Goose Island Sour Sisters



1992年、グースアイランドブルワリーがバーボンカウンティブランドスタウトの初仕込みとして6つの木樽で熟成させた時、その後10年間で木樽熟成の人気がこれほどまでに爆発するとは思いもしなかっただろう。現在米国内で最大規模の木樽熟成プログラムを有する彼らは、当時から先を見越して取り入れてきたことは明白だ。

バーボンカウンティブランドスタウトは、シカゴのクライボーンにある彼らのブルワリーで1000回目の仕込みを記念して醸造責任者であるグレッグ・ホールによってつくられた。1995年グレートアメリカンビアフェストに初めて出品されたものの、主催者側が木樽熟成ビールの扱い方がわからずに失格となってしまった。このジャンルではおそらく最初のビールであったためビアスタイルのルールが確立されておらず、選外佳作を受賞して終了したのだ。しかし2006年のワールドビアカップでは金賞を受賞、これをきっかけに米国のクラフトビアシーンで注目を集め始める。そして木樽熟成の小さな波が大きなうねりとなって業界を席巻するまで時間はかからなかった。

人気の高まりを受けて、グースアイランドは木樽熟成プログラムを拡大した。2009年には、カベルネのワイン樽で1年熟成させたベルジャンスタイルのワイルドエール(野生酵母を使用したエール)という、これまでとは全く異なったとてつもないビールを世に送り出した。このビールはジュリエットと名づけられ、二次発酵の際にフレッシュブラックベリーを追加しひねりを加えた。アルコール度数(ABV)8%、国際苦味単位(IBU)は15で、ピルグリムというホップを使ったシングルホップのドライでほのかにスパイスを感じる味わいだ。

ジュリエットの後を追うようにロリータが2010年に発売された。同じベルジャンスタイルのワイルドエールであるが、ラズベリーが用いられ、多様なホップ(プルグリム、スティリアン、ゴールディング・セレイア、ザーツ)が使われている。ラズベリーの香りと味をしっかり楽しめる仕上がりだ。カベルネ・ソーヴィニヨンのオーク樽で熟成されたロリータは、他のシスター達に比べ色が少し暗く酸味があり、後味はかすかなスパイスを感じさせる。(ABV: 8.7%、IBU: 32)



同じ年に、先述二つのビールのチェリーバージョンとも言えるマダムローズがリリースされた。ピルグリムを用いたシングルホップのベルジャンスタイルのブラウンエールで、ランビックにチェリーを加えて二次発酵させるクリークと呼ばれるビールを思わせる。(ABV: 6.7%、IBU: 25) 注意: 本稿を執筆中はマダムローズが日本では販売されていない。

ここまで読んで、ある傾向にお気づきだろう。彼らがつくっているスタイルのビールには、イメージに合う女性らしい名前をつけるのが慣例となり、2013年ベルジャンスタイルのファームハウスエール、ジリアンとハリアが誕生した。ジリアンはブルワーのキース・ギャベットの妻の得意料理にちなんで名づけられ、ギャベットはこの味をビールで再現しようとした。アマリロのシングルホップで、ホワイトペッパーとはちみつ、ストロベリーで味付けされたビールは、酸味のあるアロマと口当たりで、ストロベリーシャンパンを思わせる。二次発酵はブレタノマイセスとシャンパン酵母を保有する赤ワイン樽で行われる。(ABV: 8.7%、IBU: 20)

ハリアの名前は、ブルワーであるブライアン・テイラーが亡くした友達を追悼するために選ばれた。ハリアとは、ハワイの言葉で「愛する人を忘れない」という意味を持つ。故人は桃が好きだったことから、二次発酵に桃が加えられた。シャンパンのようにフルーティーで軽めのボディ、色は明るい。(ABV: 7.5%、IBU: 11、アマリロシングルホップ)

『サワーシスターズ』の異名を取るこれらのビールの日本上陸を祝うイベントが、昨年12月15日に渋谷のY.Y.G. ブルワリーで開催された。そして従姉妹の位置付けであるビンテージ・シリーズのソフィーとマチルダも日本で発売されることとなった。

シカゴにあるグースアイランドバレルハウスは、12000平米の広さを誇る木樽熟成専用の設備である。これらのビールが年中いつでも購入可能であれば嬉しいが、手間がかかるプロセスと完成までの所要時間を考えれば、限定発売になっても無理はないだろう。これを悪いことと捉える人もいるだろうが、ユニークな特徴を持った、それぞれの新しいバージョンが出るのを待ち焦がれるのもなかなか良いものである。待つ間に色々なビールを試すには事欠かないのだから。

(注記: 本文中に味わったビールは、2016年製造のロリータ以外は全て2015年のビンテージであった。木樽熟成のビールにありがちだが、熟成期間によって味に変化が起こることがあるのでご留意願いたい。)