2020年よ、さようなら。多くの人々にとって、生涯でもっとも「異常」だった一年として2020年は記憶に刻まれるだろう。しかし、ビール業界のニュースを見ていると、世界はいつでも少し異常なのだと思えてくる。とくに世界でもっとも異常な国、米国では。
米国全土で展開している朝食レストランチェーン「ワッフルハウス」(24時間営業、年中無休)は昨年11月、同社初の公式ビールを発売すると発表した。同じくジョージア州を本拠地とするオコニー・ブルーイングとのコラボレーションで生まれたこのビールは、ベーコン&エッグではなく「ベーコン&ケグ」と名付けられた。ベーコンを漬け込んで醸造されたこのビールは、まさしくベーコンの香りがするとのこと。アルコール度数6.5%のこのレッドエールは、米国で最初のベーコンビールというわけではないようだが、ワッフルハウスのような大手が販売するとなれば、我々としては新しいビールカテゴリーを考えなければならないかもしれない。ちなみに、日本で似たような発想でつくるとすれば、納豆ビールだろうか。
本稿執筆時点で、コロラド州の複数のメディアが報じたところによると、地元のブレッケンリッジ・ブルワリーが、トナカイ(訳者註:トナカイは英語でreindeer(レインディア))の牧場であるムーンディアランチと手を組み、当選者10名に対し、クリスマスビールの小型樽を実物のトナカイを使って配達するという特別キャンペーンを行っている。同ブルワリーは、このイベントをレインディアにちなんで「レインビア・デリバリー」と呼んでいる。キャンペーン当選者は、トナカイに触ったり餌をやったり一緒に記念撮影をすることが可能。サンタ夫妻はクラフト好きという話があるので、二人がビールに触れないように対策を取ったことを願う。受け取った樽がカラになっていたら悲しすぎる......
苦手な人は閲覧注意:ドナルド・トランプについて話そう(彼の1期目もまもなく終わりだ)。選挙での敗北から間もないころ、トランプ氏のチームメンバーたちはフォーシーズンズで記者会見をおこない、選挙に不正があったと主張したが、その記者会見場はあの有名なフォーシーズンズホテルではなく、同じ名前の造園会社が所有する駐車場だった。そして記者会見の内容は気の毒なくらいひどいものだった。フォーシーズンズホテルでの記者会見を希望していたトランプが、同ホテルで会見を開催するという内容の発表を急いだので、後戻りできなくなったのだろう、と一部メディアは推測している。彼のチームスタッフがフォーシーズンズホテルの予約を取れなかったため(ホテル側に断られた?)、同じ名前のところはほかにないかと大慌てで探しまわった結果、火葬場とポルノショップに挟まれた、あの駐車場での珍妙な大統領記者会見となった、というのである。
当然ながらこの話はネット上で格好のネタになり、大々的に取り上げられた。そこでその造園会社は「Make America Rake Again(アメリカをもう一度熊手で掃いてキレイにしよう)」と書かれたTシャツの販売をはじめた。アイルランドにあるラスカルズ・ブルーイングもこの騒動に便乗(悪乗り?)し、「フォーセゾンズ造園」(フォーシーズンズと、ビアスタイルのセゾンを掛け合わせたジョーク)というファームハウスエールを発売。しかも「負け惜しみ」という意味合いを持つ、酸味の強いブドウを原料に使っている。ボトルラベルには、トランプの顧問弁護士を務めるルドルフ・ジュリアーニが、Make America Rake Againと書かれた横断幕をバックに、演台に立っている姿が描かれている。バイデンの大統領就任祝賀会では、バイデンがこのビールを注いで回るかもしれない。
露骨な政治的言動で世間を騒がせているアメリカのヒップホップデュオ、ラン・ザ・ジュエルズは、また新たなコラボレーションビールのキャンペーンを開始した。本コラムでは過去にも、アーティストとビールのコラボレーションについて取り上げたことがあるが、ラン・ザ・ジュエルズはとりわけ真剣で、真面目な取り組みを続けている。まず、彼らのウェブサイトを見るとRun the Brewsというドロップダウンメニューがあり、そこを開くと彼らのオリジナルビールが閲覧できる。彼らのオリジナルビール第1号である「ステイゴールド」は、ある有名なビール専門誌で2017年のIPA of the Yearに選出された。2013年にはすでにグースアイランドとのコラボレーションビールを音楽フェスで出していたラン・ザ・ジュエルズだが、好評を博した2017年のIPA以降、彼らは数多くのビールを手掛け、自身が開催するライブで販売してきた。新作「ノーセーブポイントIPA」は、7か国から13ものブルワリーの協力を得てつくったという、これまででもっとも大規模なコラボレーションビールである。ヘイジーIPAのレシピをベースとして、そこに各ブルワリーがそれぞれ独自のアレンジを加えているこの手法は、国境を越えた最近のコラボレーションビールに共通して見られる流れに沿ったもの。また彼らはブルックリンブルワリーとも大型プロジェクトの計画を練っているようなので、これも楽しみだ。彼らは音楽ユニットなのか、それとも飲料会社なのか? 今は両方同時になれる時代なのだろう。ところで、日本にその先駆者がいることをご存じだろうか。横浜が誇る「スラッシュゾーン」のオーナー兼ブルワー勝木恒一は実力派スラッシュメタルギタリストで、ライブ活動も行っている。今後は、オペラとビールのコラボイベントなども出てくれば面白いだろう。
去年の12月、アドベントカレンダーのビール版が売られているのを発見した。アドベントカレンダーとは、クリスマスまでの日数をカウントダウンするためのカレンダーで、12月1日からはじまるものが多い。日にちが書かれた小窓を毎日めくっていくと、イラストや物語の一編が出てきたり、お菓子やおもちゃが出てくる、というのが従来のスタイル。最近ではLEGO社製のような子供向けや、ビールケース上部の小さなフタに日付が書かれていてそれを開けていくと、毎日違った種類のビールが現れ、毎日違うビールが飲めるという、大人向けお楽しみバージョンもある。ストーンブリューイングは、12種類のIPAが入った12日分アドベントカレンダーを発売した。こういうものが出てくると、自分オリジナルのものが作れるのでは、と思えてくる。時期もクリスマスに限らず、年中いつでもいいのでは? 自分のため、あるいは誰かにプレゼントするために作るのも楽しそうだ。まずは近所の酒販店へ行って、ビール選びからはじめてみよう。
米国以外の国でも何かやってないかと探ってみると、やはり英国でやっていた。ブリュードッグはいつでも何か企てている。11月に同社が発表したところによると、24金の純金でつくられたパンクIPAの缶を、12缶パックの商品に無作為にを紛れ込ませていくという。このニュースを聞いて、映画『夢のチョコレート工場』を思い出したした読者はさすがだ。1缶あたり15,000ポンド(約20,000米ドル)相当の純金製パンクIPAを、10缶紛れ込ませるというのが今回の企画。詳細は以下のとおり。「当選缶」は通常の缶と見た目は同じだが、金色のステッカーが巻いてある。後日、その缶を純金缶と交換してもらえる。さらに副賞として10,000ポンド相当の同社株券と、創業者の案内による、本社プライベートツアーが付いてくるらしい。あれ? 映画みたいに、工場経営権をもらえるチャンスはないのだろうか?
本誌第43号の本コラムで、パブスト社が99缶入りパックを発売したことを取り上げたが、これはもともと、テキサス州のあるクラフトブルワリーのアイデアにヒントを得たものだった。遅かれ早かれ、どこかの大手メーカーがこのアイデアを横取りすることは目に見えていたが、やはりそのとおりになった。オーストラリアのクラフトビール専門チェーン店クラフト・カーテルは、独立系クラフトブルワリー25社のビールを100本詰め合わせたカートンを発売したが、これは新型コロナウイルス禍によるロックダウンにあえぐクラフトブルワリーをサポートするために考え出されたもの。このカートンならアドベントカレンダー3か月分を超えるビールが入っている! 365本入りはいつ発売されるのだろう?
オーストラリアは麦芽の輸出が急増するかもしれない。輸出相手国はインド。世界第二位の人口を抱えるインドでは今、クラフトビールブームが起きつつある。11月30日付ブルームバーグの記事では、インドが世界最大のビール市場の一つになるかもしれないと報じられている。インド国内のビールメーカーの需要の伸びに応じて、ビール原料の供給も当然増えなければならない。一方、オーストラリアは中国との貿易摩擦が続き、今年中国はオーストラリアに対し、80%の関税を課すことを決定した。これは事実上、オーストラリア産の麦芽が中国から締め出されたことを意味する。今後、中国に代わってインドが麦芽の輸入を増やせば、オーストラリアの大麦栽培農家を救うことになるだろう。それが実現して、オーストラリアの大麦栽培農家でもディワリ(インドのヒンドゥー教のお祭り)が盛大に行われるようになることを期待しよう。
そうはいっても、中国がビールの生産をやめてしまうなどということはあり得ない。実際、ドイツ風の「ビールの町」が、約20億米ドルの予算を投じて、四川省南西部に現在建設中である。全体で170ヘクタールの広さを誇るこの町には、ドイツの都市ハイデルベルグを思わせる製造施設や建造物が建てられる予定だという。この町を訪れる際にはレーダーホーゼン(ドイツの伝統的な革製半ズボン)を着けて行けば、町の雰囲気に完璧に溶け込めるだろう。
日本でも、ドイツスタイルのビアホールやドイツビール専門店は一般に浸透している。実際そういったお店は全国にたくさんあり、中には素敵なお店もある。とくに、富士桜高原麦酒は世界レベルを誇っている。ここもレーダーホーゼンを着て行けば完璧。お店の雰囲気に120%溶け込めるだろう。
This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.