Shiroyama Brewery

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鹿児島市の中央部にあり、西南戦争最後の激戦地である城山。ここに鹿児島で最も格式が高い城山観光ホテルがある。そのなかにあるのが城山ブルワリーだ。

このブルワリーはもともと、福岡にあった。1998年8月に、当時博多にもあった博多城山ホテルで、「博多・中洲ブルワリー」として醸造免許を取得し、9月10日から提供を開始した。

現在も醸造長を務める倉掛智之は、この博多・中洲ブルワリーの立ち上げから参加している。倉掛は大学卒業後に城山観光に入社。まず、遊園地事業部のイベント企画担当を任された。イベントで着ぐるみを着ることもあった。その遊園地が閉まった後はボウリング場での勤務を経て、博多城山ホテル(現在は閉館)の営業担当として、宿泊や宴会の営業をしていた。

ホテル内のリカーショップの店長になったときに、転機が訪れた。社内で地ビール事業を立ち上げるにあたり、製造担当者にするスタッフを米国研修に出すというファックスをたまたま手にしたのだ。そして「また米国に行きたい」と思った。「また」と言うのは、実は倉掛は大学時代に米国の大学に短期留学をしたことがあったためだ。それも今や世界的に知られるクラフトビール都市であるポートランドがあるオレゴン州に。当時、ビールは嫌いだったが、現地で初めて味わった「ヘンリーワインハード」というビールは美味しく飲め、以後ビールが飲めるようになった。

米国にまた行けるチャンスということで、その研修に行かせてほしいと上司に掛け合った。「もう人は決まってしまった」と一度は断られてしまったものの、ブルワリー立ち上げのメンバーに入ることができた。1998年5月に、まず伊勢角屋麦酒で、1カ月住み込みでビールづくりの研修をした。「そこで人とのつながりができ、ひと通りの作業の流れを覚えられました」。そうして同年、博多・中洲ブルワリーが誕生。当初のビールのラインナップはレモングラス、ベルギーホワイト、スタウト、アロエ、アプリコット、ラズベリーの六つだった。

ちなみに、伊勢角屋麦酒に倉掛と入れ替わるようにやって来たのが、鬼伝説(北海道登別市)の柴田泰彦である。伊勢角屋麦酒、鬼伝説、そして城山のペールエールを味わってみると、クリーンさとホップの香りと苦みの出し方が似ている。技術の影響が味にはっきりと出るところも、クラフトビールの面白いところである。

本題に戻ろう。ホテル内に設置された醸造施設には一つ問題があった。施設がフロントのすぐ隣に設置されていたため、開放煮沸をするとフロントに麦汁とホップの香りが充満してしまうのである。宿泊客のことを考え、仕込作業を思うようにできず、伊勢角屋麦酒で得た製造法を生かすことができなかった。「今のブルワリーも決して広くはないですが、中洲のほうがもっと狭かった」と倉掛は振り返る。
米国には結局、2002年に行くことができた。11日間でシアトル、デンバー、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サクラメントを回った。そしてデンバーで訪れたワインクープ醸造所では、非常に歓迎され、工場を親切に案内してくれ、さらにスタイルごとにどんな酵母を使っているのかを教えてくれた。

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2003年9月に博多城山ホテルが残念ながら閉館すると、醸造施設を鹿児島の城山観光ホテルに移して再スタートを切ることになった。すでに醸造に関する「永久免許」を取得していたため、免許の移転は比較的スムースにすることができた。そして2004年4月23日に製造を再開。移転してから、デンバーのワインクープ醸造所での経験を踏まえ、従来の乾燥酵母から、スタイルごとに異なる液状酵母を用いることにした。

ほかに海外から得た知見として、ドライホッピングの手法がある。一般的に生ホップを2週間漬け込むが、ペレットを使ってわずか6~8時間で仕上げる方法を知った。さらにモルトに関しては、挽き方を粗くすることにより、焙煎モルトの風味が豊かになった。

倉掛のビールづくりは挑戦的かつ創造的で、アイデアに満ちている。前述のようにフルーツやスパイスをうまく使ったり、かつてはアルコール度数8%でハチミツを使用したスコッチエールを定番として製造したりしていた。

2006年にバレンタイン商戦で、特にデパ地下とギフト用の通信販売でチョコレートビールがヒットすると、チョコレートモルトを使用しているスタウトを積極的に売り出す手もあった。しかしこのビールは黒糖を使っているという特徴があり、チョコレートの特徴とバッティングするため、やらなかった。そこで、バレンタインデーから連想してホワイトデーに着目し、「ホワイトデーに飲むビール」としてベルギーホワイトを積極的に売り出し、好評を得た。

このベルギーホワイトという名のベルジャンホワイトは、「オレンジの皮」として桜島小みかんを使用している。桜島小みかんの収穫時期は12月中旬~1月中旬の1カ月。年間製造に必要な25キログラムの皮を得るために、倉掛はこの時期になると毎食、桜島小みかんをむいて実を食べ、皮を蓄える。まさに手づくりである。そうして得た皮や、ほかの生の副原料は、ホテル内のレストランですぐにパウチする。冷蔵・冷凍保管できて便利だ。

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この秋に登場した限定醸造である「万咲(まぁざく)」というIPAは、使用している徳之島産の長命草の別名で、ベースとなっているビアスタイルはIPA。香りは穏やかながら、口に含むとIPAらしく口いっぱいにホップと何か健康的な味わいが広がる。この健康的な味わいは、万咲由来なのだろう。この冬にはさらに、トラピストスタイルの限定醸造に挑戦するという。

2013年8月からは製造スタッフとして、西村之孝が加わっている。西村は、以前は鹿児島県霧島市にあった薩摩ビール園(現在は閉園)で醸造長をしていた。18歳のときから20年近くビールづくりを続けてきたベテランである。

現在の生産量は年間約30キロリットル。2004年の再スタートの年と比べると、約4倍になっている。これで生産能力ギリギリである。「今思えば、昔はいかにヒマだったかということですね」と笑う倉掛は、自身がつくるビールが支持を得ている手応えを感じている。「飲んだお客が笑顔になるビールをこれからもつくっていきたい」とも言うが、飲んだ人が笑顔になれるのは、いつも笑顔の倉掛が保証しているようなものだ。彼はいつも自分のビールを飲んでいるのだから。

城山ブルワリーのビールは、東京、大阪の特定のビアパブでも飲むことができるが、やはり一度は城山観光ホテルに泊まってホテル内の飲食店で楽しみたい。ホテル内にあって桜島を一望できる温泉から上がってすぐのところに、ビアサーバーが設置されている。

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