Beer Styles: Scotch Ale (Wee Heavy)



今年も冬がまたやってきた。今号のスタイルコラムで、冷えた身体を温めるビールを紹介するのは自然の流れだろう。寒い日の夜に、コクがあり麦芽の香りが立つ、濃色で強めのビールをじっくり味わう──これ以上望むものがあるだろうか。スコッチエール、またの名をウィー・ヘビーと呼ばれているビールは、まさにそんな夜にぴったりだ。

現在、スコッチエールと呼ばれるビールは濃色、アルコール度数は強めで甘味がある。たいていの場合、アルコール度数は7~10%でコクがあり、小麦、チョコレートとカラメル麦芽の風味を感じる。一般的にはホップの存在感は控えめで、香りや味はほとんどなく、甘い麦芽とバランスを取るためにほどよい苦味を残す程度に使われている。レーズン、イチジクやプラムなどのドライフルーツの香りが立っていることも多い。一方で、気温の低いスコットランドではエール酵母が比較的低温で発酵されるため、新鮮な果実味を生むエステル香が抑えられている。スコッチエールはフルボディになる傾向があるが、アルコールとホップの苦味のバランスが絶妙で、甘ったるいシロップのようにはならない。また多くの場合、出荷前に一定期間熟成され、長期間熟成されたものは酸化が進み、ワインやシェリー酒のような香りが引き立ってくる。

本来のスコッチエールは主にペール麦芽によってつくられる。通常、風味を出すためにカラメル麦芽が、そして色味のために焙煎された未発芽の大麦が加えられる。大麦が加えられることでかすかに焙煎香が増すかもしれないが、スタウトのように強めには主張しない。スコッチエールで感じられる豊かなカラメルと糖蜜のような味は、スペシャルティ麦芽からというよりも、麦汁を大きなやかんのような容器(ケトル)で直火で煮沸し、カラメル化するのに足りる程度の濃さまで濃縮させたことに由来することが多い。

スコッチエールとスコティッシュエールの違いが分からない人もいるだろう。両スタイルとも、原材料と醸造プロセスの点ではほぼ同じであるが、大きな違いはアルコール度数だ。アルコール度数3.5%~5.5%のセッションビールは、通常「スコティッシュエール」と呼ばれる。これらのビールには、スコッチエールが持つような高アルコールでどっしりとした麦芽の存在感は感じられない。
かつては、スコットランドでは樽ごとの価格によって、ビールを「シリング」という古い貨幣単位を使って表記していた。強いビールほど価格は高く、高い番号で分類されていた。一般的に、60シリングエールはセッションビールで、高アルコールのスコッチエールは最低90シリング、最高は160シリングかそれ以上とされていた。スコッチエールの別名である「ウィー(小さい)・ヘビー(重い)」は、スコッチエールが濃厚な強いビールだったために、6オンス(180ミリリットル弱)の小さい瓶で売られていて、ちびちび飲むことからその名が名付けられたようだ。

スコッチエールはスコットランド以外のクラフトブルワーの間で高い人気を得るようになった。より強いスコッチエールがつくられたり、ウイスキー樽熟成のバージョンもよくつくられている。ニューワールド系のいわゆる「クラフト」スコッチエールは、麦芽が燻製されたり、ピート(泥炭)で燻した麦芽が使われ、アイラウイスキーのような燻製の香りの特徴を持つことが多い。これはこれで面白く楽しいものだが、スコッチウイスキーの人気ぶりから生まれた誤解のように思える。かつては、薪を燃やして直火で麦芽を乾燥させていたために多少燻製香がついていたが、焙燥の際に煙をほかの場所から逃す窯の登場で、スコットランド国内で燻された麦芽がスコッチエールの醸造に使われることはなくなった。

日本では、いつでも入手できる本場スコットランドでつくられたスコッチエールは数えるほどしかない。ベルヘイブン・ブリュワリーの「90シリング・ウィー・ヘビー(アルコール度数7.4%)」はリーズナブルで入手しやすく、このスタイルの見本のようなビールだ。チョコレートファッジ、カラメル、糖蜜とレーズンの風味にあふれ、出来立ては甘くシンプルな味わいだが、1年ほど熟成させると厚みが増す。「ブラックアイル・オーガニック・エクスポート・スコッチエール」も手に入りやすい。アルコール度数6.2%と、スコッチエールにしては度数が低いが、レーズン、ナッツとコーヒーのような軽めの焙煎香を持つカラメル麦芽が豊かな味わいを醸し出している。よりはっきりとした味わいを楽しみたいなら、「トラクエア・ハウスエール(7.2%)」がおすすめだ。チェリー、レーズン、オークの香りと、甘いチョコレートとカラメルの芳香が漂うビールだ。トラクエア・ハウスは1968年開業、貴族所有の荘園を使用した歴史深いブルワリーで、素晴らしいビールを数多く生み出している。その一部は日本にも少量ながら輸入されていて、そのどれもが飲む価値のあるビールだ。限定醸造の「トラクエア160シリング(9.5%)」は同ブルワリーのどのビールよりもインパクトがあり、複雑な味わいと深みを有するビールだ。なくなる前に是非飲んでおこう。

日本で購入可能な米国産のスコッチエールなら、エールスミスの「ウィー・ヘビー・スコッチエール(10%)」を始め、モイランの「キルトリフター(8%)」、オスカーブルース「オールドチャブ(8%)」、そしてケーキのように甘いファウンダーズブリューイングの「ダーティ・バスタード(8.5%)」などがあり、どれも素晴らしい仕上がりだ。米国でつくられたビールは、スコットランド産のよりもややホップが利いて、果実味が際立ち、焙煎香が強いことが多い。スコッチエールはベルギーでも人気を博し、ゴードンズやシリーが手がけたビールが日本でも楽しめる。

日本国内のいくつかのブルワリーも、冬限定のビールとしてスコッチエールをつくってきた。もっとも有名なのは、長年我々を惹きつけてきたベアードビールの「やばいやばいストロングスコッチエール(7.5%)」だろう。チョコレート、糖蜜とレーズンの風味がぎっしり詰まったこのビールは、軽い焙煎香をまとった超濃密でコクのあるビールだ。名前の通り、高アルコールにもかかわらず、すいすい飲めてしまう。最近の商品としては、二兎醸造(トゥーラビッツ)が2019年に初めてリリースした「クラシックバニー・ウィーヘビー(6.5%)」がある。アルコール度数はやや低めだが、麦芽の濃厚で力強い存在感は健在だ。チョコレート、カラメルとレーズンの香りとともに、興味をそそられるような燻製香をかすかに感じる。伊勢角屋麦酒の「スコッチエール(7%)」は長年定期的につくられてきたが、今年は発売予定がない。また、ロコビアの「ストロングスコッチエール(8.5%)」や、Y.マーケット、アングロジャパニーズブルーイングが手がけるビールも注目しておきたい。

スコッチエールは、地理的ルーツを持つ独自のスタイルで、クラフトビールの世界に引き継がれていった。バーレイワイン、オールドエールやベルジャンストロングダークエールと類似点はあるが、他の何とも似ていない芳醇な麦芽の特徴を持つ。ビール愛好家なら、国ごとに異なるさまざまなバージョンのビールを飲み比べてみよう。そして、そのうちいくつかを冷暗所に取っておいて、来年熟成した味わいを楽しむのもまた一興だ。


All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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