シエラネバダ流ビール管理のお作法

ビアクオリティーコントロールセミナー・リポート
(アメリカンクラフトビアエクスペリエンス)



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Kumagai Jinya

米国ブルワーズアソシエーション(BA)によるイベントで、多くのブルワーが来日してビールが提供された、アメリカンクラフトビアエクスペリエンス(ACBE)。6月20日は東京で開催され、ビールは米国から24のブルワリーによる82の銘柄を提供、1500人の来場者を集めた。翌21日の大阪開催では、来場者は700人以上、ビールは22ブルワリーから74銘柄だった。

さらに大阪では、本編の前に、当日集まった100人以上のクラフトビール事業者向けに、ビアクオリティーコントロールセミナーも実施された。内容はシエラネバダブルーイングのスティーブ・グロスマンによる同セミナーと、そのほかの米国のブルワーたちによるパネルディスカッションという構成。それらの抄録をお届する。

米国のクラフトビールの歴史と、品質管理について

スティーブ・グロスマン(シエラネバダブルーイング ブルーイングアンバサダー)

米国のクラフトビールの歴史

まず、米国のクラフトビールの歴史から紹介します。

米国には禁酒法の施行(1920~1933年)というむごい歴史があります。禁酒法が始まる前の1919年には、3200のブルワリーがありました。そして禁酒法が終わった1933年には、42しか残りませんでした。しかし現在は3400にまで再び増え、クラフトビールを取り巻く環境は大いに盛り上がっています。

復活の始まりは、1960年代に起きました。それは、クラフトビールのパイオニアであるフリッツ・メイタグが1965年にアンカーブルーイングを始めたことです。これがマイクロブルワリーの歴史の始まりです。

ちなみに、私たちシエラネバダブルーイングは1980年に創業で、アンカーブルーイングを1番とすると、3番目となります。2番目のニューアルビオンブルーイングはつぶれてしまいましたが、業界が発展していくのに大きな影響を与えていました。

私たちが創業した当時は、クラフトビールという言葉はまだなく、ブルワリーは「マイクロブルワリー」と呼ばれていました。残念ながら、1981年にあったマイクロブルワリーのほとんどは既につぶれてしまいました。1983年には大手を含めて43のブルワリーがありました。
マイクロブルワリー/ブルーパブの数は、1990年ごろから急増。1999年には1400を超えました。しかしなかには、品質を重視せず、残念ながらつぶれていってしまったところもありました。逆に言えば、2000年以降に参入してきたブルワリーは、品質を重視してきたのです。

シエラネバダも、最初は高性能で高価な設備は導入できなかったが、事業を拡大していくにつれ、より良い設備を取り入れてきました。やはり鮮度や品質を保つためです。そして最近は、ノースカロライナ州にブルワリーを新設しました。

品質管理の方法

鮮度や品質を管理するために、冷蔵設備は極めて重要です。冷蔵コンテナで製品を輸送するのはもちろん、届いた製品を冷蔵管理するのは必須であり、熱処理をしていない多くのクラフトビールはなおさらです。冷蔵管理をしないと、ホップの味・香りもどんどん減退していきます。陳列のローテーション(いわゆる「先入れ先出し」)もしなければなりません。

シエラネバダの場合は製品の賞味期限を150日に設定していますが、30日以内に売り切るのが望ましい。シエラネバダではまた、輸送トラックのコンテナ内部の温度は7.2℃を保っています。GPS(全地球測位システム)で温度を記録し、ほぼリアルタイムでチェックしています。

時間が経って、ホップのフルーティーな香りや苦味が減っていくととともに出てきてしまうのが、オフフレーバー(好ましくない味・香り)です。オフフレーバーは「紙・段ボールのよう」「加熱した穀物のよう」「シェリーのよう」「ナッツのよう」などと例えられます。

ビールの劣化の主な原因は酸化です。どんなビールでも多かれ少なかれ、酸化が起きています。これを気にならないレベルに抑えるために、各ブルワリーは努力をしています。しかし出来上がったビールにおいて、温度が5.5℃上がると、酸化は2~3倍進んでしまいます。

温度のほか、光も劣化の原因となり、日光臭というスカンクのようなにおいを生み出します。そのため、多くのブルワリーでは、光を遮るために缶や茶色のボトルを採用しています。劣化の原因となる光は、日光だけでなく、青から紫外線の範囲にある光(例えば蛍光灯)も当てはまります。缶は、詰めたビールがボトルに詰めたビールよりも酸化しづらく、そしてボトルよりも軽量で、輸送面で環境にやさしいこともあり、特に流行っています

樽詰めビールの品質管理

BAは、『Industry-wide Draught Quality Standards』と『Draught Beer Quality for Retailers』という素晴らしい冊子をつくっていて、樽詰めビールの品質管理について啓発しています。
消費者は新鮮で、味わい豊かな、本物のビールを欲しがっています。輸送の方法から注ぎ方まで、あらゆる適切な提供の仕方が消費者から求められているのです。品質で重要なのは、「新鮮であること」「雑味がないこと」「発泡が適切であること」です。
 
缶・ボトル詰めよりも、樽詰めの方が品質管理は複雑です。サーバーの維持・管理やそれを扱うスタッフの教育があるからです。そうした意味でも、クラフトビールの樽詰めのビールを提供するお店のオーナーは、提供するビールに対して大きな責任を負っていると言えます。これらの要点をまとめた『Industry-wide Draught Quality Standards』と『Draught Beer Quality for Retailers』をぜひ読んでいただきたいと思います。

樽詰めのビールも缶・ボトル詰めビールと同様に、温度が5.5℃上がると、酸化は2、3倍早く進みます。時間が経てば経つほど、酸化などによるオフフレーバーが出てくるのも同様です。ですから樽も、常に冷蔵庫で管理するのが重要です。米国でもアラスカではその必要はないかもしれません(笑)。

また、10℃になった樽詰めビールを3.3℃まで冷やすには、冷蔵庫に入れて25時間かかってしまいます。この時間の面でも、常に冷蔵管理をすることをお勧めします。

オフフレーバーを出さないためには、以下の点が重要です。

・ブルワリーはそもそも、品質が良いビールをつくって詰めるようにする
・ブルワリー内部はバクテリア汚染が起きないように、清潔に保つ
・ブルワリーはなるべく新鮮なビールを届けられるよう、ビールが出来上がったらすぐに発送できる計画を立てる
・ブルワリーと取引先が品質の基準について話し合う
・先入れ先出しを守る

ビールライン、グラスの洗浄

ビールラインの洗浄も極めて重要です。BAの基準では、2週間ごとにすべきとしています。定期的にライン洗浄をしないと、内部にビールがこびり付いて、お客はそれが溶け出た味の悪いビールを飲むことになります。また、紙・段ボールのようなにおい(酸化臭)、バターのようなにおい(ダイアセチル)、金属のような味(メタリック)が出るようになってしまいます。

ライン洗浄を3、4カ月ごとにする場合、8%以上のビールがロスとなってしまいます。しかし2週間~1カ月ごとにする場合、ロスは2%になります。洗浄の頻度を上げるとロスは減っていき、状態がより良いビールを提供できるのです。

ビールを通すホースは、短い方がいいですね。洗いやすいですし、ビールのロスが少ない。米国には60~70メートルのホースがありますが、洗浄するという面では良くありません。またホースが長いと炭酸ガスではなく窒素ガスを使う必要があり、後者は前者より高くつきます。この面で、短いホースの方が経済的だと言えます。

蛇口の金属製の部品もしっかりと洗浄する必要があります。そしてその素材も重要で、おすすめはステンレス鋼製です。真ちゅう製もありますが、ステンレス鋼製の方が扱いが簡単で衛生的で、金属的な味も出づらい。

グラスの洗い方も重要で、どのような油が付着するかにもよりますが、洗浄、すすぎ、サニテーション、空気乾燥の手順を踏む必要があります。仕事上、多くのバーを訪れて自分のところのビールを飲みますが、たまに泡が立っていないことがあります。グラスをきちんと洗っていなくて、汚れが残っているからです。そうしたビールを私が飲むことはありません。

グラスを乾かす際、水を切った後に拭くのではなく、そのまま乾かすことをお勧めします。拭くためのクロスから出る埃が付着するのを防げます。空気乾燥をするためには、その空間に香り、タバコの煙、塵や埃がない必要があります。濡れたグラスを冷凍庫で凍らせる方法をたまに見かけますが、菌が付くのでやめた方がいいでしょう。

きちんと洗浄されたグラスは、水や塩を入れて引っくり返すと、滑るように中身が落ちていきます。実際にビールを入れて飲んでいくと、グラスの内側の側面に泡がレース状に残っていきます。

ビアスタイルごとに適したグラスを使うことも大切です。シエラネバダは、ドッグフィッシュヘッドブルワリーとグラスメーカーのシュピゲラウとコラボして、IPAグラスをつくりました。

ビールの注ぎ方ももちろん重要です。米国では、指2本分の泡を付けるという基準があります。これにより香りがより感じられます。これはシエラネバダでも実験したところ、やはりこの「指2本分の泡」が良いと結論が出ました。

 繰り返しになりますが、ビールの管理には以下が重要です。
・そもそも質の高いビールを扱う
・常に冷蔵管理をする
・ビールを扱う環境を衛生的にする
・先入れ先出しを守る

パネルディスカッション

パネラー
マーク・スナイダー(BA)
スティーブ・マーゲッツ、スティーブ・グロスマン(以上、シエラネバダブルーイング)
ヘザー&マット・マックラン(スクーナーエグザクトブルーイング)
ジャミール・ザイナシェフ(ヘレティックブルーイング)
マーク・フッド(サウンドブルーイング)
司会:西尾圭司(喜色満面堂)

Q:米国のクラフトビールの普及において、BAが果たした役割とは。
スナイダー:ブルワーたちをサポートしてきました。そして米国のビールの良さを外国に伝えてきました。品質を良くするためにブルワーともに頑張る存在です。
グロスマン:全国レベルでも州レベルでも、酒税法がクラフトビールにとって不利にならないように活動していました。さらに各ブルワリーが輸出を拡大していくに当たって、いろいろな情報提供でもって支援してくれました。

Q:BAはつくり手の団体と理解していますが、米国には提供者側の団体はあるのでしょうか。あるならば、それとの関係は。
スナイダー:バーとレストランの協会があります。目的は品質を守るということで、我々と同じ。情報を共有し、一緒にイベントやセミナーを開催することもあります。

Q:BAのウェブサイトを見ると、50人くらいのスタッフがいることが分かります。彼らは専任なのでしょうか。それとも、ブルワリーや飲食店などの業界関係者による兼任なのでしょうか。
スナイダー:全員ほかに仕事を持っている人です。ブルワリーに所属するブルワーやホームブルワーもいます。役員はブルワリーのオーナーの持ち回りです。

Q:キーケグ、パブケグ、そしてステンレス製のケグのなかで、米国から日本に輸出するのにどれが最適と考えていますか。
フッド:ステンレスが理想的だが、パブケグもよく使います。
ザイナシェフ:私もステンレスが理想的で、圧倒的に品質を保てると思います。しかしさまざまな事情で海外に送れないときは、パブケグを使います。品質管理の面ではまあまあですね。キーケグは品質管理の点や漏れが起きる点で、あまり良くないと考えています。
マーゲッツ:私もステンレスが一番です。これは日本での輸入代理店であるナガノトレーディングとも合意しています。どの方法が一番良いのかを見極めたうえで、それを輸入代理店ときちんと話し合うことも重要だと思います。

Q:ビールを提供するお店の立場として、ブルワーの気持ちを伝えることが重要だと思っています。次にどんなビールをつくろうと思っているのでしょうか。
ヘザー・マックラン:米国ではセッションスタイルが流行っています。昔はダブルIPAなどハイアルコールなものが流行ったが、2杯も飲んだら十分に酔っぱらってしまいます。今は、さまざまなホップを工夫して使った創造的なビールをつくりたいと思っています。

Q:日本のクラフトビールシーンに少しでも触れてみて、どのような印象を持ちましたか。
フッド:今まで飲んだ日本のビールは素晴らしく美味しかった。米国のビールに対する皆さんの情熱は感動的ですね。
ザイナシェフ:日本にはまだ1週間しか滞在していませんが、素晴らしい日本のビールに出合いました。しかし正直なところ、米国やほかの国と同様に、そこまで美味しくないものもありました。お店もお客も、飲んだビールについてブルワーに伝えた方がいいと思います。みんなで一緒にビールを美味しくするのです。
スナイダー:ジャーマンスタイルやチェコスタイルが美味しいですね。実験的な銘柄には美味しいものもあれば、そうでないものもありました。単に面白くて珍しい原料を使うのではなく、バランスを考えたうえで、自分の味を追求していくべきでしょう。

大阪開催ということもあってか、筆者は北陸地方や中国地方の関係者にも会った。そして関西の関係者に次いで多く会ったのが、関東の関係者だ。知りたい情報を得るために、移動距離や時間をものともしない人が多かったようだ。
こうしたイベントは従来であれば東京開催が常であったが、それでは面白くない。日本のブルワリーの所在地が示すように、このクラフトビール/地ビールの盛り上がりは、各地で分散・協調して起きるべきだからである。今後も、東京以外で興味深いイベントが開催されるのを期待している。

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