米を含んでいるビールのうち、世界で最も有名(いや悪名高いと言うべきか)なものはおそらくバドワイザーだろう。バドワイザーは醸造当時から米をレシピに加えている。多くの人が、米を入れる理由は原料コストを下げるためだと考えているが、実はそうではない。バドワイザーが用いるアメリカ産六条大麦含有のタンパク質が原因でビールは濁ってしまうのだが、米はこの濁りをクリアーにする働きを持っているのだ。さらに、アメリカという土地が非常に農産物に恵まれているとわかったヨーロッパ移民は、アメリカ流の大量の食事にボディーが強いヨーロッパスタイルのビールを合わせなくなった。ライトなビールこそが食事と合わせる新しい選択であり、ほとんど完全に酵母に食べられる糖を持つ米は、ビールを軽くするために使われるようになった。
そうして工業的なラガーに米がたくさん使われるようになった。クラフトビールではどうだろうか。実際、米はクラフトビールづくりでも同様に非常にポピュラーで、特に日本ではそうだ。ここ日本でよく見かけるのは、新潟にとどまらず人気の「コシヒカリラガー」だ。日本で米を使ったビールは飲み口が軽く、薄い色をしたラガーで、コメの味わいはそれほどない。事実、そうしたビールのほとんどは、コメの味わいをまず感じさせない。
酒米を使ったエールや、まだ良いものはないが清酒麹を使ったエールは、私にとっていっそう興味深い。酒米の味わいと香りをビールにどれだけ付けるべきかという議論は続いているが、近隣で採れたり、自分たちでつくったりした酒米を使っている醸造士は、新しいビールの創出という点で大きな進歩を遂げてきている。酒米を使ったビールで私のお気に入りは、大山Gビールの「八郷(やごう)」だ。ベルジャンスタイルの酵母を使用していて、例えるなら、力強くてスパイスを使っていないベルジャンスタイルホワイトビールのような味がする。また、志賀高原ビールの「山伏(壱セゾンワン、弐セゾンノワール)」は、使用している酒米・美山錦が、ベルギービールがつくられる際のキャンディーシュガーが果たす役割と同じく、ボディーを軽くする。これらよりもっとライトだが同じくらい興味深いのは、小西酒造の穂和香だ。アルコール度数3%のベルジャンスタイルホワイトビールで、やはりボディーを軽くするために酒米の山田錦を使用している。とても繊細で、優美な軽やかさを持っている。
ほかのいくつかの醸造所は、麹を使ったビールや、清酒酵母で発酵させたビールをつくっている。この両方を実践している素晴らしいビールはビアへるんの「おろち」というアルコール度数10%のビールだ。このビールは毎年飲んでいるが、米と麹の味わいと、酵母からもたらされる吟醸酒のようなフルーティーさを併せ持つ今年のものが最も清酒に近づいている。それでいて危険なほど飲みやすい。
日本にはほかにも、特産の米や清酒づくりの技術を援用したクラフトビールがたくさんある。それらのなかには例えば、ひでじビールの「黒米エール」と小西酒造の「ガーネットルージュ」があり、どちらも黒米を使っている。いわて蔵の「もち米ビール」には、その名の通り、粘り気のあるもち米が使われている。京都麦酒の「蔵のかほり」は清酒酵母を使用。独歩の「雄町米ラガー」は酒米を用いている。伊勢角屋麦酒はかねてから玄米と古代米を用いたビールをつくってきた。
米を使ったビールは、一時は日本の「おみやげビール」だった。日本的なものに聞こえるし、地域文化を売り込むことができたかもしれない。しかし、それらのビールが、ビールそのものとして個性を持つかどうかについては、あまり注意は払われなかった。私たちは今、そうした段階を越えて、米を使ったビールがクラフトビールとしてもっと真剣にとらえられる時代にきている。今度米を使ったビールを飲むときは、米がどのように使われ、どんな結果が得られているのか、細心の注意を払ってみよう。きっと驚くべきことが分かるだろう。
by Mark Meli
All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.
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