然として多く存在する。後者は背丈の高いグラスに注いで濁りの美しさを強調するのに対し、前者はセラミックのクルーグ(ビアマグ)で中身を隠すようにサーブされる。ビールの世界では、透明なビールと濁ったビール、どちらが良いかについては意見が分かれている。

濁りで知られるようになった最初のIPAは、米国バーモント州のアルケミストというブルワリーのヘディトッパーだ。アルコール度数8%で国際苦味単位(IBU)120の、濁ったホップ爆弾のようなビールである。その16オンス(約470ミリリットル)缶のパッケージには、グラスに注ぐと見栄えが悪いからか、はっきりと「缶から直接飲んでください」と注意書きがある。2004年に初めてつくられたが、ビアギークの世界ではあまり注目を集めなかった。しかし2011年には、突如米国のすべてのビールトレーダーが「フレッシュなヘディトッパー求む」とトレーディングサイトに打ち込むほどの人気を博した。

濁りの大ブームは2013年にやってきた。バーモント州より少し南下したマサチューセッツ州のツリーハウスブルーイングとトリリウムブルーイングがその種のビールの醸造に取り掛かった年である。いずれのブルワリーも、新種ホップを思いつく限りの組み合わせてつくったペールエールやIPA、ダブルIPAの多彩なラインナップを誇り、当然ながら、そのすべてのビールが濁っている。そして昨年、彼らはこのブームを米国のみならず、世界中にも巻き起こしたのだ。

なぜ濁ったビールをつくるのか? 今では、濁りがIPA界において最先端を行っていることをアピールするバッジのようなものになっている。濁りは下記3つの工程に起因する。まず、大量のフレーク状の小麦やオーツ麦、もしくはデンプンを低分子化したデキストリンの追加。これら原料中のたんぱく質が、このビアスタイルに必須ともいえる、豊かで滑らかなボディと濁りを生み出す。次に、ろ過を一度もしないことによって残るたくさんの浮遊酵母もボディと見た目に影響を及ぼす。そして最後に、大量のドライホッピングをした後などに残留するホップ油(ルプリン)が濁りをもたらす。より一層濁らせるために、小麦粉やフルーツピューレをビールに加えるブルワーもいるそうだが、これは多くの人がインチキだとみなしている。

これらのIPAが特別な理由は、濁りそのものではなくホップにある。加える量、投入するタイミング、そして使われている品種が、ほかのIPAと比べてユニークなのだ。濁ったビールのほとんどは、贅沢にも1リットルあたり15グラムのホップが使われている。ちなみに、標準的な自家醸造用のIPAレシピは、1リットルあたり4グラム加えるように描かれている。また重要な点として、ホップは煮沸工程の最終段階、煮沸後ワールプールの中、もしくはドライホッピングとして投入される。このタイミングにより、ホップの苦味を抑えながらもその香りを際立たせることができる。そして、ホップの品種も大切だ。これらのビールにカスケード、ましてや欧州産のノーブルホップは使われていない。最も使われているホップは、ここ3年から5年の間に米国、オーストラリアとニュージーランドに姿を現した、ジューシーで湿った匂いがする、果実味豊かな品種、すなわちモザイク、ギャラクシー、ネルソンソーヴィン、そしてエルドラドである。ほかにも21世紀の定番ともいえるシトラ、アマリロ、シムコーやコロンバスが人気だ。

しかし、濁りは本当に必要なのだろうか? 我々は皆、芳醇でジューシーなホップの香りと味わいを持つ、透明なIPAを飲んだことがある。結論はつけ難い。確かに、ビール中に残留するタンパク質と酵母は口当たりを良くする。中には、適切な酵母を使った発酵工程でドライホッピングをすることは、同じ量を少しずつ加えるよりも、ホップの香りを立たせるのに効果的であると主張する人もいる。この二つの点については決定的ではない。

この濁りのブームは、ただの誇大宣伝だという見方もある。濁っているのが流行っているから、時代の最先端をゆくブルワーになるために濁ったビールをつくらなければ、という具合だ。この記事を書いている時点で、少なくとも7つの日本のブルワリーが濁りビールをつくっている。伊勢角屋麦酒T.Y.ハーバーブルワリーのコラボレーションビールであるクロッシングニューIPAはとてもフルーティーでジューシーではあったが、ヨロッコビールのNEミソスープだけが本場米国と同程度の濁りを持っていた。米国では、すでに半数ほどのブルワリーがこのスタイルのビールをつくっている。サミュエル・アダムスまでもだ。しかし、筆者が話を聞いたいくつかの米国のブルワリーは、すでにこの流行に飽き飽きしている。彼らはそろって「もう次に進むべきだ」と口にする。なんとなく、このブームは近いうちに廃れ、このスタイルに真摯に時間と努力を注ぐブルワリーだけがつくり続けていく気がする。多くの点で、今の状況はフルーツIPAブームを彷彿とさせる。フルーツIPAのブームは日本ではまだまだ続いているが、米国ではすでに下火になっている。濁ったIPAは、色々な意味で、フルーツが加えられていないフルーツビールなのだ。

ここで悪い点を二つ挙げておきたい。筆者は、米国とスウェーデンにあるブルワリーがつくった、最高に素晴らしい濁ったIPAを味わったことがあるが、ビールというよりもフルーツスムージーのような味のビールもいくつか飲んだことがある。このことは個人的に非常に受け入れがたい。すべてのビアスタイルにおいて、革新と実験を行うことは高く評価するが、ビールはやはりビールの味がしていてほしい。少ない苦味と麦芽感は結構だが、それらが完全になくなってしまうと、何かが足りないと感じる。二つ目は、これらのビールは長持ちしない。発酵タンクから出た瞬間に味と香りが飛び始めて、一か月も経たないうちに美味しくなくなってしまう。これが、皆新鮮なものを求め、大規模な輸入がほぼ不可能である理由だ。そのため、もしこの新しいスタイルのIPAを味わいたければ、ニューイングランドに赴いて本場のビールを色々試してみるか、より多くの日本のブルワーが、このスタイルを忠実に再現したビールをつくるのを待つしかない。きっと近いうちにその日は来るだろう。

All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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