Tap That: a Winter Dose of Powder and Hops
粉雪が舞う。ビールが呼んでいる。冬のレジャースポーツ、それにビールと友達というセットは、この時期最高のご褒美である。残念なことに、クラフトビールを豊富に取り揃えている冬のリゾート施設はあまり見受けられない。しかしそんな中、最近ある場所が私たちの目に留まった。「Tap Th...
今年、米国限定発売が発表されて話題となったヤッホーブルーイングの「SORRY UMAMI IPA」が、多くの要望に応えるかたちで10月から日本でも販売が始まった。 そもそも、なぜ米国市場をそれほど意識したのか。それにはまず、クラフトビールという概念を生み出したこともあり、クラフトビールが最も発達・成長している国であるということがある。ビール全体の中でクラフトビールのシェアは数量ベースで11%、金額ベースで21%。数量ベースのシェアが現在1%程度と考えられている日本とは状況が全く異なり、日本よりかなり早いペースで市場が成長し続けている。そしてヤッホーの輸出において、米国向けが約半分を占めており、今年は絶対量では昨年比で倍になったという、見逃せない市場だからである。 しかし成長が著しい分、競争が激しい。言わば「レッドオーシャン」であり、競争相手が少ない「ブルーオーシャン」である新規開拓市場に進出すべきという社内の声もあった。だが、ヤッホーは米国の素晴らしいビールに出合ったからこそ成長できてきたし、やはりそこに挑戦したいという思いの方が勝った。 米国のスーパーマーケットで売られている米国産クラフトビールは、どれも新鮮で品質が高い水準にあるとヤッホーは認識しており、彼らの製品はそこではそれらの倍の値段の4~6ドルで売られている。この厳しい売り場で勝負していくのを前提に、「ネオジャパンからやってきた傾奇者」「日本らしさ」「革新的」というコンセプトを決めていった。 ターゲットは、クラフトビールファンかつ日本が好きな人に定めた。絶対数は多くないが、まずはこの人たちに認知してもらうことを目標としたのである。そうしてできたビールは、ビアスタイルとしては「エクスペリメンタルホワイトIPA」と彼らは呼ぶ。通常用いられない特殊な技術や材料を使っているビールがエクスペリメンタル(実験的)であり、このビールではカツオブシの使用が当てはまる。 カツオブシと言えば、それからダシが取れることから分かるように、うま味成分が豊富に含んでいる。酵母が生きていくにはうま味成分として知られているアミノ酸が必要であり、カツオブシを投入するとそのうま味成分が得られ、酵母によるエステル(フルーティーな香りの素となる化合物)の生成が活発になった。 日本らしい材料をビールに入れてその特徴を出すのは難しくないと、彼らは言う。それよりも、しっかり美味しいものをつくろうとした。だから、魚らしい味わいを出そうとしてカツオブシを入れたわけではなく、あくまでもフルーティーな香りがよく出るようになったから用いた。開発時にはワカメや煮干しなどもうま味成分を出す原材料の案として挙げられたが、米国市場でポジティブにとらえてくれそうなものとして、カツオブシが選ばれた。 1回の仕込みで、削り節の状態で3、4キログラムのカツオブシを入れるという。麦汁のときはダシの味がするが、発酵でその味は消える。そしてその発酵ではベルギー酵母が用いられ、うま味成分の作用もあって複雑で豊かなフルーティーな香りが得られる。原材料はカツオブシのほかに大麦麦芽、小麦麦芽、ホップ、コリアンダーシード、オレンジピールである。 ホップの選択も実験的と言える。米国のハース社で開発されてもともとHBC291と呼ばれていた品種で、最近「ローラル」という名前が付いたばかりの新種のホップを用いている。それにカスケードとカシミアも使用している。カシミアも2年前に登場したばかりの新種だ。 原材料を聞くとベルジャンホワイトのような味わいを想像するかもしれない。しかし実際に味わってみると、アルコール度数7%がもたらす力強さもあいまって、デュベルなどで有名なベルジャンペールストロングエールやベルジャントリペルのようである。つまり、バナナやマンゴーのようなフルーティーな香りがあり、とろみすら感じるボディーの強さが印象的だ。 米国での販売は着実に進展しているようで、既にワシントン州、カリフォルニア州、オレゴン州、コロラド州で販売されており、最近テキサス州など南部でも始まった。魚が入っていることについて良くも悪くも驚かれることが多いので、丁寧な説明ができる卸売り先を選んで取り引きをしている。 日本ではローソン、ナチュラルローソン、ポプラ、成城石井で販売されており、この機会に一度は味わってみたい。国内クラフトビールでシェア1位であり続け、主力商品である「よなよなエール」があまりにも有名でありながら、こうした挑戦を続けているヤッホーの動向は、これからも飲みながら注視していきたい。