Beer Styles: Wafu Beers with Japanese-style Additives


"Chabeer" at Kyoto Beer Lab


恐縮ながら言わせていただくが、日本のクラフトビール業界にはいつもちょっとしたコンプレックスがある。日本にはこの国で生まれた独自のスタイルのビールが存在しない(「ドライ」の元となるアイデアはドイツで誕生したため、日本独自のスタイルと見なすことはできない)。ベルギーのビールは他に類を見ないほど独創的で、サワー・ランビック、フランダース・レッド・エール(別名:サワー・ブラウン)、スパイス・ストロング・エールらは、はっきりとベルギービールだといえる。同様にスタウトとビターといえばイギリス諸島発祥である。チェコはピルスナーであり、ドイツは地域ごとに異なる代表的なビールがあるように思われる。そして、世界中で模作されているホッピーIPAといえば、常にアメリカが思い浮かぶであろう。以上のように、ビール愛飲家がこのビールといえば日本とすぐに思い描くスタイルはないが、だからといってそれが日本の努力不足から来るものではない。最も和風なスタイルといえば、ビールと日本酒のハイブリッドや、酒米や麹を使ったビールがあげられる。これらのビールについては本誌18号にて特集したので、ここでは割愛させていただく。そして、日本産の柑橘類や果物をふんだんに使ったビールもあり、これらの多くはアメリカやヨーロッパのクラフトビール界でも人気がある。しかし、こちらも本誌20号にて特集したので、これ以上ここでは語ることは控えたいと思う。

日本独自のビールをつくるためにクラフトブルワーが他にやっていることは、日本らしい、または日本独特の材料を入れることだ。たくさんの柑橘類に加え、桜の木の様々な部分、緑茶、抹茶、ほうじ茶、そしてワサビ、山椒などの香辛料、紫蘇などの香草、出汁、鰹節やその他の魚、ゴーヤなど、材料をあげたらキリがない。

和風ビールは大まかに二つのカテゴリーに分類できると思う。一つ目は、ブルワリーの周りの地域でできた地元の農産物(名物)を使ったお土産ビールである。これらは、しばしば宣伝の目的でビールに加えられる。二つ目は、ビールに合いそうな新しい材料を用いたブルワーの思いつきによる極端な実験的なクラフトビールである。もちろん、和風の材料が新しいマーケティングの機会を与えてくれる可能性があるため、一つ目のカテゴリーとある程度重複する面がある。肝心なのはそのビールの裏に隠れている動機だが、消費者にとって必ずしも明らかではない。一般的なアドバイスは以下のようになる。鰹節を使ったビールで、そのブルワリーが海の近くにあり、鰹が地元の名産である場合、買い手はご用心! 実際に、このビールをつくった最初のブルワリーはその後まもなく廃業している。あるいは、素晴らしいビールをつくるあなたの知っているブルワリーが、ラオホビールの燻製香を強めるために鰹を用いている場合、これは美味しいに違いない! しかし、最終的には試してみるしかわからない。確かに、和風ビールを10年以上探している中、多くの酷いビールに出会ったが、多くの精巧な逸品もあった。この記事では、主にそれら逸品、または少なくとも逸品に近いビールを紹介していきたいと思う。

初めに、好き嫌いが分かれる和風ビールとしてよく知られた逸品は、ヘリオス酒造の「ゴーヤーDRY」だ。さわやかな風味も持つこのペールラガーは、ホップを引き立たせるために沖縄の名物であるゴーヤーを使っている。本当に苦く、ゴーヤーの味が後味を奪い始めるまで、しっかりホップが利いたビールだと思ってしまう。その後、ゴーヤーの苦味が後を引く。特に沖縄の太陽のもとでは、かなり爽やかな気分にさせてくれるが、ゴーヤーが苦手な人は、そのビールを飲むことはないだろう。しかしながら、このビールは1996年以来、同ブルワリーの主力商品であり、お土産ビールとクラフトビールの二つの役割を担っている。

すでに数え切れないほどの和風ビールが試作されているため、全てをリストにして書き続けるのは無駄である。この混然とした和風ビールの数々を整理する必要がある。ここから先の分析は、よく見かけ、活躍している副原料を6つのカテゴリーに分けていくことにする。それらは、大豆、日本の香草、桜、お茶、山椒、魚または出汁だ。

大豆:味噌を使ったビールのうち、最も古く、最もよく知られたものの一つとして、金しゃちの「名古屋赤味噌ラガー」がある。これはよく見かけるし、飲んでみる価値が十分にある。地元の名物を加えていると同時に、豊かなボディで麦芽の香りが富んだジャーマンスタイルのデュンケルをベースに使い、味噌の香りの特徴とうまく融合されている。黄桜は長年「丹波の黒豆」というビールを生産しているが、彼らのその他のラインナップと比べるとあまり注目はされていない。京都北部の大豆を焙煎して使い、甘く、きな粉を連想させる木の実のような風味があり、なかなか美味しい。近頃は、いくつかのブルワリーはもっと冒険心にあふれ、ビールに醤油さえ加えている。T.Y.Harborの「スダチゴーゼ醤油風味」は、すだちの酸味が主に味を占めるが、このスタイルに通常添加する塩の代わりに醤油を使い、革新的かつ心地よい和風の風味を感じる。香川県小豆島の醤油を使った箕面ビールの「ヤマロクエール」は、少量の醤油がほんのわずかに香るストロングアメリカンペールエールで、ほのかなコクを感じる。

香草: 厚木ビールは長年「しそエール」をつくり、納得のいく醸造であった。濃い茶色で、かすかなチョコレートの香りと、プラムのようなパンチがきいた味の特徴が、赤シソとうまく融合している。しそエールを最近なかなか見かけることはなくなったが、その代わりに「麦膳」というベルジャン・デュベルを基盤にしたビールが登場した。麦膳には、ショウガ、クマ笹、カキ葉、ヨクイニン、カワラタケが使われている。伝統的な中国の医師を訪問しているような感じで、ブリューパブのメニューには植物薬としてさえ紹介されている。コエドは、ストーンブリューイング(米国)とガレージプロジェクト(ニュージーランド)とのコラボレーションで、シソを使ったビール「梅雨セゾン」を世界に紹介した。セゾンの中にウメとシソを加えてニュージーランド産のシャルドネ樽の中で熟成させている。シソの味は少しばかり消えてしまっているが、このビールは、3〜4大陸で大ヒットした。鹿児島にある城山ブルワリーは果物と香草を加えたビールを長年醸造している。数あるうちの最も興味深い二つのハーブビールは、苦味のあるハーブティーのような特徴のある「ペールエール枇杷茶」と、気分をすっきりさせるレモングラスがしっかり利いた「ハーブエールレモングラス」である。それは、ハーブ版のベルジャン・ヴィット(小麦ビール)のような印象を与える。

桜:桜の木から取った酵母を使ってクラフトビールを発酵させるというアイデアは日本では長い歴史があるが、最近では塩漬けした桜の葉を使うことが流行っている。花見の時期に人気の桜餅のような風味のビールが出来上がる。桜の花と葉を加えた、サンクトガーレンの「さくら」は、このようなビールの初代である。この成功の波に乗って、六甲ビールの「春らんまん!さくらエール」、御殿場高原の「さくら姫」、ヤッホーブルーイングの桜餅スタウトが続いた。桜餅スタウトは最も急進的で、シナモンが利いたチョコレートに桜餅を浸けたような甘くスパイシーな味わいがあり、樽熟成されたバージョンもある。

茶:日本では普段、様々なタイプの緑茶や玄米茶が飲まれている。そして、それらがビールの中に入っていてもごく当たり前に思われる。しかしながら、これらのお茶は繊細で、コーヒーやチョコレートといった原料のような派手さはない。金しゃちの「抹茶ドラフト」は初期のお茶ビールの一つだ。後味が非常に苦いにもかかわらず、10年もの間にわたってよく売れた商品であったが、現在は生産中止になっている。同社のラインナップが進化を遂げている中、復刻を望むクラフトビールファンに遭遇することは今のところない。

ベアードの「わびさびジャパンペールエール」は緑茶を使った最もよく知られたビールの一つだ。これは、地元の静岡の緑茶とワサビを使ったアメリカンペールエールとIPAのハイブリッドである。ホップが主役のビールで、お茶とワサビは表には出ていないが確実に和を演出している。繊細でホップとのバランスがよくとれたビールだ。少し話しが脱線するが、ワサビは世界中のたくさんのクラフトブルワーの間で大人気となっている原料である。残念なことに、ワサビの使い方を分かっているブルワリーは少なく、大抵の場合は大失敗に終わっている。デ・モーレン(オランダ)の「ワサビ・セゾン」について言えば、おそらくこの素晴らしいブルワリーが今まで醸造したビールの中で一番最悪のアイデアであったであろう。

京都ビアラボはいくつかの商品に茶ビールというブランド名をつけている。サワーやスタウトをメインに、様々な種類のビールをつくっているが、日本茶を使った安定したビールのラインナップを持つ。香ばしい焙煎香と木の実の風味を感じるほうじ茶と、苦いチョコレートの風味を持ったスタウトがうまく融合した、「ほうじ茶スタウト」は人気だ。その他には、ほのかなお茶の風味のある小麦ビールの「かぶせ茶ホワイトエール」や、アメリカンペールエールにお茶の香りがうまく加わった「煎茶エール」がある。また、「煎茶ピルスナー」も美味しい。これら全てのビールはお茶の特徴が前面に出るようにうまくコントロールされつつ、ビールの味わいはしっかりとあり、どれも試す価値がある。

Bakushu Matcha Ale


大きな成功を収めた抹茶の大ヒット商品としては、黄桜のアルコール度数9%で、深く、重みのあるエメラルドグリーン色のいかにも急進的な京都麦酒抹茶エールを試してはどうだろうか。これは意見が真っ二つに割れているビールのうちの一つだ。ある人は、ラテのようなクリーミーな特徴とお茶の苦さを気に入っている。筆者は、ビールというよりも、ケールと抹茶のスムージーのようであると感じた。しかし、これは確実に新しい体験だった。奈良醸造による「エイティエイト」は瓶内熟成させた緑茶セゾンで、現在旋風を巻き起こしている。

山椒:うなぎの蒲焼や、うどんと非常に相性の良い日本の香辛料の山椒は、以前にも増してビールに使われている。山椒は、ピリッとした柑橘の風味をビールに加え、ホップを連想させるが、それよりもスパイス香を感じさせる。いわて蔵の「ジャパニーズエール山椒」は、山椒を前面に押し出したビールの最も良い例で、広範囲で入手できる。麦芽の風味は軽く、ピリッとした、レモンの香りのスパイスが主要な役割をなしている。2杯以上飲むのは難しいかもしれないが、他では味わえない体験である。

常陸野ネストの「ピリカ」もまた山椒の風味が利いたセッションIPAで、柚子も使われており、海外のクラフトビール愛好家の間では話題となっている。現在、日本でも広く入手することができる。筆者にとっては少しばかり副原料が目立ちすぎているように感じるが、試す価値はある。

雑穀工房の山椒ポーターは、上記二つのビールより少しばかり山椒の風味が控えめでバランスがとれている。芳純なチョコレートの風味のする濃いビールで、山椒が柑橘系の香りのホップを引き立たせている。香辛料がどこかしらホップの利いたブラックIPAに近づけている。これは、バランスがうまくとれており、非の打ちどころがなく美味しく飲める。

ベルギーのデ・グラールのカグア・ローグ、ブラン、セゾンは彼らのベルジャンエールの特徴も守りつつ、大量の山椒を用いている。個人的には、どのビールも山椒がやや強すぎると感じるが、どれもうまくつくられており、日本のビール感がよく出ている。

魚・出汁:最後に、ビールの副原料として魚を使った製品で締めたいと思う。誰もが馴染みのあるオイスタースタウトはブリテン諸島で誕生した。日本には特別な繋がりはないが、もし興味があれば、いわて蔵または伊勢角屋のワールドクラスのオイスタースタウトを試してもらいたい。多くの日本人を誇らしい気分にさせる世界での「うま味」ブームによって、出汁の原料はビールの材料としても使われるようになった。つまりそれは発酵出汁のビールのようなものだ。

鰹節ビールを最初に試したのはもうなくなってしまった土佐黒潮ブルワリーだと思われる。ヤッホーブルーイングの「SORRY」シリーズは有名で、「SORRY UMAMI IPA」は何度も醸造されている。このビールがとりわけ興味深いのは、鰹節のスモーキーでコクのある風味に合うと思われる芳醇で濃いビールではなく、IPAであるということだ。もし入っているオレンジの皮とコリアンダーが若干少なめであれば、鰹の特徴がもっとうまく出るかもしれないが、大ヒット商品だ。

その他の試みでは伊勢角屋麦酒の「ダシエール」と、南横浜ビール研究所の「鶏がらIPA」がある。どちらも記憶に残るというよりは、少しばかり変わっていると人は言うかもしれない。また、マッシュルームを使ったビールもいくつかあるが、どれもここで触れる価値はないだろう。筆者が思うに、少なくとも今現在は出汁ビールはそれほど可能性を示せていないと結論付けられる。

和風の材料を使うときブルワーはまず、美味しくバランスがとれたビールをつくりたいのか、それともその材料を紹介したいのか問うべきであろう。ご察しの通り、その答えは前者であるべきだと筆者は考える。ここでは、私たちはビールについて話している。美味しいビールとはあなたが繰り返し飲みたいと望むものだ。実際ここで紹介した多くのビールを含め、いくつかの和風ビールは美味しいビールに当てはまるだろう。しかしながら、ブルワーが後者のオプションを選択する傾向が強くある。「日本人としてこの食材が好きだから、これを原料として使えば美味しいビールができる」といった考え方だ。この手法は話題作りになり、たまになら楽しいかもしれない。また、ミルクシェイクIPAや香辛料の利いた果物入りの甘いケトルサワーのとりこになっているクラフトビール業界では、このような手法はますます受け入れられている。しかしながら、話題作りのためにつくられた商品への人々の関心は通常長く続かず、日本の革新的なクラフトブルーイングの代表的な商品になることはおそらくないだろう。そのため、真に人々の注目を集める、バランスのとれたまさに日本らしいビールが広く流通するようになるためにも、新しいタイプの和風ビールが今後も出続けるけることを願おう。



All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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