Beer Roundup (Winter 2020)

最近、ビールの世界は平穏そのものだ。それは、胎児から死に際の老人まで、皆こぞってクラフトビールへの興味を捨て、ハードセルツァーにくら替えした結果だ。少なくとも、米国の飲料に関する記事やSNSを見ているとそういう印象を持たざるをえない。まず、このハードセルツァーというものは、炭酸水とアルコール、そして何かしらジュースが入っている。聞いたことがあるって? 日本の読者なら、どこにでも売られている酎ハイに似ているのでそう思うだろう。人々はクラフトビールに飽きたのか? その答えはわからないが、これが最近の飲料業界の中で気になっている流行だ。メーカーやアナリストたちが今後の展望に強気な見方をしているので、消費者を奪い合うことに懸念を持った米国のクラフトブルワリーも少なくない。ハードセルツァーをつくり始めたブルワリーもあるほどだ! しかし多くのブルワリーは、このトレンドは一時的な流行に過ぎず、ハードセルツァーの単純さに気づけばビールに戻ってくるだろうと考えている。ビールに関しては、日本が米国の将来を映し出す存在になるのは稀であるが、酎ハイが浸透している日本でも、ここ数年クラフトビールが人気を集めていることは注目に値する。個人的には、ハードセルツァーや酎ハイは、深みと複雑性をあわせ持つスパークリング日本酒の簡略版だと考えている。米国の一般消費者がスパークリング日本酒を発見した折には、日本語を学び始めて「発泡真実」のような意味不明の漢字タトゥーを彫る狂信的な輩も出てくることだろう。



我々が米国をからかっている間(米国の読者の皆には申し訳ないが、8000近くのブルワリーがあるのに、アルコール入りの炭酸水を追いかける人たちがいるなんて!)……ではなく、我々が米国を分析している間に、ビールがこれからも米国の心、精神と肝臓をつかみ続けるという証拠をお見せしよう。野球のワールドシリーズ第5戦で、バド・ライト(バドワイザーのライトビール)の缶を両手に持ったジェフ・アダムズにホームランの球が直撃した。彼は手に持っていたビール缶を放さずに、胸でボールを受け止めた。バドワイザーはのちにアダムズを見つけ出し、彼のその瞬間の姿と「Always Save the Beers(訳注:どんなときもビールを守ろう)」というフレーズが描かれたTシャツを販売した。ナショナルズがワールドシリーズを制覇すると、なんとアダムズは優勝パレードにも招待され同行した。Tシャツの売上利益は退役軍人を支援する団体(フォールズ・オブ・オナー)に寄付された。アダムズ自身、退役軍人だったのだ。読者の皆も準備しておこう。いつなんどきビールヒーローになるチャンスが巡ってくるかわからない。



ヒーローになるきっかけは、ビールスポーツかもしれない。エリック・バートンが10月に投稿した『アウトサイド』誌の記事によると、コーンホールの人気が急騰し、いまではプロスポーツにまでなったそうだ。コーンホールは、庭があるブルワリーで酔っ払いに人気のゲーム、いやスポーツだ。コーンホールのルールは、数メートル離れた場所に穴の開いた板を傾斜をつけて置き、酔っ払い、いや、アスリートたちがその穴めがけてお手玉を投げ入れるというもの。手にはビールを持ちながら。お手玉が板に当たれば点数を獲得、穴に入れば高得点が狙える。この遊びは数十年の間に広まり、多くの人々によって形式化され、高額な賞金の出るリーグ戦の大会が各地で開かれるようになった。しかし、2015年、ステイシー・ムーア氏が主催した「アメリカン・コーンホール・リーグ(ACL)」は全国ネットのテレビで放送されるまでに至った。今ではACL世界大会も開催され、今年の賞金は249,000米ドル(約2700万円)だった。現在彼は、コーンホールがオリンピックの正式種目に認定されることを目指している。アスリートたちが大会中にビールを飲むことが許されるかは不明だ。



米国の記者は、「奇妙」で「奇抜」な日本を報道しがちだ。ここで我々も、同じような流れで米国の奇妙なことを紹介しよう。『Vice』誌のジェリサ・カストロデールが9月に報じた記事によると、二人のアーミッシュが馬車に乗りながらビールを飲んでいたとき、警察官が通りかかったそうだ。アーミッシュは厳格なキリスト教信者の集団を指す。中でも、馬車に乗る「オールド・オーダー・アーミッシュ」の信者たちは現代技術を使うことを避け、簡素な生活を送っている。ビールを飲んでいた信者たちは馬車にステレオを積んでいたそうだが、より問題なのは、飲酒しながら「車両」を運転していたということだ。警察官が制止しようとしたとき、彼らは馬車を乗り捨て、森へと逃げていった。そして馬も走り去ってしまったそうだ。読者の皆は、馬に乗るだけにしよう。まず、馬は車両ではない。馬は家への道順も知っているし、馬の上で寝てしまっても家に連れ帰ってくれるだろう。

現代の技術を使ってもいいという考えの人は、ワシントンD.C.にある「ウォルターズ・スポーツ・バー」に興味を持つかもしれない。ここでは20以上のタップが壁沿いに並び、タップ上にはタッチスクリーンが置かれている。客は自分で注文し、ビールを注ぐことができるのだ。セルフサービスでビールを飲めるレストランは日本には昔からある。そしてタッチスクリーンは回転ずし店で長らく使用されている。クラフトビールを売っているバーで、その二つが合体したということだ。これはバーテンダーの終焉の幕開けとなるのだろうか? どうやら、米国ではこのようなシステムが人気を集めているらしい。もしタッチスクリーンを使用したハードセルツァーのバーが流行したら、米国は確実に方向を見失っていることになる。

オーストラリアの子どもたちは大丈夫そうだ。クイーンズランド州ブリスベン近郊にあるレッドクリフ州立高校にはビール醸造の授業があり、認定証も取得できる。授業を取っている30名超の学生は醸造に加え、ブルーパブの運営に欠かせない接客の仕方も学ぶ。この類のブルワリーとして、オーストラリアの高校では初となる。生徒たちは、出来上がったビールを飲むことはできないが(学校側いわく、教師が飲むのを担当するそうだ)、科学に基づいた教育を通して貴重な経験を積むことができる。

科学は素晴らしい。以前、デンマークのカールスバーグが開発した革新的な製品について本誌でも取り上げたことがあるが、同社は最近、新しいビール瓶を2種類開発したと発表した。いずれも木繊維から出来ており、持続可能な方法で営んでいる業者から調達している(両方とも紙でできているのだ!)。両者の違いはライニング(内張り)で、片方はなにかしらの「バイオコーティング」、もう片方はリサイクルされたPETプラスチックが使われている。前に見た牛乳パックのアイデアより、こっちの方がいい。



もう一つ、興味をそそる新製品は「ドラフトトップ」だ。アルミ缶の上部分を取り除くこの装置を使えば、グラスで飲んでいるかのようにビールを飲める。使うメリットとしては、ビールの香りを十分に楽しめること(そのためにグラスに注ぐ必要がない)。2020年前半に発売予定だ。これまた以前お伝えした通り、プルアップの蓋にはいくつかのブルワリーが挑戦してきた。この蓋は、もちろん大関が開発したワンカップ酒の蓋とは少し異なる。テクノロジーが進化していくと、過去の素晴らしいものを忘れてしまう。ビールの自動販売機がどこにでもあった時代が懐かしい。あの時代を取り戻そう! 今度は中身の商品をクラフトビールに代えて



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