World Beer Sanitizer
(text by Ry Beville, photo care of the Brewers Association)
世界最大かつ最もよく知られたビール品評会の一つであるワールドビアカップ。2012年から審査員を務めている筆者は、この4月に開催予定だった今年度のワールドビアカップを心待ちにしていたが、コロナ禍のため中止になってしまった。111ものカテゴリーで評価を受けようと、何万というビールをすでに出荷していた世界中のブルワリーはどうするのか。まずは登録料を払い戻して欲しいところだが、発送済みのビールについては一体どうなるのだろう。
すべてのボトルと缶を発送元のブルワリーへ送り返すという選択肢については、業務的にも金銭的にも問題が大きすぎるため、現実的でないとされた。あるいは、各審査員のもとへビールを全部送ってもらえるなら、飲んだ感想をつくり手にお伝えすることは可能だと、私を含めた何人かの審査員が冗談で言っていたのだが、もちろんこれも不可。審査員は世界各国に散らばっているし、ビールはコンペに備えて米国内ですべて冷蔵されている。また、全部廃棄処分にすることなどもったいなくてとてもできない。そこでワールドビアカップを運営する全米ブルワーズ・アソシエーション(以下、BA)は、単純かつ感動的な解決策を考案した。救急隊のための手指消毒剤をつくるというアイデアである。
BAが4月8日に発表したところによると、ビールはBAの本拠地であるコロラド州デンバーにあるデンバー蒸留所とバルマー・ピーク蒸留所へ搬送された。この二社は自社の設備を使い、ビールを消毒剤に作り変えているという。これに伴い、BAのスタッフたちは何万もの缶ビール、瓶ビールを開栓し中身を出す作業を行うこととなり、まず、1500ガロン(約5677リットル)を作業したという。この初回分のビールを加工することによって約175ガロン(約662リットル)の消毒剤が製造できるという。
ビールは文明を生んだと弊誌は以前書いたが、今回はビールが文明を救う役割を果たそうとしている。