Beer Roundup (Winter 2015)

日本の冬は静かだ。そして夜の闇は長い。そのうえ深い、ビールを愛する人の喉の乾きのように、とても深く強い。ビールがあなたの光、温もり、音楽となりますように!

そのためにも、日本各地でクラフトビアバーが新しくオープンし続けていることは実に素晴らしいことだ。醸造所もまた、あちこちで開設されている。大都市でのペースは着実だが、小さな町でもそういったバーが続々オープンしているのを私たちは知っている。もし空港、鉄道の駅、バスセンターで今以上に素晴らしいビールが取り揃えられたなら…。

冬の間、日本のビアフェスティバルは冬眠しているため、今号のビール業界にまつわる興味深い出来事については海外に目を向けることとしたい。

アワード

もしあなたがビール審査会にあまり興味がない場合、次に飲むビールをゲットして本章は読み飛ばし、ニュースレポート「日本のクラフトビールの輸出ラッシュ」セクションに進もう。もし、一流の国際審査会で受賞する一握りの日本の醸造所があると知って、あなたが温かい気持ちになったり、クラクラめまいがするようであれば、急いで本章を読み進めよう! イギリスのワールドビアアワードには世界各地の一流ブルワリーから出品があり、組織は興味深いコンセプトを持っている。まず地域レベルでの審査がなされ、その後審査員によってビアスタイルごとに賞が授けられる。その後、それらのビールは「ダークビール」や「ペールビール」といった、より広いカテゴリで互いに競い合う。その後、このカテゴリー別最優秀ビールのなかから、あくまで国際審査委員会の審査員によるものだが、「世界一のビール」が選ばれる。最終的に、世界一のビールは特別な容器に収められ、ワールドミュージックのレコードと、数カ国語で書かれた「こんにちは」という言葉とともに宇宙空間に打ち上げられる。直前の一行を信じたあなたは、どうぞもう一杯飲んでみて。あなたがた地球人はご存じないだろうが、数十億年前、他の文明がまさにこれと同じことをした。コンテナが彗星と衝突し、凍ったビールの中の残留酵母が付着したその彗星が地球に衝突した。その酵母こそが生命を生み出した。そう、あなたの起源は、その前の文明の「世界一のビール」に辿ることができるのだ(「クラフトビールは死んだ?」の記事にあるクラフトビールの彗星の例えは、あなたが思う以上に適切だ)。

2014年、この世界一のビールに輝いたのは、ベルギーのハーヒト醸造所がつくるトンゲルロー・ブロンドというベルジャン・ブロンドだった。各スタイルにおいては、富士桜高原麦酒がスモークトビールを受賞し、田沢湖ビールがドルトムンター部門で、箕面ビールがスタウト部門で受賞した。日本のブルワリーが、こうした競争率の高い個別スタイルカテゴリで受賞したことは皆さんにとって誇らしいことだろう。ただ残念だが、これらのビールは後の他の惑星での生命の起源に責任を持たない。今ここで楽しむのがベストだろう。
伝統的なヨーロッパのスタイルに基づいてビールが審査されるヨーロピアンビアスターでは、昨年、日本勢は結果が振るわなかった。田沢湖ビールがデュッセルドルフスタイルアルトビア部門で銀賞、ジャーマンスタイルドッペルボックデュンケル部門で銅賞を受賞した。米国とヨーロッパの醸造所が賞を総なめにする傾向があるなか、いくつかのサプライズニューカマーも舞台に上った。カザフスタン、カンボジア、台湾のビールがそれぞれ受賞した。伝統的にビールで有名ではないアイスランドとイスラエルも健闘した。この2カ国がコラボレーションビールをつくったら、ダブル”I”PAということになるのだろうか? このジョークが面白いと思ったら、もう一杯飲もう。もし思わなくても、もう一杯どうぞ。

日本のクラフトビールの輸出ラッシュ

あなたがビール審査会を好まず、前章を読み飛ばしているなら、ちゃんと戻って読むべきだ。私たちは前章で人類の生命の起源について明らかにしたのだ。もしあなたが前章をスキップせずに最初からずっと読み進めている場合、もう一杯飲んで他の人が追いつくのをしばし待とう。

日本に輸入されるクラフトビールの量も種類も増えているように、輸出される日本のクラフトビールの量も増えている。世界各地の何十もの国で日本のクラフトビールがサーバーにつながったり、売り場の棚に並べられたりしている。アジア、ヨーロッパ、北米のフェスティバルに参加する日本の醸造所もますます増えている。11月には、米国の輸入業者で家族経営のシェルトンブラザーズが、南カリフォルニアで2日間にわたるイベントを行い、世界各地から70ものブルワリーが参加した。そこにはベアードブルーイング、ハーベストムーン、箕面ビールや志賀高原ビールも含まれた。ベアードチームはその後、北上し、サンフランシスコ、オークランド、シアトルでの「タップ乗っ取り」イベントに参加した。

一方、コエドビールは、クラフトインポーツという輸入業者を介し、米国へ精力的に輸出してきた。すでに同ブルワリーのビールは、カリフォルニア、イリノイ、ネバダ、ミネソタ、テキサスに、ボトルとケグで流通している。偶然ではなく、これら5州は日本酒を愛するエリアとしても有名だ。ロサンゼルスとサンディエゴ、シカゴ、ラスベガス……オーケー、最初の3州については理解できる。でもなぜミネソタとテキサスが? 実のところ、この2州には清酒メーカーがあり、かなりの数の和食レストランが存在している。とはいえ、日本のクラフトビールが海外の一般的なビアバーでもっと普通に見かけられるようになってほしいと願うのは自然なことだろう。

木内酒造(常陸野ネスト)がここ何年にもわたって、米国および他の国々に輸出し続け、日本にクラフトビールが存在し、しかも美味しいということを証明している点について触れるべきだろう。同社が行ってきたことは、ある意味では、米国や日本において、ベルギービールがプレミア価格のクラフトビールの道をどのようにして拓いてきたかを思い起こさせる。常陸野ネストで成功したことで、他の日本製クラフトビールにもチャンスを与えようとしているようだ。この傾向は、新しく入ったビールの鮮度が落ちてオフフレーバーがあった場合には続かないだろう。もしあなたが輸出を考えている醸造所の関係者であれば、あなたのビールが輸出に耐え得る安定性を確保できているか、いま一度確認してほしい。未来の生命を生み出すための宇宙空間への打ち上げに耐える必要はないが、他の大陸への長旅を生き抜く必要はある。輸入業者を入念に選び抜くことは非常に重要となる。長々とした小言も平にご容赦願いたい。ただ私たちは、あなたがたを気にかけているのだ。

開拓者であり続ける木内酒造に先駆けて、実はある一つのブルワリーが海外市場に目を向けていた。サッポロビールだ。私たちはここで宇宙旅行のジョークを言い続けているが、サッポロビールの銀色のロング缶はまさしくスペースカプセルのようで、多くの商品が所狭しと並べられているスーパーの商品棚でもひときわ目を引く。工業的なラガーとして、ライトだが質は安定していた。大局的にいえば日本のビールにとってプラスであった。現在、日本の大手ブルワリーがクラフトビールに便乗しているという全ての懸念に関しては、おそらくあなたが知る以上に、クラフトビールは大手メーカーから利益を享受してきた。

日本のクラフトビールは昨年のグレートアメリカンビアフェスティバルでさらなる関心が寄せられた。米国産クラフトビールの日本輸入業者であるAQベボリューションの社長、桑野アルバートが日本のクラフトビール業界の歴史と現状についてプレゼンテーションを行った。同プレゼンテーションは日本へ輸出を検討中の醸造所のための情報提供を目的としていたが、同時に、この米国で最も大規模な(そして最もクレイジーな)クラフトビアフェスティバルにおいて、日本のクラフトビールの認知度を上げることとなった。確かに、今ではより多くの人が日本のクラフトビールを求めている。日本もまた新たな魅力的な海外輸入ビールを迎えることとなるだろう。

農業地帯のブルワリーが直面する危機

ジャパンビアタイムズのシニアライター熊谷陣屋が弊誌出版直前、警鐘を鳴らした。彼によるレポートは以下の通り。

衝撃的なニュースが舞い込んできた。本誌2011年夏号にも登場し、カルミナなど高アルコール度数の銘柄で特に知られる岐阜県高山市の飛騨高山麦酒(2011年夏号で特集)が存続の危機に瀕している。長野県松本市と福井県福井市をつなぐ中部縦貫自動車道の建設を理由に立ち退き要求を受けているためだ。同醸造所はちょうど自動車道のコースに当たっている。

要求は3年程前から始まっているが、社長の安土則久の表情は厳しい。「道路を建設する側が当然新しい工場をつくってくれるものと思っていたが、実際は、現在の建物や設備を評価して補償額を提示する方法だった」という。

1996年に設立された同醸造所は、建物や設備もほぼ当時のまま。約20年経った上での評価額では、工場を新設することは到底不可能だ。もし、例え彼らが新しい土地に新しい工場を建設してくれたとして、設備を移設しても、現在利用している地下水がその地でも出るかどうかはわからない。井戸を深く掘れば掘るほど費用がかさむ。今のところ同社は建設者が提示する補償額を拒み続けているが、時間が経てば経つほど評価額は当然下がってしまう。

中部縦貫自動車道の竣工予定は7年後だ。同社地域にはまだ工事の槌音は聞こえてこないが、タイムリミットは刻々と近づいている。飛騨高山麦酒は日本中のさまざまなビアパブでファンを楽しませているし、イベントにはほとんど出ないものの、富山のタナバタビアフェスタで開拓した人もいるだろう。戦いに勝利し今後も末永く醸造し続けてほしいと切に願う。

This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.