Beer Roundup (Autumn 2021)

(photo: Austria, home of beer poop)
19世紀、のどが渇いたカリフォルニアの金鉱労働者たちは、渇きを癒すために大量のスチームビールを飲んでいた。今回我々もこのコラムを執筆するために、世界中からいろいろな情報を掘り集めたので、数リットルのビールは飲めそうなほどカラカラに渇いている。さぁ、一緒に焚き火のそばに腰を掛けて、飲みながら話そうではないか。

掘る場所は選んだほうがいい。というのも、学術雑誌『カレントバイオロジー』が10月中旬に発表したところによると、2700年前、現在のオーストリア国境内にある岩塩坑で、鉄器時代のヨーロッパ人もブルーチーズとビールを楽しんでいた痕跡が見つかった。この研究は、排泄物を分析して行われた。いわゆる自然に保存された古代のウンチである。

このニュースに対抗するように、中国南西部で発掘調査を進めている考古学者のチームは、9000年前に”ビール”が飲まれていたという証拠を発見した。残念ながら、今回はウンチは見つからなかった。出土した古代陶磁器から米、イモ、菌類を使用した発酵飲料の残留物が見つかったと、9月初旬に『スミソニアン』誌が報じている。これらの陶器は2体の人骨のそばに置かれていたという。研究者たちは、死者を弔うために飲まれていたと推測している。

人生をたたえるためのビールはどうだろう? 米国の複数のニュースサイトが、ペンシルバニア州に住む106歳のおばあちゃんが毎日、イングリング(米国でもっとも歴史の長いペンシルバニア州にある家族経営のブルワリー)のラガーを飲んでいると報じた。これを耳にしたイングリング社は、トラックいっぱいのビールを彼女にプレゼントした。同ブルワリー6代目を務めるデビー・イングリングも、彼女の自宅を訪れて一緒に乾杯したそうだ。

代々引き継がれていくブルワリーは数少ないが、ビアパブになるとさらにその数は減る。英国オックスフォードにある創業400年以上のパブ「ラム&フラッグ」も閉業寸前まで追い込まれたが、熱心なファンと地元企業のグループの支援によって危機を免れた。1930~40年代、この店はJ・R・R・トールキン(『ホビットの冒険』と『指輪物語』の作者)やC・S・ルイス(『ナルニア国ものがたり』)などの作家の待ち合わせ場所となっていた。今回更新された長期契約のおかげで、今も、そしてこれからも作家たちが集まるたまり場となっていくことだろう。

「男がバーに入っていくと」ではじまる古典的なアメリカンジョークがあるが、ノースカロライナ州シャーロットでは、ジョークでは済まないことが起こった。男がバーに入っていくと、ドリンクを注文して、テラス席で誰にも気づかれることなく、何気ない様子で飲んでいた。この男は、なんとローリングストーンズのミック・ジャガーだったのだ。そこにいただけでなく、周りにいた人に写真を撮るように頼み、それを自らSNSに投稿した。彼がなにを飲んでいたのかを知るため、本誌研究チームは写真を解析したかがわからなかった。また彼の排泄物を分析するのは不可能であったことを付け加えておく。

今年1月6日にワシントンD.C.で起こった米議事堂乱入事件で、建物に侵入した人々は逮捕されすでに起訴されているが、そのうちの一人、アンドリュー・エリクソンはナンシー・ペロシ下院議長の執務室に入り込んだ罪を最近裁判所で認めた。彼はペロシのミニ冷蔵庫からビールを盗んだ罪も認めている。今回は茶色い物体の分析は必要ない。動画からコロナライトだったことが判明している。

米国の政治がすべてクソなわけではない。共和党も民主党も、美味しいビールのためなら力を合わせることができる。10月下旬、米国のメディア『NPR』が、今年第4回目を迎えるアンハイザー・ブッシュ・インベブ社主催「ブルー・アクロス・アメリカ・コングレッショナル・ビール・コンペティション」の審査結果を伝えた。この大会のルールは、議員のペア5組が、米国各地のブルワリーとコラボしてビールをつくり、審査のために議会へビールを持ってくるというもの。ポイントは、共和党から1名、民主党から1名でペアを組むという点だ。この「ブルワー」たちは、出身州産の原材料や、少なくとも地元をテーマにしたビールをつくった。日本でもやってみたら面白いのではないだろうか!
ビールは政治的な橋渡し役にもなるが、メディアの心をつかむのにも役立つ。10月下旬『タイムズ・オブ・イスラエル』紙は、イスラエルの「ナショナル・ドローン・イニシアティブ」が、ドローンを利用してタイムズのメンバーに寿司、ビールやアイスクリームを届けたと報じた。これは、ドローンの配送能力を示すためのデモンストレーションの一つだった。以前、このコラムでも似たような試みを紹介してきた(ハイネケンの車輪付きロボットなど)。科学者の皆、ビールを冷蔵庫にテレポートできるようになったら教えてくれ。

SFが現実のものとなる話に関連して、テスラ社CEOイーロン・マスクがまたニュースになっている(いつも話題になっている気がするが)。今回は、同社初のEVピックアップトラック「サイバートラック」にインスパイアされた「ギガ・ビール」を醸造するという話だ。マスクは、ベルリン近郊のギガファクトリーの操業開始を記念しておこなわれたイベントで、「ギガ・ビール」のコンセプトを発表し、大きなスクリーンにはサイバートラックのような形のボトルが映し出された。マスクが宇宙に世界初のブルワリーをオープンしても我々は驚かないだろう。

さて地球に帰還しよう…… 文字通り、地球に還るという話。英国では9月下旬、墓地でビアフェスがおこなわれた。正確にはストックトンオンティーズにある、1000年の歴史を持つ聖マリア教会の「敷地内」ということになるが、まぁそれは置いといて。教会の運営資金を集めるため4日間にわたって開催されたこのフェスティバルでは、訪れた客の中に墓石の上にビールを置いて、墓の周りで写真を撮る者もいた。写真がSNSに投稿されると、予想通り激しい批判を受け炎上した。中国の9000年経つガイコツたちも首を振っていることだろう。

我々は、ハードセルツァーの売り上げ不振を受けて、ボストン・ビール社の株価が26%下落したニュースに首を振っている。このコラムでも以前からかったことがあるが、セルツァーブームはバブルと同じように泡となって消えていった。米国人の皆、もう一回言わせてもらう。ハードセルツァーなんかより、スパークリング日本酒を飲みなさい。我々の排泄物を分析するであろう未来の科学者たちにもこう笑われるだろう。「9,000のクラフトブルワリーがあったのに、これを飲んでいたのか?!」と。

未来の科学者たちが存在するためにも、人間は地球の環境を守っていかねばならない。真面目モードに戻るが、世界中のブルワリーがこの問題に真摯に取り組んでいることをお伝えできることをうれしく思う。先日、バドワイザーが、再生可能エネルギーを100のアイリッシュパブへ供給するためソーラーパネルの設置を支援することを発表した。また、これ以外にも、同社は今年初め、アイルランドでのバドワイザー製造にかかる電力すべてを、風力と太陽光で発電された電力でまかなうと表明している。

米国のニューイングランド地方では、複数のクラフトブルワリーが手を組んで、6缶パックを束ねるプラスチックのパーツ「トッパー」の問題に取り組んでいる。トッパーは理論的には再生利用が可能だが、現地のリサイクル工場で受け入れられていないため、ブルワリーは非営利団体「マスリサイクル」と協力し、回収して再利用する仕組みを編み出した。一方、『メイン・パブリック』が報じたところによると、メキシコの企業が農業廃棄物と繊維を使用した、生分解するトッパーの製造を開始。そしてニューイングランドにある移動式缶充填ラインを運営する企業が、そのトッパーを缶に装着させる機械を開発した。現在ではこの地域の7つのブルワリーがこの装置を使用している。

年の瀬が近づいているが、本誌が寄付をする団体を決める時期でもある。我々も環境保全活動を支援することに重点を置いており、持続可能な資源を利用する努力をしているが、もっとできることはあると考えている。本誌はこれまで、森林、海洋や気候の研究機関へ寄付してきた。今後も一層力を入れて取り組んでいくつもりだ。同じように、懸命に環境問題に取り組むビール業界の同士たちに敬意を表したい。


This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.