Beer Styles: Pale German Lagers–Helles, Pils, and Export


1980年代、クラフトビールムーブメントが米国で起こって以来、その中心にあったのはいつもエールだった。当時米国を支配していた大量生産型「淡黄色の炭酸ラガー」に対抗するように、ペールエール、IPA、バーレイワインやインペリアルスタウトなど、上面発酵のエールを軸にムーブメントは発展を遂げてきた。例外はいくつかあれど、クラフトビールは世界で流通している大量生産型ラガーに対するアンチテーゼとなっている。

しかし、豊かな個性を持つ伝統的なラガーは中央ヨーロッパで現在も醸造され、愛され続けている。そして日本のクラフトビール界においても、タップや商品棚にはIPAやスタウトの横に、特徴がよく表れたピルスナーが肩を並べている。北米でもクラフトラガーの人気は高まっていて、エール好きなファンをも取り込む素晴らしいラガービールが多数登場している。

パラダイムシフトが起こりつつあるクラフトビール界。ここで今一度ドイツの伝統的なペールラガーにスポットを当て、それぞれの違いを理解し、伝統の深い歴史やその飲みやすさについて掘り下げていこう。

歴史的に、ミュンヘンのへレス、ドイツ国内でつくられたピルス、元はドルトムントを中心につくられていた輸出用のエクスポートはすべて、1842年にピルゼンで最初に醸造されたボヘミアンピルスナー(またはスヴェトリー・レジャーク)を基に各地域で発展したビールだ(本誌第15号で紹介)。これら3つのスタイルの微妙な違いは、地域の水の違いと、地元住民の好みによって生まれた。どのスタイルも薄金色で、風味やボディを特徴づけるためにミュンヘン麦芽やウィーン麦芽も少量使われることもあるが、基本的にはピルスナー麦芽が使用される。すべて下面発酵の酵母、低温発酵で1~2か月貯蔵される。出来上がったビールはすっきりとしてさわやか、酵母の特徴は控えめで、果実味を感じさせるエルテル香や刺激のあるフェノール類をほとんど感じない仕上がりになっている。

へレスやヘルと呼ばれるラガーはホップを抑えて麦芽を際立たせているビールで、バイエルン地方でつくられており、南部のミュンヘンではもっとも人気が高い。コクがあり麦芽とパンのような特徴を持ちつつも、甘くなりすぎないためにへレスは適度な調整が必要だ。味や香りに香草や花の香りを持つホップを感じさせつつも、後味には強い苦味が残らないようにしないといけない。へレスはアルコール度数5%程度の繊細なスタイルで、麦芽の特徴が強めだが、ミュンヘンのビアガーデンで見受けられるように、リットル単位で飲めるようなすっきりさがある。

日本でも何種類かのジャーマンへレスは入手可能だが、ほかのスタイル同様、輸入された瓶ビールは状態が良くない場合が多い(酸化により段ボールのような味に変化してしまう)。常時一定の温度で冷蔵された樽詰めのビールを飲むことをおすすめする。若干見つかりにくいが「プランクへレス」と「アインガーラガーヘル」は傑出したおいしさだ。地元のミュンヘンでもっとも人気が高いのは「アウグスティナー・ブロイ」。日本でも時折見かけるが、信じられないほど高い価格で売られている。もしミュンヘンに行くことがあれば絶対飲んでおくべきビールだろう。日本ではあまりつくられていないが、上馬ビールの「へレス」とベアードビールの「修善寺ヘリテッジヘレス」の二つは年間を通して入手でき品質が高い。毎年4月には小樽ビールの「へレス」がリリースされ、これもまた美味しい。最近ではワイマーケットブルーイングが新しいドイツ式醸造システムで「ワット・ザ・ヘル」をつくったが、このビールも素晴らしい味わいだった。

ドイツ国内のどこでも、アルコール度数5%程度のピルスはヘレスよりもホップが利いている。香り、味、苦味のどれをとってもホップが際立つ。また辛口でボディは軽め、苦味がありキレがよく、さわやかで喉を潤すのにぴったりの味わいだ。ピルスにおける麦芽の特徴は、南部の豊かでパンのような風味から、北部のすっきりとして軽い、さながらホップ茶をも思わせるスタイルと多岐に渡る。日本で入手可能な北部のピルスは「イェヴァー」や「ビットブルガー」などがあるが、前述の通り、瓶ビールの品質にはムラがある。国内では、富士桜高原麦酒がつくる「ピルス」は南部寄りで香り高く苦味のあるホップと豊かな麦芽のハーモニーが楽しめる。北部の辛口でキレのいいスタイルが好きならば、苦味を楽しめる金しゃちビールの「青ラベル」を飲んでみよう。大山Gビールのピルスナーは南部スタイルに近く、心地よい麦芽を感じられる。ホップは毛色を変えて、ニュージーランドのモトゥエカホップを使用している。

一般に、エクスポートラガーは麦芽とホップのバランスにおいて、ヘレスとピルスの中間にある。アルコール度数は通常のヘレスやピルスよりも高めの5.5%~6%であるが、これは高アルコールが輸出過程における細菌の繁殖を抑える働きがあることに起因している。ホップの香り、味や苦味はヘレスよりは強く、ピルスよりは苦味が少なく甘味がある。この特徴がもっとも表れているスタイルはドルトムンダー・エクスポートだ。硫黄成分が高めの水を使用し、ホップを引き出している。これらのビールは麦芽やホップのどちらかが際立ったりせず、完璧なバランスを保っていなければならない。元のドルトムンダーのビールは今や大量生産型の平凡なビールに変わってしまったが、今でもドイツ各地ではエクスポートがつくられている。日本でもっとも有名なエクスポートスタイルのビールはエビスだろう。基本的にこのスタイルでつくられているが、一般消費者向けに若干簡素化されている。よりスタイルに忠実なのは「ベアレンクラシック」だろう。アルコール度数6%でコクのある麦芽、そして目立ち過ぎないホップがバランスを取っている。比較的新しいビーイージーの「じょっぱりヘレスエクスポート」も試しておきたい。アルコール度数は6.6%と強めだが、豊かな麦芽を感じる割には後味はとてもシャープだ。最後に、ドイツではなくトロントのゴッドスピードブルワリーがつくる「オツカレサマ(4.8%)」は日本でもしばしばタップで提供されている。現在ドルトムントでつくられているエクスポートビールはこの足元にもおよばない。見つけたら是非飲んでみよう!

かつて過去の遺物とされていたラガーが、今や多くの人々から未来のクラフトビールだと呼ばれている。彼らが正しいかどうかは、もちろん今はまだわからない。素晴らしいジャーマンスタイルやチェコスタイルのペールラガーをつくるのは非常に難しいが、できたときには幸せを感じるような、この上ないビールの経験の一つとなる。当然ながら、以前本コラムでも取り上げてきたように、ドイツには数多くのラガースタイル(オクトーバーフェストあるいはメルツェン、ケラービア、ボックなど)がある。言うまでもなく、これらは新鮮なまま、可能ならブルワリー内で出来立てを飲むのが一番だ。輸入された瓶ビールと上述の日本のクラフトビールを比べると違いに気づくだろう。比較対象としてイタリアや米国のラガーも飲んでみるべきだ。一旦これらのビールを真剣に飲みだしたなら、バイエルン地方への飛行機を予約することになるだろう。行先でお会いするのを楽しみにしている。


All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.