ほとんどのチョコレートビールは、スタウトやポーターをもとにつくられている。これらのビアスタイルの色と味わいはチョコレートによく合うと思われるので、非常に自然なことである。数は少ないものの、同じ理由で濃色ラガーも合う。特にドッペルボックや濃色の小麦ビールは適している。
ここで一つ、重要な点を明確にしなければならない。いくつかのいわゆる「チョコレートを使ったビール」は、実際にチョコレートの味を添加している。しかし多くの素晴らしいチョコレートビールはそうではない。前者のタイプは、概ね粉末ココアもしくはチョコレートエキスを加えているものだ。チョコレートに含まれる油分が醸造を難しくさせるので、チョコレートをそのまま使うことはまれだ。しかし以上のような添加物は、後者のチョコレートビールには使われていない。つまり、それらのチョコレートのような味わいは、使っている麦芽からのみ得られている。その際の麦芽はたいてい、チョコレート麦芽、クリスタル麦芽、ミュンヘン麦芽、ブラウン麦芽を組み合わせて使われる。前者のタイプは面白味に欠けるがバレンタインのプレゼントにはぴったりな一方で、後者では添加物なしでチョコレートに似た味わいを得ているので、より印象的である。しかしもちろん、それぞれに素晴らしい銘柄がある。
具体的な銘柄としては、英国のヤングス・ダブルチョコレートスタウトと、米国のローグ・チョコレートスタウトの二つが際立って素晴らしい。両方ともチョコレートを加えており、誕生は1990年代に遡る。ヤングスの方は、苦味が出るように焙煎された麦芽の味わいが、甘くてミルクチョコレートのような味わいとバランスが取れている、完全に手づくりのビールである。ローグの方はほかの誰でもなく、札幌のビール指導者であるフレッド・カフマンが日本での販売を広めた銘柄である。味わい豊かでチョコレート感がたっぷりで、牛乳やバニラのような香りもある。そして後味にしっかりとした苦味を感じる。両者は日本で広く買い求めることができる。
今日では、国産のチョコレートビールも数多くある。国産第1号となったのは、ベアレンが2005年に生み出したチョコレートスタウトだ。チョコレートを使わずに豊かな味わいと香ばしさを出している。サンクトガーレンのさまざまなチョコレートスタウトも同様に、チョコレート不使用だ。インペリアルチョコレートスタウトは、豊かなチョコレート麦芽の味わいと同じくらい、ホップの苦味が秀逸である。昨年私たちを驚かせたのはミントチョコレートスタウトだ。今年はスモークトチョコレートスタウトが発売予定であり、味わうのを本当に楽しみにしている。金しゃちはインペリアルチョコレートスタウトとインペリアルチョコレートヴァイツェンの二つをつくっていて、飲み比べると面白い。ほかにも、チョコレート不使用のチョコレートビールとして出来が良い銘柄として、富士桜高原麦酒のチョコレートウィートと湘南ビールのチョコレートポーターが挙げられる。
日本のクラフトビールでチョコレートを使用している銘柄を見つけるのは、ちょっと難しい。一番有名なのはおそらくビアへるんのチョコレートNo.7であり、力強いボディーと豊かな味わいを持ち、1、2年熟成させるとなお美味しい。ほかには、いわて蔵のココアも併用しているチョコレートスタウト、箱根ビールのチョコレートとイチゴの味を添加した独創的な銘柄である「チョコっといちご」がある。
米国でハロウィンの時期にカボチャをビールづくりに使うように、日本ではバレンタインデーのためにチョコレートビールをつくることが確固たる伝統になりつつある。しかしこれは、意見は分かれるところである。多くのビール好きは、特にチョコレートを使用した銘柄は甘すぎてべたつくものであり、そのうちのいくつかは明らかに「やりすぎ」である、と思うだろう。しかし、チョコレートの使用、不使用にかかわらず、たくさんの優れた銘柄を試す機会があるのは素晴らしいことだ。ちなみに筆者は、家でつくったチョコレートケーキに、あまり甘くないチョコレートビールを合わせるのがお気に入りである。
by Mark Meli
All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.
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