Shane Long and Dave Quinn
昨年ウィスキーとビールのペアリングを学ぶ機会が巡ってきたとき、筆者は迷わず飛びついた。楽しみながら研究でき(実はまだ研究は続いている!)、味覚を鍛えるにも良い刺激になった。これを読んでいるあなたも筆者のようにビール寄りの味覚を持っているかもしれない。平日は特別なときのためにとっておいているようなウィスキーではなく、軽く飲めるビールを欲する人たちの方が一般的だろう。しかしウィスキーは味覚を研ぎ澄ませるのに役に立つ。給料日までの日数もウィスキーとビールのペアリングの実験を実施するかどうかに、大いに影響を与えるかもしれない。
ここ数年盛り上がりが最高潮に達している木樽熟成だが、その一ファンである筆者はこれまで数多くの作品を堪能してきた。現在も次から次へと新しい組み合わせが登場し、その勢いはとどまるところを知らない。バーボン、ウィスキー、ワイン、シャンパン、ブランデー、ラムやテキーラなど、ありとあらゆる種類の酒樽が使われている。そして、フルーツ、コーヒー、バニラビーンズなどをスパイスに風味付けされたものや、酸味のあるビールとの組み合わせなど、醸造家の友人たちが生み出すものは試す価値がある。もちろん、樽に使用されている木(オーク類が多い)の種類や焼き入れの有無、新樽かそうでないかの要因も考えなくてはならない。ブレンディング(調合)の構成も関与してくる。
クラフトビールの愛飲家が様々な組み合わせに思いを巡らせてきているが、ウィスキーの蒸留所で「このウィスキーにちょっとひねりを加えてみないか? 次のウィスキーを熟成する前に、一度木樽を送ってビールを熟成するのはどうだろう?」などと口にする人は少数だったはずだ。「マスター・オブ・ウィスキーサイエンス(ウィスキー科学の達人)」という、最高にクールな異名を持つ30年来のベテラン、ジェムソン アイリッシュウィスキーのディブ・クインは、アイルランドのコークで近所のパブに立ち寄った際には、まだそのような考えは持っていなかった。しかし、アイルランド国内で名高いクラフトビールのブルワリーの一つであるフランシスカン・ウェル・ブルワリーの創業者で、同じくコーク出身のシェン・ロングと話したとき、ジェムソンオリジナル樽でフランシスカン・ウェルのアイリッシュスタウトのビールを熟成させる計画が持ち上がった。
当時そのコンセプト自体はすでに目新しいものではなくなっていたが、素晴らしいパートナーシップを築くきっかけとなった。出来上がったビール(ジェムソンスタウト)は2013年のインターナショナル・ビア・チャレンジで金賞を受賞した。そしてこの二人の手によってさらなる進化を遂げることになる。ジェムソン樽で1か月ほどアイリッシュスタウトを寝かせたあと、戻ってきた樽で仕上げにウィスキーを再度詰める。6か月ほどスタウト香が漂う樽で後熟させ、新しい風味を得たら、そのウィスキーの出来上がりだ。2014年、新商品の「カスクメイツ」が登場した。チョコレート、バタースコッチとコーヒーの香調が加えられ、ウィスキーは見事に進化した。この実験は成功だと判断され、関わったすべての人たちがこれを土台に今後発展させられると感じていた。
フランシスカン・ウェルとのプロジェクトは可能性を広げ、楽しい実験に挑戦する足がかりにもなった。ジェムソンのチームは米国のクラフトビア市場で新しいパートナーを探し求めた。2014年にはニューヨーク州ブルックリンのケルソービアカンパニーとコラボレーションを始めた。ケルソーの醸造所責任者であるケリー・テイラーはジェムソン樽で木樽熟成IPAをつくった。このプロジェクトは大きな成功を収め、ジェムソンはほかのブルワリーとも手を組むことに決めた。これが「カスクメイツ・ドリンキング・バディーズ(飲み仲間)プログラム」である。2015年にジェムソンは5つのブルワリーと提携し、2016年にはその数は7つまで増えた。そして米国のビール消費者にとっては、喜ばしいことに、今年はさらにその倍以上の16ブルワリーにまで拡大した。
重要な点は、樽からビールが出されたあと樽はアイルランドへ返送され、ジェムソンチームがその樽で様々な実験を試みるということだ。ジェムソンに樽が届くとクインの手に渡る。樽にウィスキーが入っていると多くの技術的決定を下さねばならない。一般的に、4年から7年ほど熟成させたウィスキーが使用される。カスクメイツのシリーズでは熟成されたウィスキーを返却された樽で6か月ほど寝かせる。出来上がったウィスキーの風味構成にはタイミングがとても重要であるため、研究には終わりがない。この分野に興味のある人たちからの履歴書がジェムソン宛にたくさん届いていることだろう。
ウィスキーの味の特徴に影響を与えるもう一つの大きな要因は樽そのものである。5代目のクーパー(樽の供給およびメンテナンスの責任者)、ジェア・バックリーと彼のチームはジェムソンの100万にもおよぶオーク樽の点検と管理を行っている。これほど大量の樽が保管されている施設を想像するだけで圧倒されてしまう。バックリーのチームは一日当たり1,800樽の検査を行っていて、これはすべての樽を点検し終えるのになんと556日もかかるという計算だ。
カスクメイツ・スタウト・エディションを生み出したフランシスカン・ウェルとのコラボレーションに続き、両社は今年、カスクメイツIPAエディションを開発するために再び手を組んだ。このビールはまだ実験段階にあり、アイルランドでわずか2,000ボトルが販売されたのみだ。ジェムソンはまた、オーストラリアはニューサウスウェールズ州ニュートン(シドニーの南側)のブルワリー、ヤングヘンリーズとパートナーシップを結んだ。ジェムソン樽で熟成されたビールはヤングヘンリーズ・クラック&バレル・アイリッシュレッドエールになった。ヤングヘンリーズのチームから数人は、返却する樽とともにアイルランドへ赴き、クイン、バックリーと思いを語り意見を交わし、使用した樽に詰められたウィスキーの試飲もした。このウィスキーがオーストラリア国内限定のジェムソン・カスクメイツ・ヤングヘンリーズ・エディションである。
今年初頭、本誌2017年春号(第30号)で、ジェムソンと東京のブルワリー、デビルクラフトのパートナーシップについて記事を掲載した。デビルクラフト側は借りたジェムソンの樽にインペリアルスタウトとインペリアル・ライ・ブラウンを熟成したのち樽を包装してアイルランドに返送した。出来上がったビールは評判が良く、予想通りすぐになくなった。樽がコークに戻ってからどのような実験が行われたかは謎に包まれている。ジェムソン・カスクメイツ・デビルクラフト・エディションを目にする日はくるのだろうか? もしそうならば、誰も情報を漏らしていないことになる。我々は待つしかないようだ。
現時点で日本国内で手に入るのはオリジナルのカスクメイツ・スタウト・エディション(フランシスカン・ウェルとのコラボ商品)だけである。日本での販売は今年の9月4日にデビルクラフト五反田店のイベントで解禁された。多くのクラフトビアバー(下記参照)でも提供されている。このような上質なウィスキーは、ストレートで飲むことを強く勧めるが、ロックでもよいだろう。ウィスキーそのものの味わいを愉しみ、フレーバーの深みを真に理解するには、これらの飲み方でなければならないというのが筆者の個人的な見解である。ただし、ウィスキーと同等に上質なエールやラガーとのペアリングは試してみよう。筆者と同じようにあなたがこの研究を大いに楽しむことを願っている。
カスクメイツを提供するバーは以下の通り。
DevilCraft Gotanda デビルクラフト五反田
〒141-0031
東京都品川区西五反田2-7-8
誠實(せいじつ)ビル9F
050-3188-9978
http://en.devilcraft.jp/
DevilCraft Hamamatsucho デビルクラフト浜松町
〒105-0013
東京都港区浜松町2-13-12
ライズウェルビル1F
050-3188-9941
http://en.devilcraft.jp/
Failte フォルチェ
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1-5-2
渋谷SEDEビル 5F
050-3468-2567
http://failte.jp/about
BEERPUB NONSUCH ビアパブノンサッチ
〒171-0021
東京都豊島区西池袋5-1-6 2F
03-3981-4811
http://beerpub-nonsuch.com/index.html
Belgo ベルゴ
〒150-0002
東京都渋谷区渋谷3-18-7
渋谷第一号ビルB1F
03-3409-4442
The Aldgate British Pub ジ・オールゲイト
〒150-0042
東京都渋谷区宇田川町30-4
新岩崎ビル3F
03-3462-2983
http://www.the-aldgate.com
Wasserfall ワサファル
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1-11-1 404
03-3464-5120
Yakitori RYO 炭火焼き鳥RYO
〒920-0852
石川県金沢市此花町2-6
050-5828-1091
http://www.r-y-o.com/sp
The Craft ザ クラフト
〒064-0804
北海道札幌市中央区南4条西4丁目
松岡ビル 1F
011-241-5555
http://the-craft.jp
Takoyaki Bar Tom たこやき BAR トム
〒460-0003
愛知県名古屋市中区錦3-13-29
ABCビル南館4F
052-971-2388
ジェムソンのカスクメイツに関する詳細は: www.jamesonwhiskey.com/jp