ノンアルコールビールに含まれるポリフェノールに身体を元気にする働きがあるかもしれないという。このことを早くから研究している一人、ミュンヘン大学のヨハネス・シェール博士は、ポリフェノールを摂取したスポーツ選手に呼吸器疾患の軽減と炎症の改善が見られることを2009年に発見した。厳しいトレーニングや競技で身体を酷使すると免疫システムがダメージを受けることがあり、呼吸器系に対するプラスの作用は選手たちにとってありがたい。一方、炎症が改善するということは、ノンアルコールビールによって選手たちの競技後の回復が早まることを意味する。主要なメディアによる報道では触れられていないものの、アルコールが炎症など身体に対して好ましくない様々な影響を及ぼし得ることはよく知られている。それゆえ選手たちにはノンアルコールビールや、入っているとしてもアルコールのごく弱いビールを飲むことが推奨されている。
もうひとつ注目すべきは、これらのビールの多くがアイソトニック飲料であることだ。ノンアルコールビールの糖度はヒトの血糖値に近く、水分補給に適しているのだ。味が良いことも多くのアスリートたちが支持している理由だ。ドイツ国内には数百種類のノンアルコールビールがあり、実に多彩。日本にはそこまでの種類はないものの、ノンアルコールビールはおなじみの存在である。大手ビールメーカーが以前から手掛けており、世界規模のノンアルコールビールメーカーの一員として日本のメーカーも認識されるようになっている。あまり知られていないが、クラフトビールの世界でも常陸野ネストが美味しいノンアルコールビールをリリースしている。
控えめな言い方をすれば、ほとんどのクラフトビール好き(と、多くの一般人)はノンアルコールビールが大好きではない。もう何年も前から美味しいノンアルコールビールをつくってきたとドイツ人は鼻で笑うかもしれないが、ノンアルコールビールは、まず味がダメだから好きになれないと誰もが言っていた。ところが今、ドイツ以外の国のビール文化においても製造方法が改良されてきて、その味わいは劇的に良くなってきているように思える。2016年のイギリスの研究によると、消費者の三分の一がノンアルコールビールを飲んだことがあり、その多くがアルコール入りの普通のビールと遜色ない味わいだったという(すでに酔っ払っていたかもしれないが)。世界の大手ビールメーカーは、最大手も含めてノンアルコールビールを大変重要な商品と位置付けていて、多くのクラフトビールメーカーも同様に考えている。
3月1日の業績発表で、アンハイザー・ブッシュ・インベブ社の最高経営責任者カルロス・ブリトは、同社の全製品の中でノンアルコール飲料と低アルコール飲料が占める割合は8%に達していると述べた。同社の製品の中には買収したグースアイランドの製品やバドワイザーなど巨大ブランド製品も含まれている。同社は消費者動向に基づいて8%の数字を2025年までに20%にまで持っていきたいとしており、同じくノンアルコールビールを製造しているハイネケン、ディアジオ(ギネスの親会社)、カールスバーグといった大手も強気の姿勢を見せている。北米市場は未だにその標的になっていないというのが一般的な考えだが、ノンアルコールビールの売り上げが今後も伸び続けたら、アメリカの何千というクラフトブルワリーはどんな対応をするのか、目が離せないところだ。グースアイランドのノンアルコールバーボンバレルエイジビール? 新しい技術の誕生や消費者の要求を考えると、そんなことも全くあり得ないとは言い切れない。
ビールに値上げの波?
昨年末、アメリカ各地のビールメーカーは、その規模の大小を問わず、物議を醸しながら誕生した新税法を歓迎した。その税法は、企業や超富裕層にとっては大型減税だった一方で、そのしわ寄せは中流階級や下層階級への社会福祉給付にくるとみられている(多くの専門家が指摘している)ので、大いに物議を醸した。ビールメーカーが歓迎したのは、その税法が彼らに課せられていた物品税の減税を含んでいたからである。クラフトビールメーカーを代表する業界団体であるブルワーズアソシエーションや大手ビールメーカーたちは長年にわたって物品税の軽減を要求し続けていた。いくつかのメーカーは、減税で浮いた分を消費者に還元せず、雇用経費やインフラ整備に充てる予定であるとした(例えば医療サービスの向上を犠牲にした上で成り立っているかもしれない経済支援を受けることに、複雑な思いをもっているメーカーをいくつか知っている)。
幸せはしかし長くは続かなかった。トランプ大統領は鉄鋼とアルミニウムの輸入に関税を課すると発表したのだ。この関税で誰が被害をこうむるか。缶ビールの容器が何で出来ているか皆さんは知っているだろうか。この関税に対して最初に大反対の声をあげたのは大手ビールメーカー各社で、ビール関連の業界団体がこれに続いた。The Beer Institute(アメリカのビール研究機関)は、カナダ、メキシコ、オーストラリアが課税対象から除外されたとしてもアメリカのビール業界にとっては3億4770万ドルの増税になり、何万人という失業者が出ると試算した。缶ビールの先駆者としてクラフトビールの世界でよく知られており日本にも輸出しているオスカー・ブルース社は、この課税によって年間40万ドル以上のコスト増になるとした。一方日本は課税対象から除外するよう要求している。前述の大型減税のお陰で今回の輸入関税の痛みは和らげられるだろうか。それとも日本を含む世界中のアメリカンビール好きは今後、ビールの値上げを受け入れていくことになるのか。3月初旬、国際通貨基金専務理事のクリスティーヌ・ラガルドはこう述べた。「貿易戦争に勝者はいない」。
貿易戦争はビール外交の敵だ
箕面ビール代表の大下香緒里は最近、さらなるコラボレーションビールのために台湾のクラフトビールメーカー・臺虎精釀(タイフ・ジンニャン)を訪れた(本誌第29号「ポストカード」コラムに写真掲載)。情熱を持った才気あふれる若者が経営するこの人気ブルワリーは日本にもなじみがあり、日本のビールコンテストやビアフェス、その他様々な交流に参加するため何度か来日している。
大下によると、今年彼らが仕込んだビールは、日本から持って行った麹と台湾の米、そしてスパイシーな風味を付けるためにキヌアが使われた。ベースとなるレシピはピルスナーで、色は薄く、アルコール度数4.5%の軽めのビールだ。名前はまだ決まっていないそうだが、きっと美味しいはずだ!
日本国内では野球シーズンが始まっていて、野球にちなんだビールがクラフトビールメーカーからいくつかリリースされている。横浜ベイブルーイングが横浜スタジアムで販売しているベイスターズエールは有名。最近、横浜スタジアムの真向かいに横浜ベイブルーイングのビールやその他国産ビールを揃えたクラフトビールバーがオープンした。東北では、地元の複数のクラフトビールメーカーが楽天イーグルスビールを製造している。この流れに最近ビーイージーブルーイング、田沢湖ビール、月山ビールが加わり、ベースボールビールを手掛けるメーカーは全部で6社となった。日本中のすべてのスタジアムにそれぞれ独自のビールがあったらどんなに楽しいだろう。
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