India Pale Ale (IPA)

実はこれまでしばらくIPAの解説を書くことを避けてきていた。読者の方々は、19世紀前半にインドは英国の植民地であり、英国からの兵士や官僚、ビジネスパーソンがたくさんいたことを知っているだろう。彼らはビールを飲みたかったが、インドではビールはつくられていなかった。そのため、ビールは本国から送られなければならず、それはビールに4カ月の船旅をさせることを意味した。1820年代に、おそらくジョージ・ホジソンのブルワリーを皮切りに、ブルワーたちは従来よりいくぶん強いビールをつくればよいと理解し始めた。そしてそのビールは相当な量のホップを用い、船上で波の揺れによって非常に熟成が進むものであった。バートンオントレントの特にバス社やアルサップ社といたほかのブルワリーもすぐに追随し、IPAは植民地インドと同様に英国本国でも非常な人気を博すようになった。

第一次世界大戦中に麦芽に課された税は、IPAのボディーの強さを最終的にビターとほとんど変わらないレベルにまで弱めてしまった。しかし復活版は1970年代から80年代にかけて米国で現れた。サンフランシスコにあるアンカーブルーイングのフリッツ・メイタグは、彼がつくったリバティーエールという銘柄でIPAというスタイルを復活させたことで、しばしば尊敬の対象になっている。リバティーエールは米国建国200周年を記念するためにつくられ、ホップは米国で開発された品種であるカスケードだけをふんだんに用いている。リバティーエールはIPAとは呼ばれていないが、この登場は、ホップの香りが立ち、色は薄めで、ボディーはやや強く、きれいな苦みがきいているという、IPAの新しい基準をつくった。米国のほかの小規模ブルワリーもこの考えに則ったビールをつくり始め、瞬く間にIPAは米国のクラフトビール運動を最も象徴するスタイルになった。

しかしIPAをスタイルとしてどのように定義すればよいだろうか。違う種類のIPAが現に存在していることを考えると、それほど簡単なことではない。アルコール度数で分けると、IPA、ダブルIPA、インペリアルIPA、トリプルIPAセッションIPAがある。地理的に分類すればウェストコーストIPA、イーストコーストIPA、ブリティッシュIPA、ベルジャンIPA、オージーIPA、キィウィIPAがある。見た目ではブラックIPA、ホワイトIPA、レッドIPA、ブラウンIPAがある。そしてIPL、つまりインディアペールラガーもある。そしてスモークトIPA、ブレットIPA、ライIPA、バレルエイジドIPA、そしてグレープフルーツや柚子などありとあらゆるフルーツのIPAもある。そしてもちろん、バレルエイジドインペリアルベルジャンブラックユズIPAのような、これまでに挙げたものの組み合わせも、おそらくどこかで誰かがつくっている。

そこで改めて、IPAはどのようなスタイルであると言えるだろうか。これまでに挙げたさまざまなIPAに共通するものは何だろうか。

結論から言えば、IPAはスタイルではない。ビールに対する「態度」である。そしてこれはクラフトビールの世界を通じて最も人気のある態度となった。つまり、ホップがビールで最も重要な部分であるという態度である。IPAは、どんな麦芽や水、酵母を使おうとも、ホップの特徴が最大限に出ていなければならない。IPAはホップ好きのためのビールである。ホップの香り(麦汁煮沸の最終段階で投入されるか、ドライホッピング由来)、味わい(麦汁煮沸の後半で投入されたホップ由来)もしくは後味(長時間の煮沸由来)のどれが好きかによって、IPAを選ぶことができる。チョコレートやキャラメル、ビスケット、パン、クラッカー風の麦芽の味わいがあっても構わない。レモンやオレンジ、グレープフルーツ、サクランボ、ブドウ、マンゴー、パイナップル、パッションフルーツ、そしてドリアンのようなフルーティーさがあっても構わない。苦味が勝っていても甘味が勝っていてもいいし、酸味があっても構わない。IPAをIPAたらしめているのはホップの特徴だからである。

日本はさまざまなIPAを味わうのに適している。国産の銘柄がたくさんあるし、世界中から数多くの銘柄が輸入されている。どれから試すべきか迷ってしまうかもしれないので、いくつかアドバイスをしておこう。

まず、現在のIPA人気の原点を味わうために、なるべく新鮮なリバティーエールから始めよう。次に、ストーンのIPAやドッグフィッシュヘッドの60ミニット、ローグのブルータルビター(なまらにがい)、グリーンフラッシュのウェストコーストIPA、バラストポイントのスカルピンなど、米国の名品を試すといい。

その後、日本の銘柄に移ろう。ベアードブルーイングの帝国IPA(米国風と英国風の合いの子)、志賀高原IPA(苦くて荒っぽい)、常陸野ネストビールのジャパニーズクラシックエール(杉樽で熟成)、いわて蔵のIPA(はっきりとした英国風)、あくらのキィウィIPA(ニュージーランド産ホップ使用)がいいだろう。後は、湘南ビールのシングルホップシリーズからいくつか、そしてワイマーケットブルーイングとスラッシュゾーンで飲めるすべてのIPAを飲んでみよう。どちらのブルワリーもホップの達人だ。IPAの多様性を味わうためには、ノースアイランドのグレープフルーツIPAとスワンレイクビールのベルジャンIPAがいいだろう。その後は、ボディーの強いビールに移るべきだ。まずは日本で初めてこの手のIPAとなった箕面ビールのW-IPAを試し、次に志賀高原ビールのハウスIPAとベアードブルーイングのスルガベイインペリアルIPA(これらは筆者のお気に入り)をお勧めする。こうしたアルコール度数の強いビールが苦手ならば、セッションIPAに行こう(2014年夏号の本連載を参照)。

そうして後は、残りの世界に行ってみよう。イングランドのソーンブリッジ、スコットランドのブリュードッグ、デンマークのミッケラー、オランダのデモーレン、ニュージーランドのエイトワイヤード、イタリアのブリューフィスト、そしてベルギーのオブロンシュフがいい。これらはすべて日本で入手できる。それでもまだ足りない人は、アルパイン、ラッシャンリバー、メイン、ヒルファームステッド、カーネルといったところも巡らなければならないだろう。

さて、目から「IPA」を十分に摂取できたことでしょう。

All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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