Beer Roundup (Spring 2019)


(Garage Project taproom)

森の中で木が倒れたら音がするだろうか? もしヨーロッパで蝶が羽ばたいたら、日本で台風が起きるだろうか? もし日本のブルワーが、清酒入りの、柚子を使ったキラキラ光るミルクシェイクIPAをつくったら、世界中のビアギークが興奮して息を呑み、その息が群を成してブラックホールを形成し、我々を飲み込んでしまうだろうか? 現代ますますボーダーレス化しているこの世界では、すべてが相互につながっていて、情報は素早く拡散する。この3か月で起こったビールに関する話題を振り返ってみよう。

国民一人当たりのブルワリー数が一番多いのはどこの国か? ドイツ、ベルギー、チェコ共和国、英国と米国はご存知の通りビール文化が活発で、多くのブルワリーがある。米国全体で7000以上もあるのだ。しかし、1位の栄冠に輝いたのはニュージーランドだ。ニュージーランド国内のブルワリー数は200超(日本の約半分)だが、人口は500万人を下回る(日本はおよそ1億2千万人)。先日、ニュージーランド・クラフト・ブルワーズ・アソシエーションは、クラフトビール業界に注目を集めるために、このことをアピールした。さらに重要なのは、ニュージーランドのブルワリーは押しなべてとても質が高いということだ。ガレージプロジェクト(本誌第23号参照)はそのクリエイティブなビールで国際的に称賛を集めている。日本では、株式会社モンサーブルを通してニュージーランドビールの一部が入手可能だ。いくつか飲んでみるか、もっと良い案として、ブルワリーを直接訪れてはいかがだろう。

日本からビールの飛行機は出航していない(今のところは)。しかしそのうち現実となる日が来るかもしれない。巧みな(しばしば物議を醸しだす)マーケティング戦略で有名な英国のブリュードッグは、2月にブリュードッグエアラインを立ち上げた。同社は飛行機をチャーターし、ビール好きな乗客200名を乗せてロンドンからオハイオ州コロンバス(同社の米国ブルワリーがある都市)へと飛行した。創業者のジェイムズ・ワットとマーティン・ディッキーが離陸前の機内アナウンスを行った。飛行機が巡航高度に達すると、シセロン資格を持つ客室乗務員が主導してビールの試飲会が開かれた。ビールに合う機内食まで提供されたのだ。唯一、解決すべき問題は、着陸前にトイレの列が長くなることだ(公平な立場で言うと、我々が何年も前に開催した横浜の飲み放題ビアクルーズでも同じような問題に直面した)。

2月には、著名な作家でありビアジャーナリストのスティーブン・ボーモントが「フラグシップ・フェブラリー」というキャンペーンを立ち上げた。その目的は、クラフトブルワリーの旗艦ビール、つまりブルワリーの顔として売り出しているビールへの興味を再燃させることにあった。多くのブルワリーにとって、旗艦ビールは売上の屋台骨を支えるものだが、米国の古参クラフトブルワリーではその売上は落ちている。近頃の消費者は新しいものばかり求めて、旗艦ビールの素晴らしさをなおざりにしているのかもしれない。そういった事情を受けて、ボーモントは仲間とともに、消費者に旗艦ビールを飲むよう促した。これは素晴らしいアイデアだ。だが、なぜ2月限定なのか? そこで我々はソーシャルメディアを通じて「フラグシップ・フライデーズ」を提案した。金曜日に飲む最初のビールを旗艦ビールにしようという呼びかけだ。もちろん、訪れたバーが旗艦ビールを提供していなければ実行が難しいかもしれない!(バー経営者の皆様、是非旗艦ビールを入れてください)

先日、米国のブルワーズアソシエーションはブルワリーの売上高トップ50を発表した。評論家の多くは、どのブルワリーがもっとも順位を上げ、どこが順位を下げたのか気になるところだろう。しかし日本の読者が興味を持つべき点は、このリストに載ったブルワリーの多くが日本でも飲めるということだ。50位のうち20近くのブルワリーのビールを日本でも味わえ、上位10位のうちボストンビール(第2位)、シエラネバダブリューイング(第3位)、ニューベルジャンブリューイング(第9位)、デュベル・モルトガット(ファイアストーンウォーカー、第5位)、カナーキー(オスカーブルースブリュワリー、第8位)の6つのビールが楽しめる。このランキングには入っていないが、売上高では匹敵しているラグニタスやバラストポイント(両ブルワリーのビールとも日本で楽しめる)もある。これらのブルワリーがブルワーズアソシエーションのクラフトビール部門にカウントされないのは、大企業によって買収されたからだ。しかし今でも多くの消費者はこれらのブルワリーを「クラフトっぽい」と捉えている。こういうくくりでいえば、3番目に来るのは皆知っている通り、現在サッポロ傘下にいるアンカースチーム(本誌第28号参照)だ。



アンカー・サッポロは、これまでにない状況に面している。従業員が労働組合の結成を投票によって可決した。その背景には、待遇の改善と「生活できる給料」を求める従業員の願いがあった。彼らは、働くのと同時に、サンフランシスコで生活できるだけのお金を稼ぎたかったのだ。サンフランシスコまたその周辺のベイエリアのほとんどが、米国内でもっとも生活費のかかる都市であることが一因となっている。ある従業員は、もし大企業がアンカーを所有するなら、ブルワリーとスタッフに影響を及ぼす決定に対して発言権が欲しいと話していた。米国各地の報道機関は、労働組合結成の試みにクラフトブルワリーが直面するのは初めてだと報道した。しかし必ずしもそうではない。前述したように、ブルワーズアソシエーションは大企業所有のアンカーをクラフトブルワリーと見なしていないのだ(学術的観点からすれば、だが)。もしかしたら、アンカーは米国で最初のクラフトブルワリーで、労働組合を結成している途中だと言いたかったのかもしれない。ボストンビールでは、ある一つの施設に1997年から労働組合がある。シカゴでは、ラグニタスの醸造施設に組合があり、グースアイランドも同様だ。我々は日本の消費者が知っていそうな輸入銘柄で、労働組合があるクラフトやクラフトっぽいブルワリーをいくつか探してみた。カナダにあるサッポロの子会社は労働組合があるので、こういった状況は初めてではない。ここから、特にクラフトビール業界の大きな枠組みの中で、どのように展開していくのか興味をそそられる。

米国のクラフトビール業界は、相対的に低い賃金で悪名高い。実際に、過去10年間の賃金は減少傾向で推移している。注目すべきは、日本国内の一部ブルワーとブルワリースタッフがグループを組み、低い賃金を前にして何年もの間給与の引き上げを呼びかけている。米国では、少なくとも、アンカー・ブリューイング・カンパニーでの動きを受けて、ほかのブルワリーの従業員も労働組合の結成を目指すのではないかとの見方もある。今後の展開について様子を見てみよう。サッポロのような交渉できるパートナー企業がいるブルワリーは少ない(名誉のために言っておくと、サッポロは概して長期的なビジョンを持っている)。

ここで日本に話題を移そう。クラフトビール業界の現在の状況はどうだろう? おおむね良い。残念なことに、今年初め、牛久ブルワリーを経営していたシャトーカミヤがビールの醸造施設の閉鎖を発表した。シャトーカミヤは一般的には広大なワイナリーとして知られているが、ビールのブルワリーは、ビアギークやビールを時折楽しむ人たちから高い支持を得てきた。ブルワーたちは博識、ビールも美味しく、ビアガーデンも人気を集めていた。明らかに、見た目より売上が思わしくなかったようだ。同社はブルワリーを閉鎖した理由として、全体的な落ち込みを挙げていた。これは、日本で定評のあるクラフトブルワリーの閉鎖が続く不吉な前触れなのだろうか。

その一因として考えられるのは競争の激化だ。新しいクラフトブルワリー、特にブルーパブの規模のものが、日本各地で毎月のように増え続けている。一方、設備のアップグレードを含む設備拡大、また醸造量を増やしたブルワリーも少数だがある。そのうちいくつかは大幅な拡充を行っている。我々が知る限り、ここ数か月で設備拡大をしたブルワリーには、ワイマーケットブルーイング伊勢角屋麦酒、箕面ビールとヨロッコビールが含まれる。新しい生産能力に見合うように売上が伸びることを願っている。もし一役買いたいなら、タップルームを訪れてビールを飲もう。そして旗艦ビールも忘れずに!

This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.