Beer Roundup (Winter 2022)

[caption id="attachment_4449" align="aligncenter" width="700"] THE MAKERS OF HORMEL® CHILI CREATE FIRST-EVER CHILI CHEESE KEG[/caption]
友よ、君はそのうち死ぬ。もちろん、これを読んでいるのが人類絶滅後のAIではない場合に限るが。コロナで死ななくても(現在の生存率でみれば心配ない)ありえないほどバカげた原因で、例えば、まだ一輪車が乗れるのを近所の子どもに見せている最中に雷に打たれたり、しれっと落ちてきた隕石の衝撃波(まさかと思うならチェリャビンスク隕石について調べてみよう)で死んだり、またはセグウェイに乗って崖から落ちたりするかもしれない(これは悲しいことに、セグウェイのオーナーの本当の死に方である)。人生におけるバカげたことに必要なもの。それはビールだ。しかし、このコラムでもたびたび紹介してきたように、ビールにもバカげたことがつきものだ。今回もまた、世の中ではなにが起きていたのか見ていくこととしよう。

ケグ(樽)はビールを注ぐために考案された。しかし、缶詰と加工食品の大手、ホーメル(あのスパムのメーカー)が、チリチーズケグなるものを開発した。1月下旬発表のプレスリリースによると、同社ウェブサイトから応募すると、スーパーボウルパーティー用に一つ当選するとのこと。このケグには304オンス(9リットル弱)ものチーズが入っている。花見にもちょうどいいかもしれない。ワサビが出てくるケグはないだろうか? 明太子マヨネーズでもいい。

ふと思ったのだが、まだスパムについての俳句を詠んだことがないなら、詠んでおこう。未来のAIたちに、いかに人間が変で、面白かったかを伝えるために残しておくのだ。

興味深い新事実を発見。ここ数年、複数のメディアも報じてきたが、大のビール好きであるクエンティン・タランティーノは架空のビールブランドをつくって、映画にも登場させてきたという。『デス・プルーフ in グラインドハウス』でも、「オールド・チャタヌーガ・ビア」が劇中のコンビニで販売されている。最近でも、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、ブラッド・ピット演じる主人公が前述の架空ブランドのビールを飲む姿が何度か映っている。さらには偽の広告(ワトソン・デザイン・グループ社制作)まで作り、映画PR用に発行されたデジタルマガジンにも掲載されている。アルコール度数7.4%とあるので、インペリアルピルスナーに近いといえよう。もしかしたら、タランティーノ引退後は(彼自身、引退に言及している)、ビール醸造に乗り出すかもしれない。

ふと思ったのだが、隕石落下(最近増えているような気がする)の映画には架空のビールが必要だ。なぜかといえば、大きな隕石が近づいてきたらビールを飲むほかないからだ。名前は何にする? サヨナラIPA? スマッシュ(SMaSH。シングルモルト、シングルホップの略)ビールはどうだろう?
有名人がアルコールビジネスに参入するのは目新しいことではない。フランシス・フォード・コッポラはワイナリーを所有している。ジョージ・クルーニーはテキーラの高級ブランドを持っている。でもビールは? 以前、ドッグフィッシュヘッドブルワリーとグレイトフル・デッドのコラボについて触れた。また、グースアイランドとドラァグクイーンのシェー・クーレーについても。日本の皆は、ノースコーストブリューイングの「ブラザーセロニアス」を知っている人も多いだろう。このアルコール度数9%のアビーエールは、米国のジャズ教育機関「セロニアス・モンク・インスティテュート・オブ・ジャズ」(現在は改称)とつくられている。どのコンセプトも素晴らしいが、大物スーパースターはまだ現れていないのではないか。さぁここで、コナー・マクレガーの登場だ。派手な言動で世界一有名な総合格闘家である。アイルランド出身のマクレガーは、首都ダブリンに「ブラック・フォージ・イン」というレストランを所有しており、そこで「フォージド・アイリッシュ・スタウト」を提供している。昨年末にマクレガーがこのビールについてツイートしたあと、インスタグラムでも専用のアカウントが作られた。

日本だったら、どんなビールになるだろう。桜庭チョップスタウト? 大谷翔平ダブルフィストピルスナー? これもまた言わずにいられない、ホップにソラチエースを使用した大坂なおみラガー。

スタウトといえば、ギネスが1月下旬、看板商品であるスタウトの売上が直近6ヶ月で30%増加したと発表した。業界関係者は、その要因として、英国の規制解除にともない人々がパブに押し寄せたからだとみている。市場分析をおこなう調査会社CGAによれば、ロンドンで販売されたパイントの10杯に1杯がギネスだったそう。知っている人もいるかもしれないが、ギネスは長いあいだ、スタウトが健康に良いと宣伝してきた(「ギネス・フォー・ストレンクス」のポスターを思い出す)。このコロナ禍で、どれほどの人がそれを言い訳にしてスタウトをたくさん飲んできたのだろう。友よ、君はそのうち死ぬ。しかし、そのパイントがその時期を遅らせてくれるかもしれない。

しかしビールの健康効果を謳っても、営業時間短縮と酒類提供自粛要請を出す日本の行政はきっと耳を貸してくれないのだろう。

このパンデミックでビール業界は混乱に陥ったが、ここ2年、すべてが悪いことだったわけでもない。というより、どんな状況にあっても前に進む人がいるという話を紹介しよう。昨年末、米国のブルワーズアソシエーションが発表したところによると、米国ではブルワリーの数が増え続け(昨年だけで700のブルワリーがオープンした)、現在米国内には9000を超えるブルワリーが営業しているそうだ(日本全体でも500ほど)。しかし、コロナで死んだとされる90万人の死者数を考えるとつじつまが合わない。ブルワリーが増えたことで健康への効果が増したわけではないのだ。ケグチーズはほどほどにしておこう、アメリカよ。

ふと思ったのだが、ケグスタンドはご存知だろうか(今やウィキペディアにも載っている)。ケグスタンドとは、パーティーなどで、友人に体を逆立ちになるように持ってもらい、ケグの注ぎ口から直接ビールを飲むことを指す。お願いだから、これをケグチーズでやるのはやめてくれ。

米国のクラフトビール業界は盛り上がりを見せているが、ドイツは苦境に陥っている。ビールの売上が2020年に5%落ち、2021年にはさらに2%下落した。そう、ロックダウンは日本だけの話でない。しかし、ドイツでビールの販売に制限をかけるとは、ドイツらしくないし、ばかばかしいと感じてしまう。まるで日本が寿司や夏の甲子園を禁止にするようなものだ。米国なら、スーパーボウルのジャンクフードをNGにするようなもの。AIですら理解の範疇を超えているだろう。この世界のマトリックスには異常が発生している。

異常といえば、フランスのブルワリー(そう、フランスにもブルワリーは存在する)、ホッピーアーバンブルー(HUB)が、スピルリナを使用した青いビールをリリースした(青色はスピルリナ由来)。昨年秋に発売されてからというもの、このビールは高い人気を集め、現在醸造量を増やしているそうだ。このニュースは日本のビアフェス歴の長いファンにとっては驚くことではないだろう。富山にある城端麦酒ではずいぶん前から青いビール(夏限定の「グレートブルー」)をつくっており、高い人気を誇ってきた。ビアフェスでひとたび目にしたら、忘れられないビールである。

巧妙な仕掛けはうまくいくこともある。1月にバドワイザーが、合計10,000缶の金色の缶を米国全土で販売されている24缶入りケースの中にランダムに入れ、見つけた人は抽選で100万ドル(1億2千万円弱)がもらえるというキャンペーンをおこなった。英国のブリュードッグも類似したマーケティング戦略を展開したことがある。このアイデアは「チャーリーとチョコレート工場」を思い出させる。映画では、チョコレートに金色のチケットが入っていれば、工場を見学し、継ぐ権利が与えられる。日本のクラフトブルワリーを継ぐ権利が当たったなら、どのブルワリーがいい? あなたの答えを聞かせてほしい!

さて、不条理だらけのこの壮大なショーについて考えるのも、この辺にしておこう。隕石(雷かも)が落ちてくるかもしれないことを頭に入れて、今のうちにビールを飲んでおこう。黒、青、何色のビールでもいい。

This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.