Beer Roundup (Summer 2020)


続く新型コロナウイルス。それによって続く注意しながらの生活。そして続くビールへの欲求。

少なくとも後者は、ウイルスから回復した103歳の女性がたどり着いた結論だ。5月下旬に複数のメディアで報じられたとおり、マサチューセッツ州に住むジェニー・ステイナは新型コロナウイルス感染後、一時危険な状態に陥り、家族もお別れをするよう言われていた。ところが見事な回復を遂げた彼女は、医療スタッフにバドライト(バドワイザーライト)が飲みたいとお願いする。そしてジェニーが美味しそうにビールを飲んでいる写真は広く拡散された。このコロナ禍が終わったら、皆はどのビールでお祝いする予定だろうか?

気を付けながらもビールを飲むことはもちろん可能だ。先日、世界的ブランドのステラアルトワはオバマの「HOPE」ポスターで有名となったシェパード・フェアリーと手を組み、安全な距離を保ちながらビールを楽しむことを促す目的で作品を制作した。フェアリーが語るように、現在ソーシャルディスタンス(社会的距離)を保つために使用されている間仕切り、縄やプラスチック製品より芸術作品のほうが望ましい。ロンドンにあるトゥルーマンブルワリーの地面に描かれたこの作品は、縦14メートル横28メートルのサイズで、女性がグラスを持ち、人々が座るスペースには泡が描かれている。客が作品の一部になる算段だ。とはいえ、人々が飲んでいる様子はある意味いつでも芸術的といえる。ビールを手にしたなら、あなたも最高傑作だということを忘れてはならない。

それに関連して、シカゴ在住のドラァグクイーンのスーパースターであり、クィア(性的マイノリティ)コミュニティの活動家でもあるシェー・クーレーは地元のブルワリー、グースアイランドと手を組んで「シェー・クーレール(訳注:クーレーとエールがかかっている)」と名付けられたビールをつくった。収益の一部はトランスセクシャル女性の職業訓練と就職あっせんを支援する団体、トランステックに寄付された。このビールはウィートエールで、レモンのような特徴があり、夏にぴったりな仕上がりだ。キャッチフレーズはこのとおり:彼女が来た。彼女はクィアだ。そして彼女はビールだ。(トランステック様、弊社もコピーライターを募集してます)。

ビール業界に携わる人々や物知りな読者なら、これまで触れたビールブランドがすべて、バドワイザーも所有する多国籍企業アンハイザー・ブッシュ・インベブ傘下であることにお気づきだろう。同社は20世紀初頭からチェコのブルワリー、ブドヴァイゼル・ブドヴァルと商標権を巡り争っている(もう一つのバドワイザーメーカーは米国ミズーリ州セントルイスに本社がある)。とにかくこの争いは複雑なのだ。ブドヴァルは去る6月、欧州内の輸出が好調に推移し、2019年の生産量と収益が過去最高を記録したと発表した。ライバル同士である2社のコラボレーションはしばらく行われないだろう。しかし、もしコラボビールが発売されたら、103歳のジェニー・ステイナは知りたいと思うかもしれない。

誠意をもって取り組んでも、コラボレーションにはしばしばトラブルが起こる。夏の初め、スウェーデンのオムニポロと英国のバクストンブルワリーは、人種差別を非難するべく「イエローベリー(「臆病者」を意味し、集団の中に隠れて匿名で行動する人を指す)」という名前のコラボビールをつくった。ボトルのパッケージには、シーツか衣服のフードに開けられたような2つののぞき穴が空いていて、誰かが隠れているかのようだ。KKK(クー・クラックス・クラン。白人至上主義団体)のように。ある米国のバーで、客がこのビールを頼んだ。この「フード」に覆われたビールが出てきたとき、彼は仰天した。この客は黒人だったのだ。インターネット上には批判が殺到したが、中には瓶の裏には反人種差別の意図が明記されており、騒ぎすぎだという意見もあった。このような間違いを起こして袋叩きにされた経験がある企業なら、輸出する場合は商品名やパッケージなどに人一倍気を使うことが大切だと教えてくれるだろう。しかし、これら二つのブルワリーの良心的な意図には敬意を表したい。オムニポロのビールは日本でも飲めるので、ぜひ飲んで応援しよう。彼らのビールはとても美味しい!

同じように社会正義の考えの下で行われたコラボビールの試みに、「ブラック・イズ・ビューティフル・ビール」がある(これは上々の反応を得ている)。このコラボレーションは、シエラネバダブリューイングの「レジリエンス」(北カリフォルニア山火事の災害支援)や、もっと最近ではアザーハーフブルーイングの「オール・トゥギャザー」(新型コロナウイルスによって収入が減ったサービス業就業者支援)と似ている。ともに、主導するブルワリーが基本となるレシピを公開し、ほかのブルワリーは少々手を加えることができる。そして各ブルワリーは同じ商品名でビールを販売し、売上の一部を寄付する仕組みだ。ブラック・イズ・ビューティフルは、テキサス州サンアントニオにあるブルワリー、ウェザード・ソウルズ・ブルーイングの共同創業者兼ブルワーのマーカス・バスカービルによって立ち上げられた。基本レシピは「黒にもさまざまな色味があり、黒人への賛美を示すため」、アルコール度数が高めのスタウトに設定されている。本稿を執筆している現在、20か国で1000を超えるブルワリーが参加を表明している。収益は、警察改革、不当な扱いを受けた個人や、地域コミュニティでの平等・共生社会を目指す地元の団体へ寄付するよう参加ブルワリーに呼びかけている。日本では京都醸造がこのプロジェクトに賛同、収益は京都弁護士会が運営する「京都府人権リーガルレスキュー隊」に寄付される。京都醸造のウェブサイトには「この法的支援基金は、弁護人を求めていけれども支援なしでは弁護費用を賄う手段のない人々を支援するものです」と記されている。京都醸造の皆、支援してくれてありがとう! 黒の色は美しい。そして公平さも。

米国で続く現代の社会正義運動を背景に、ブルックリンブルワリーの醸造責任者、ギャレット・オリバーはBIPOC(黒人、先住民と有色人種)のブルワーと蒸留家を支援する基金を設立した。「マイケル・ジャクソン・ファンデーション・フォー・ブルーイング&ディスティリング」と名付けられたこの財団では、奨学金のほか、技術教育やキャリアアップを支援する。米国市民(海外領土を含む)と永住権を持つ人々が対象だ。日本にも何度となく訪れているオリバーは、次のリーダーを決めるまでの5年間代表を務める。気づいている人もいるかもしれないが、団体名ともなっている伝説的なビール評論家マイケル・ジャクソンはBIPOCではない。しかしウェブサイトには、彼がビールコミュニティに寄与した功績を称えるものだとし、また彼は「強い意思を持った反人種差別主義者」だったという。

皆、今は大変な時代だ。新型コロナウイルス、政情不安、社会的不平等......そして税金。オーストラリアでは8月上旬にビールの増税が予定されていて、ビール業界と消費者は施行を先送りしようと働きかけている。現在、オーストラリアでは1リットルあたり2ドル26セント課税されていて、デイリーメール紙(英国)によれば、ノルウェー(3ドル46セント)、日本(2ドル92セント)、フィンランド(2ドル46セント)に次ぐ世界4番目の高さであり、増税後は2ドル29セントになる。オーストラリアの法律では、1983年以来、消費者物価指数に合わせて年2回ビール税が引き上げられている。3セントの違いは大したことないように思うかもしれないが、買うビールすべてに適用されることを想像してみよう。つまりそういう原理だ。なんてこったい。このコロナの時代、抵抗すべきだ! オーストラリアのブルワーズアソシエーションCEOブレット・ヘファーマンは「オーストラリアのビールで一番高価な原料は税金だ」と語る。一方、ドイツでは1リットルあたり13セントしかかからない。オージーの皆、もし延期にならなければこのことを思い出してほしい:それでも今の日本の税率と同じになるには10年かかる。

ここで、オーストラリアのこの新商品が増税後いくらになるか考えてみよう。その商品とは、99缶パックのビールだ。米国の大手ブルワリー、パブストブルーリボンは6月、オーストラリアで99本入りの限定パックを発売した。ヒットしただろう、もし車に積めたなら。まるでコストコで売られているサイズをさらに極限まで大きくしたようなものだ。重さは37キログラムあり、総量は32,670ミリリットル。実はこのパックは2017年にカナダで、2019年に米国で限定の「ファミリーパック」として発売されていた。だが「ファミリー」で楽しむわけがない。このライトラガーはヒップスター御用達のビールとして有名なのだ(オーストラリアでも同様にカルト的な人気を誇る)。しかし、この商品が発売されたことを巡り、もっと興味深い裏話があった。

パブストは99缶パックのアイデアを、クラフトブルワリーのオースティン・ビアワークス(テキサス州)が2014年に99ドルで発売した「ピースメーカー・エニタイム・エール」の99缶パックから「借りた」と認めた。このパックには2011年にグレートアメリカンビアフェスティバルで銀賞を受賞したエクストラペールエールが入っている。オースティン・ビアワークスはアイデアの盗用に不満を表し、ツイッター上で批判した。ウェブサイトでも「99%イラついている」と怒りを露わにした。オーストラリア出身のパブストの統括部長、マット・ブルーン(だからオーストラリアで発売したのかもしれない)は、オースティン・ビアワークスに電話をかけ謝罪した。パブストは迅速にクラフトブルワリーからのアイデア盗用を認めただけでなく、オースティンに住む恵まれない住民が休暇シーズンに美味しい食事が食べられるよう、9999ドル99セントをセントラルテキサスフードバンクに寄付した(その食事にパブストビールがついてきたかは不明)。オースティン・ビアワークスはそういった心遣いに感謝し、この問題は解決した。そしてツイッターに冗談めかして「オーストラリア訛りのある人に怒るのは不可能だ」と投稿したのである。

This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.