これまで7年間にわたってこのビアスタイルの連載をしてきて、伝統的なスタイルと近年急に人気となったスタイルを取り上げてきた。しかし、今年の春に酒税法が大きく改正された今、見て見ぬふりをされてきたこの問題について言及しなければならない気がしてきた。「発泡酒」は、一般的な意味で考えれば、スタイルなんかではない。今年3月まで、この区分に入る飲み物のほとんどは、麦芽使用比率が低い淡色のラガーだった。もしくは、果物、香辛料、野菜、海藻、牡蠣など、ビールにとって伝統的ではない原料を加えたものだった。しかし4月から定義が変わり、それがクラフトビールにどんな意味をもたらすのかを考える必要が出てきた。
発泡酒は、区分としてかなり前から存在していたが、節税型のビール風飲料としては1989年の酒税法改正をきっかけに生まれた。より安い輸入品に対抗できる銘柄を国内メーカーがつくれるようにするためだった。この新しい法律の下で、麦芽使用比率が67%未満の発泡酒は、区分としての「ビール」よりも税率が低くなった。
ビール風の発泡酒として最初に成功したのは、サントリーが1994年に発売したホップスだった。これは麦芽使用比率65%で、ビールにかなり近い味わいを持っていた。翌1995年にサッポロが発売したドラフティーは、麦芽使用比率がもっと下がって25%未満となり、それに伴って適用される税率も低くなり、350ミリリットル缶ではビールが約200円のところを、160円で販売された。以降、ほとんどすべての発泡酒は、麦芽使用比率25%未満となった。理解ができないのは、味わいの差はほとんどないにもかかわらず、適用税率は著しく低かったことだ。1998年からはキリンの淡麗が席巻し、すぐさま発泡酒市場の半分以上を占め、発泡酒の売り上げをビールの売り上げと同じくらいに押し上げた。こうした成長の勢いの下、国税庁は税収が大幅に失われていることに気付き、2003年に突然、発泡酒の税率を上げた。これにより各社は、ビール系飲料の三つの区分の一番下、つまり麦芽を全く使わないか、蒸留酒を発泡酒に混ぜた「第三のビール」を競ってつくるようになった。今年の3月末まで、以下のビール風アルコール飲料が発泡酒とされてきた。
1. 発酵に使われる糖をもたらす麦芽の比率が67%未満のもの
2. ホップ、麦芽、大麦、小麦、トウモロコシ、モロコシ、ジャガイモ、砂糖、米、デンプン以外の原料を使うもの
3. 発酵が終わった後に何かしらの原料を加えたもの(例えば、酵母を取り除いた後にドライホッピングを施したもの)
クラフトビールの世界では、2と3が重要である。しかし、クラフトビールのファンなら知っているように、発泡酒という区分には別の特徴もある。ビールの製造免許では年間最低醸造量が60キロリットルなのが、発泡酒免許だと6キロリットルであることだ。日本の免許制は厳格なので、この国でクラフト「ビール」をつくる者の多くは、実はクラフト「発泡酒」をつくっていることになる。つまり、香辛料や果物やその他の副原料が使われていたり、発酵後にドライホッピングを施されていたりするということだ。もちろん、そうした発泡酒はクラフトビールとして売られていて、我々の誰も、そのことを深く考えたりしない。
日本、そして世界中からのクラフトビールについて認められているのは、今年の酒税法改正によって、さまざまな副原料が使われていてもビールとされることになったことだ。実際に、以下の9項目の追加副原料の使用が認められるようになった。
A. 果実(乾燥または煮つめたものと、濃縮した果汁も含む)
B. コリアンダーまたはその種
C. コショウ、シナモン、クローヴ(チョウジ)、山椒、その他の香辛料またはその原料
D. カモミール、セージ、バジル、レモングラス、その他のハーブ
E. かんしょ、かぼちゃ、その他の野菜(乾燥または煮つめたものも含む)
F. そば、ゴマ
G. 蜂蜜など含糖質物、食塩、味噌
H. 花、茶、コーヒー、ココア、またはこれらの調製品
I. 牡蠣、昆布、ワカメ、かつおぶし
これら9項目がどのように決められたのか、大いに疑問に思う人もいるかもしれない。しかし今年4月以降は、使用されている麦芽の重量の5%を超えない範囲で、これらの原料の何かが使われていてもビールの区分となった。さらにこれらは、ホップと同様に、主発酵の後にも加えられるようになった。そしてビールとしての最低の麦芽使用比率は50%に引き下げられた。
以上のことは、クラフトビール愛好家にとってはどんな意味があるのだろうか。率直に言えば、ほとんど何もない。クラフトブルワーが副原料を使いたい場合は、たいていは発泡酒免許を取得してつくっていた。法改正により余計な手順は必要なくなった。しかし繰り返しになるが、ほとんどのクラフトブルワーは発泡酒免許でもってビールづくりを始めたので、法改正がもたらす変化は実際のところ非常に小さい。ドライホッピングに関する規定はより合理的になったが、以前は、ホップを投入する際に気をつけておかなければならなかったことは、ほぼ出来上がったビールに生きた酵母が少しでも残っていることだけだった。なので、この面でも全面的な変化がもたらされたとは言えない。麦芽の使用に関しては、あえてここで触れる必要もないだろう。
この法改正の前に発泡酒免許を取得したブルワリーには、今後も改正前の規定が適用されている。法改正の影響を大きく受けるのは、今年4月以降に発泡酒免許を取得したブルワリーだ。改正前は、例えばコリアンダーや茶葉をレシピに加える場合、量は不特定でも構わなかったが、改正後は使用麦芽の総重量の5%以上を必ず使わなければならなくなった。もっと具体的に考えるため、アルコール度数6%のIPAを100リットル仕込みでつくることを考えてみよう。そのレシピでは30キログラムの麦芽が使われるとする。これを発泡酒免許でつくる場合、少なくとも1.5キログラムの香辛料や果物もレシピに加えなければならないことになる。フルーツビールをつくる場合であればいいかもしれないが、伝統的なビアスタイルをつくりたい場合は、かなりの制約となる。例えばこの量のヴィットビアをつくるレシピであれば、たいていは200グラムくらいの香辛料が入るが、その7倍以上を入れなければならないことになる。それがどんな味わいになるのかは、容易に想像できよう!
結局のところ、今回の法改正は、大量生産型の四大ブルワリーがさまざまな原料を使ったクラフトまがいのビールをつくれるようにして、それによって、クラフトの登場によって彼らが失った市場シェアを取り戻せるようにすることを、主眼に置いているように見える。読者のなかには、すでにそうした新しく登場した斬新な商品を味わった人もいるかもしれない。そのうちのいくつかについては、筆者は本誌オンライン版の記事で触れた。
香辛料や果物を使ったビールが「ビール」と呼ばれるのは、明らかに道理にかなっている一方で、そうしたこの法改正に関して最も良いことは、発泡酒の定義とは何も関係がない。酒税法にはまた、ビールと発泡酒、そして新ジャンル(第三のビール)の税率を段階的に一本化する計画が含まれている。その計画は2026年10月1日までに完成して、それら三つの税額は、1リットル当たり155円になる。これはもちろん、どんな免許でもって醸造されていようとも、すべてのクラフト「ビール」にとっては減税されることを意味している。
しかし、一つの問題も残っている。上述の追加副原料の「重量5%ルール」によって、新しい発泡酒免許で操業している小規模ブルワリーは、つくることができるビールのスタイルにおいて、もっともっと無理を強いられることになる。彼らはたくさんの追加副原料を使うか、合法的な方法の範囲でもっと創造的にならなければならない(これはもう実際に起き始めている)。それでもなお、次に着手しなければならないのは、発泡酒の6キロリットルと、ビールの60キロリットルという年間最低醸造量の差異をなくすことだ。この差異は全く無意味である。100リットル仕込みで、まともなフルーツまたはスパイスビールをつくれるが、麦芽100%のピルスナーをつくれない。そう仮定するのにまっとうな理由なんて、全くない。
この不当な区分がなくなれば、発泡酒と第三のビールという恥ずべき区分も日本のビールを取り巻く状況から永遠に拭い去られることになる。そして私たちは、混乱させて意味のない制度について、外国人訪問者に説明する必要がもうなくなる。さあ、議員のみなさん、もう一歩踏み込んで! そしてそうだ、そうするのと同時に、自家醸造も合法化するというのもどうかね?
All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.
This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.