Beer Roundup (Spring 2020)



苦しんでいる人々を笑いの的にするのは適切でも面白くもない。それは、経済にも大打撃をもたらしている新型コロナウイルスの感染拡大に対しても同じだ。ここで考えてみよう。肥満は世界の多くの国でまん延している。肥満に起因する病気により日々数万人が死に、生産性と医療保険制度への影響は天文学的な数字だ。それでも、人々はいつも肥満をネタに冗談を言っている。米国大統領ですら、日常的にテレビでコメディアンたちから笑いのネタにされている。

社会におけるユーモアは、批評する手段として必要不可欠なもの。不合理な事が起きたときには特に必要だ。苦しんだ人々を馬鹿にするつもりはない。ただ感染拡大に対する人々の反応を少しだけからかいたいと思っている。日本で何か危機だと思われる事態が起きると、トイレットペーパーの買い占めが起こるのはばかげたことだ。それでも、卸業者、デパートやさまざまな店で人々は行列を作り、ショッピングカートにトイレットペーパーを積みこんで購入している。トイレットペーパーの買い占めという群衆心理は何十年も前に遡ることができる。『ジャパンタイムズ』でも2月下旬の記事で「1973年、中東の石油産出国が原油価格の引き上げや禁輸措置を発表すると、パニック状態となった人々がトイレットペーパーを求めて、ときには暴力的な場面も見られるような騒動が起きた」と言及している。我々も2011年3月11日に発生した東日本大震災のあとに、同じような買い占め騒動を目の当たりにした。

もちろん、このようなパニックによる買い占めは日本だけのことではない。そしてトイレットペーパーがなくなることを回避したいというのは理解できる。しかし、日本には世界でもっとも先進的なトイレがあるではないか! ビデと乾燥機能まである。発展途上国の多くの医療機器、さらにはテスラの車より高度な技術なのではなかろうか! なぜもっと分別のある買い占めをしないのか。例えば、そう、ビールだ。少なくともビールには栄養がある。そして、もしクラフトビールを買ったなら、小企業に収入をもたらすことにもつながる。

日本の素晴らしい点は、法律上、ブルワリーが直接消費者にビールを発送できることだ。多くの先進国は、法律や物流の関係でこれができない。相当数の日本の酒屋も同じようなサービスを提供している。もし外に遊びにでかけるのが怖いなら、オンラインで注文しよう。しかし、運送業者の配達員までもが自宅待機しなければならないような状況になったらどうするか。もし配達ドローンやロボットがいれば、何週間でも何か月でも、難なく自宅隔離ができるだろう。

これはまもなく現実になろうとしている。ドラマチックな自宅隔離の話ではなく、ドローンやロボットの話だ。本誌の米国オフィスがあるバークレーでは、カリフォルニア大学バークレー校のキャンパスやダウンタウンの一部で、ロボットによる食べ物の配達が行われている。考えてみれば、病院で薬を届けるロボットは何年も前からある。ここ数年では、ビールを運ぶトラックの自動運転のテストも成功している。前述の通り、個人へのアルコール類の配送は米国では禁じられているが、もし日本の法律とこの技術とを組み合わせたら......ビールの配送ロボットの完成だ。冗談ではない。SFでもない。今現在、日本の都市部にある卸業者はこれらのロボットを展開することができるのだ。もちろん、クラフトビールの楽しみの一つは、バーやタップルームで友人や知らない人と会うという社会的な要素がある。しかし、このような技術は不確かな時代には役立つように思える。そして、花見でビールが足りなくなったときにも。



テクノロジーに関して気になった記事はこれだ:「電動鼻がビールの味を嗅ぎ出す」。選り抜きの大学で行われた研究結果や発明などを紹介する非営利サイト『フューチュリティ』が2月下旬に投稿した記事によると、メルボルン大学(オーストラリア)の研究者らが「eノーズ」と呼ぶ装置を開発した。気味の悪い響きだ。「iノーズ」のほうが好みだが、それだとアップルが訴訟を起こすだろう。この装置は、ビールの好ましくない香りに関連する化学物質を検出することができるという。従来、ブルワリーは官能分析(ブルワーや訓練を受けたスタッフがビールを嗅ぎ分析を行う)を採用している。この技術はまだ開発の初期段階にあるが、もし成功したら、さまざまな有用なアプリが生まれることだろう。例えば、混雑した電車に乗る前に、臭いを抑える制汗剤をもっと使用すべきかを教えてくれるアプリなど。

テクノロジーから離れて自然界に話を移そう。ベルギーの起業家たちは、同国内の選定されたブルワリーから出たビール粕を使用してキノコを栽培している。共同通信のサミュエル・ペトルキャンが2月下旬に報道したところによると、ル・シャンピニオン・ドゥ・ブリュッセル(ブリュッセルのキノコ)が、ブリュッセルのアバトワール食肉市場の地下空間を拠点に運用を開始した。当初、コーヒーの出がらしを培地として椎茸、舞茸となめこの栽培を試みたが、それが失敗に終わると、カンティヨン醸造所などのブルワリーにビール粕の提供を申し入れた。するとキノコは順調に生育した。となると、ベルギーのブルワリーはこの循環を完結させるためにキノコビールをつくるのかが気になるところだ。美味しくなさそう? キノコにはうま味成分が豊富に含まれている。原材料にかつお節を使用したヤッホーブルーイングの「ソーリー ウマミIPA」とそれほど変わらない。そしてカリフォルニア州でマジックマッシュルームビールがリリースされるのはもう時間の問題である。

フロリダ州ブレーデントンのモーターワークス・ブリューイングが、地元の動物保護施設にいる里親募集中の犬4匹の顔写真を載せた缶ビールを発売した。すると数千キロ離れた米国中西部に住む女性がSNSを見ていたときに、そのうちの1匹が行方不明になっていた愛犬であることに気づいた。女性がその犬の身元を確認できる医療記録を提出したことで、両者は再会することができた。彼女は飼い犬が逃げたと言っているが、なぜフロリダで見つかったのかは誰にもわからない。もしかしたら、犬はモーターワークスのおいしいビールと善良な人々を探し求めていたのかもしれない。



多くの読者も知っているように、昨年の6月から先月まで続いたオーストラリアの山火事によって多大な被害がもたらされた。多くの企業が野生生物保護のため災害救援基金を設立した。その中の一つは、米国のクラフトビール醸造者のローグエール&スピリッツだ。1月には、「コンバット・ウォンバット」Tシャツの売り上げのすべて(およそ126万円)をワイルドライフ・ビクトリア・ブッシュファイア・アピールへ寄付した。ウォンバットはこの山火事で被害を受けた動物の一つである。コンバット・ウォンバットはローグがつくったサワーIPAで、昨年からえぞ麦酒により日本へ輸入されている。ローグは日本で最初に販売されたクラフトビールの一つであると同時に、長い慈善活動の歴史も持つ。

これから触れる我々の慈善活動は、義務的に行うCSR活動(企業の社会的責任活動)ではない。昨年、本誌夏号(本誌第39号)の冒頭ページで、持続可能な商慣行や環境保護へ力を尽くす団体への支援を続けていく決意を新たにした。昨年、そのような環境保護に携わる団体や研究教育機関(カリフォルニア科学アカデミーなど)へ、当社の売り上げの一部を寄付した。我々がどれほど寄付できるかは、我々の業績、つまり読者、本誌の配布にご協力いただいている企業、そしてスポンサーの皆さまの支えによって左右される。皆さまには感謝の気持ちをお伝えしたい。また、持続可能性において進歩的なクラフトビール業界にいることを誇りに思う。さて、これらの活動を支えるためにビールを飲もう! 少しはビールを買い占めていますように。

印刷は一旦ストップ!

実は当Roundupコラムの執筆は数週間前に終わっていた。それから多くのことが起こり、新型コロナウイルスによって我々の生活は一変した。今起きているすべてのことを把握するのは難しいが、ビール業界がこの危機にどう立ち向かっているのかを紹介したく、改訂版をお送りする。



ブリュードッグは、やり手のブルワリーであると同時にマーケティングにも長けている。彼らは話題づくりに力を注いでいるが、必ずしも自己利益のためだけではない。同ブルワリーはアバディーンシャー(英国)に蒸留所も有しているが、「ブリュージェル」生産のため、共同創業者のジェームズ・ワットはこの施設を活用することにした。「パンク・サニタイザー」と名付けられたこの消毒用アルコールジェルは、必要とする人たちに無料で配布された。3月初旬にはアンハイザー・ブッシュ・インベブが、ブラジルのビール工場で医療機関向けの手指消毒剤100万本を生産することを発表。そのほかにも、世界各地のアルコール飲料製造業者が同じような動きを見せている。米国ブルワーズアソシエーション(以下、BA)も、中止となったワールドビアカップに送られた審査用のビールすべてを、本拠地コロラド州にある近隣の蒸留所で消毒剤に作り変えているという。ホップの香りがする消毒剤が出てくるか気になるところだ。

外出自粛要請や自宅待機命令が自治体や政府から出されている中、多くのブルワリーは変化するニーズに対応するための取り組みを、急ピッチかつクリエイティブに進めている。8000以上のブルワリーが集まる米国では特に活発に行われている。店内に入ることなく歩道でビールの受け渡しをするやり方(カーブサイド・ピックアップと呼ばれている)はこの状況下では必須となり、一般にも定着した。ウィスコンシン州にあるサードスペースブルワリーは、この受け渡し方法を導入している地元の店と協力し「カーブサイド・ピックアップ・ビンゴ」カードを作成。参加者は対象店舗を5つ利用したらビンゴカードに印をつけ(自己申告制)、フェイスブック、インスタグラムやツイッターに投稿する。サードスペースが投稿を確認すると、タップルームの通常営業再開後に利用できる、1パイント無料券が発行される仕組みだ。地域の小規模店を支援するのには素晴らしい方法だ!



同じウィスコンシン州のブルワリー、エールアサイラムは「FVCK COVID(VをUにすると、おわかりいただけるだろう)」という名前のビールをつくった。売り上げはサービス業支援のために寄付される。数えきれないほどのビールの名前がある国で、新型コロナウイルスに関連した名前のビールが続々登場しているのは想像に難くないだろう。ジョージア州のワイルドヘブンビアは「ドント・スタンド・ソー・クロース・トゥー・ミー(そんな近くに立たないで)」という名前のジャーマンスタイルラガーをリリースした。往年のバンド、ポリスにも同じタイトルのヒットソングがあるが、おそらくソーシャルディスタンス(社会的距離)を示しているのだろう。同ブルワリーでは「ファウチ・スプリング」というビールもつくっているが、これは感染症専門家で、米政府の新型コロナウイルス対策チームの顔として有名なアンソニー・ファウチにちなんでいる。このビールにはスーパーフードとして知られるアサイーベリーが使われており、多少やりすぎな感じがしなくもない(誰か違うファウチという人を指しているのかもしれないが)。

メキシコではコロナビールの製造が中止となったが、その理由は意外なものだ。売り上げが落ちたからではない。事実、2月下旬に米国BAのチーフエコノミスト、バート・ウォルソン(本誌第31号でインタビュー掲載)がコロナウイルスに関連して売り上げが落ちているのか調査したところ、製造中止となる直前の4週間は前年比で売上高が3.1%アップしていたそうだ。また、バーが営業停止または短縮時間での営業となっている中、多くの国でスーパーマーケットの売り上げは伸びている(つまりコロナビールの販売は継続できる)。残念なことに、メキシコ当局はビールが生活必需品ではないとして、工場労働者を自宅待機にすることにしたのだ。メキシコは今、ビール大国のドイツやチェコとともに「生活必需品とは何か」という議論を交わしているところだろう......



ロイター通信が4月14日に報じたところによると、ベルギー・ブリュッセルのブルワリーも、オンラインでのビール販売を開始せざるを得なくなったそうだ。世界各国のブルワリーも同じ状況にあるが、ブリュッセルでは自転車での配達もあり、中には売り上げの一部を地元の医療機関へ寄付するブルワリーもある。自転車でのビール配達は珍しい! 自転車のデザインもユニークで、環境にも優しい。そしてコロナウイルス以前はあまりメジャーではなかった。自転車ビール配達サービスを展開しているジェロイン・バーホイーブンによれば、以前は1か月で40ケースだったところが、現在は一日で同じ量を配達しているそう。カロリーの寄付ということで、ブルワリーが彼にビールを提供してくれれば、さらにいい運動になること間違いなしだ。

けしからんニュースとしては、オーストラリアのウォーナンブール市長トニー・ハーバートが、4月7日にホテルのテラスで4人でビールを飲んでいる写真がBBCに掲載された。これはソーシャルディスタンスを保つという政策違反に当たる。その結果、彼には1000ドルの罰金が課されることになった。ハーバートは、オーナーと話をしていたところに他の2人がやってきて、ビールを手渡されただけだと弁明した。花見もまさにこんな風に始まるものだ。

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