(photo: a YOHO Beer celebration)
多くの人にとって、2020年は最近の記憶の中で最悪な一年だったことだろう。そして2021年になっても、状況はあまり変わっていない。日本のワクチン接種を取り巻く問題、続く感染拡大、営業停止、経済を刺激する観光もできないまま、そしてリーダーシップに欠く政治家たち……ここからさらに状況は悪化しうるだろうか?
『ナショナルジオグラフィック』誌や複数のメディアが米国東部の「ブルードX」について報じている。ブルードXとは、17年ごとに羽化するセミを指す。セミは、日本では昔から文学のモチーフ(俳句が良い例だ)や文化の一部として大切にされてきたが、今年はニューヨーク、ペンシルベニアやワシントンD.C.で、文字通り数兆匹のセミが一斉に羽化する見込みだ。米国の開拓者たちは、はじめてこの現象に遭遇したとき、旧約聖書に登場するバッタの大量発生(蝗害)が起きたと勘違いするほどだった。もしこれらのセミが、「ゾンビセミ」だったら……? ちょっと本気で想像してみてほしい。2021年は生き地獄のような年になるだろうし、この調子じゃゾンビセミもありえるかもと思ってしまう。備えとして、核シェルターならぬセミシェルターに十分なビールを備蓄しておこう。そして俳句を書くための筆も忘れずに。
閑さや
岩にしみ入る
蝉の声
ー松尾芭蕉 1689年
閑さや
脳にしみ入る
ゾンビセミ
ー患者X 2021年
セミシェルターに隠れているあいだ、外の世界が恋しくなったときにぴったりのものを紹介しよう。ミラーライトが、飲み屋の匂いがするキャンドルを発売した。こぼしたビール、汗とゲロの匂いが地下シェルターに立ち込めるているのは魅力的に感じないかもしれない。ありがたいことに、キャンドルは「ムスク(ジャコウシカから採れる香料)、タバコ、松ヤニと酵母」の香りがするらしい。キャンドルの燃焼時間は50時間で、販売利益はサービス業支援に役立てられるとのこと。
地下施設といえば、考古学者のチームがエジプトで世界最古のビール工場を発掘した。砂漠の中にある、墓地が多いアビデスで発見されたこの工場は、エジプト第一王朝(紀元前3150年~紀元前2316年)のものと推定されている。長さ20メートルと幅2.5メートルの部屋が8つあり、水に浸した穀類が煮出されていた40ものたらいが2列にわたって置かれていたという。おっと、墓地近くのビール工場? 時代や文化が違っても、我々人間は結局のところ似たもの同士なのかもしれない。当時、疫病が発生したり、バッタが大量発生したりしたときには、持ち帰り用のグラウラーを売っていたのかはわからないが、その可能性もありそうだ。
閑さや
ミイラもにんまり
グラウラー
疫病やゾンビセミを乗り越えたとしても、天災が襲ってくるだろう。しかし絶望するのはまだ早い! よりよい未来のためにできることはまだある。十分に納得しないと行動に移さない人のために、ニューベルジャンが「トーチド・アース」なるビールをリリースした。このビールは、自然破壊による天災で、原料が影響を受けた場合のビールの味を予測してつくったもの。大麦がない? ではアワだけで。そして山火事のように強めに燻す。ホップ? 代わりにタンポポでも入れよう。ニューベルジャンの開発チームのブルワーたちは、実際に山火事でブルワリーの水の供給が脅かされていたことから、山火事で燻された水を使うこともできたと話した。出来上がったビールは、よく火が通った感じで、新鮮さはあまりない。このビールの目的は、行動に移さなければ我々の食べ物(飲み物)がこうなってしまうよ、と示すことにあるのだ。
ニューベルジャンは、環境問題に積極的に取り組むブルワリーの一つで、クリーンエネルギーの使用、二酸化炭素排出の抑制など、持続可能な取り組みに力を入れている。以前このコラムで触れたが、ビール業界全体で見ても環境に配慮した対策や技術を取り入れている傾向にある。本誌も紙の使用量に配慮し、毎年自然保護団体や二酸化炭素の排出削減に取り組む環境NPOに寄付している。また印刷会社とも持続可能な紙の調達について対話を続けている。我々はビール業界の仲間とともに、カーボンフットプリント(温室効果ガスの排出量)をゼロにして、使っている分を完全に補填したいと考えている。地球が住めない場所になってしまったら、コロナもゾンビセミもぎゅうぎゅうの通勤電車も、乗り越える意味がなくなってしまうからだ。
昔ながらのハエ叩きではゾンビセミはやっつけられない。良いテニスラケットと、ものすごいスピンをかけられるフォアハンドをくり出せる人物ならどうだろう? グランドスラム20回の優勝経験を持つ、スペイン出身のラファエル・ナダルなら我々を救ってくれるかもしれない。ナダルは子どものころドラゴンボールが好きだったらしいので、きっと彼はやってくれるだろう。また彼はアムステルビールのアンバサダーに就任して、今後3年間活動をおこなうそうだ。テレビコマーシャル、看板、雑誌やSNSで登場するらしい。アムステルは150年の歴史があるオランダのブルワリーだが、ナダルはまだ現役選手なので、おそらく軽めのビールを宣伝すると我々は予想している。
閑さや
サイヤ人ナダルが
セミ退治
ビール会社がスポーツ選手のスポンサーになるのはめずらしいことではない。例えば、アサヒビールは錦織圭のスポンサーをしていた。過去に当コラムでも触れたが、ドイツではビールがスポーツ選手の疲労回復ドリンクになりうるかの研究がおこなわれていた。米国の主要紙である『USAトゥデイ』が去る3月、多くのブルワリーが「スポーツドリンクビール」を売り出そうとしていると報じた。これらのビールはたいてい低アルコールで低カロリーだが、最近では原料にビタミンとミネラルを補うチアシードやそばの実を使用したり、電解質を含んだ商品も販売されている。これらは1980年代にあったライトビールとはずいぶん違ってきている。これはほぼドーピング! しかし、我々のほとんどが、ビールによって我々の秘められた力を引き出されていることを身をもって知っているのではなかろうか。
それはないと思っている人は、自分でやってみてはどうだろう。横浜ビールにはランニングクラブ(コロナの影響で活動が縮小している場合もあるので、開催日時については要問合せ)があるし、ミッケラー東京のハミルトン・シールズも大規模なランニングクラブを主宰している。もちろん、ほかにもいろいろあるだろう。もしビールとランニングが大好きで、「ビアマイル」について聞いたことがない人は調べてみよう。ルールとして、400メートルを4周回するタイムを競うが、各周回ごとに350ミリリットル以上の缶ビールを1缶飲まなければいけない(こぼさないように。そして吐かないように……)。これは競技ではなくアルコールの乱用にあたるのではないかという議論がこれまで何度となく交わされてきたが、それはさておき、記録には目を見張るものがある。男子の世界記録は5分以下なのだ! IOCがこれらのようなスポーツを取り入れたら、日本のオリンピック開催にもっと支持が集まるかもしれない。またアルコール提供禁止の要請で打撃を受けた地域のビール産業も潤うことだろう。
今もなお続く緊急事態宣言は我々の心をどんよりとした気分にさせるので、明るいニュースに目を向けることにしよう。ヤッホーブルーイングが「働きがいのある会社ランキング」中規模部門で5年連続でベストカンパニーに選出された。ヤッホーの陽気な、時にはおどけたマーケティング戦略は読者もご存知のことだろう。その精神は職場にも浸透しているようだ。『フォーチュン』誌やほかの団体が以前から指摘しているように、そのような企業は成功を収める傾向にあり、商品の品質も高まっていくそうだ。元気でサポート体制が充実している職場環境を実現しているヤッホーに拍手を送りたい。我々もぜひそうしよう。在宅で仕事しているなら、まずビールを。
閑さや
労の間に飲む
甘美な一杯
今回も読んでくれてありがとう。本誌では俳句を募集している。インスタグラム(@japanbeertimes)やツイッター(@JapanBeerTimes)で我々をタグ付けして、あなたのビール俳句をシェアしよう。では皆、健康に気をつけて。
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