しかしベイ・ブルーイングの鈴木真也が横浜大桟橋ホールで主催するジャパン・ブルワーズカップ・フェスティバルは1月末の真冬の寒さの中で開催され、第2回目となった今年は数千人が来場した。酔っ払って曖昧な記憶によると、本イベントはクラフトビールのみならず音楽の祭典でもあった。J-POPアイドルバンドのファンではないが(大手ライトラガーの音楽版)、ギタリスト・大久保初夏率いるブルース・トリオには圧倒された。美味しいクラフトビールを飲みながら、若い日本人女性にスティービー・レイ・ヴォーンが乗り移っているのをあなたが最後に目撃したのはいつ?
一方、志賀高原ではクラフトビールとライブミュージックの祭典、スノーモンキービアライブが3月に開催された。フード類も魅力溢れるものが用意され、フードコーナーはお腹を空かせた人たちで大混雑。今年で3回目を迎えたこのフェスはビール、フード、音楽、そして志賀高原ならではのスキーと温泉、これらの魅力を同時に楽しめる素晴らしいビアフェスとなった。同フェスの別バージョンとでもいうべき梅雨水牛ビアライブが本誌主催で今年の夏に開催される計画もある!? (冗談です)
4月には地ビールフェスタinひろしま2014が開催された。今年は秋口ではなくこの時期が選ばれたのはわけあってのことだろう。秋はビール好きの肝臓も疲れ気味、財布の中身も寂しくなっているし、いわゆるフェス疲れが出てくる季節だからだ。同フェスの主催者(広島のクラフトビアバー、Golden GardenやRaku Beerも経営)は去年までの飲み放題制から今年はチケット制に変更した。確かにクラフトビール初心者や、そんなにたくさんは飲めないという一般の人たちにとってはチケット制の方がずっと都合がいいだろう。会場に選ばれたのは旧広島市民球場跡地という開放感溢れるロケーション。余談ながら、ケグ・ソフトボールという遊びがあるのを知っているだろうか?(インターネットで調べてみよう)
クラフトビールに関する啓蒙活動と業界支援を行ってきたグッドビアクラブが今年1月末に創立10周年を迎えた。メーリングリストやウェブサイトを通じて情報を共有し、グッドビアタイムスという季刊情報誌の発行や、テイスティング会などの各種イベントなどを行なってきたNPO/NGO団体である。10年の長きにわたってクラフトビア業界の支援に努めてきたその功績を称えよう。同団体について詳しくはwww.goodbeerclub.orgまで。
今年早春には世界で最も大規模なカンファレンスとビアコンペが開催された。米国で毎年開催されているクラフトブルワーズカンファレンス(CBC)と、隔年で開催されているワールドビアカップ(WBC)である。これらのイベントの開催期間は寝ても覚めてもビール。興味深い発表や展示、セミナーなどの他、ローカルブルワリーツアーもあるのでさらにビール漬けとなる。
本誌ジャパンビアタイムスはWBCのオフィシャルスポンサーとしてこのイベントの開催地であるコロラド州デンバーに飛んだ。プロ野球チーム、コロラド・ロッキーズのお膝元であるクアーズフィールドでレセプションパーティが開催された。大手ビールメーカーが出資する施設でクラフトビールの祭典が行われるという皮肉な状況を参加者は皆意識していたようだ。これがもしコロラド州のクラフトブルワリー、例えばレフトハンドブルーイングの所有施設だったとしたら「レフトハンド(左利き)フィールド」になっていただろうか。そうなったら右利きの野球選手が気まずい思いをしただろうか…。
話を本題に戻そう。CBCの方はどうかというと、昨年の4割増の9000人近くが参加し、開会のあいさつに続いてBrewers’ Association of America(米国醸造者協議会)のメンバーによる発表が行われた。この中でディレクターのPaul Gatza氏らにより、アメリカのクラフトビール業界の成長ぶりに関する驚くべきデータが発表された。日本でクラフトビールの“ブーム”が起きているとするなら、アメリカでは“超新星爆発”並の現象が起きているのだ。しかし、氏は発表の終わりにブルワーたちに対して厳しい警告を発していた。「ここにいる多くの皆さんの力によってここまで大きく成長してきたこの業界を皆さんの手で潰してしまうことのないように」。彼はクオリティの低いビールが市場に出ることを戒めているのだ(「美味しくないビールは世の中の敵です」という我々のメッセージにも賛同してくれるだろうか)。健全に見えるアメリカのクラフトビール市場でさえクオリティコントロールに苦しんでいるという事実に言及したという点で、このスピーチは大変意義深いものだった。日本のクラフトブルワーも先輩ブルワーたちの助言を受けたり意見を求めたりして、クオリティの向上、維持に努めてほしい。
CBCでは表彰も行なわれ、Teri Fahrendorf氏がB.A. Recognition Awardを受賞した。氏はこの世界に入って25年以上のキャリアを持つ女性ブルーマスターで、ビール業界で働く女性を支援する団体Pink Boots Societyの創設者でもある。これにちなんで日本では東京のウォータリングホールの女性スタッフらが国際女性デーを祝うイベントをこの3月に行い、女性ブルワーを擁するロコビアとのコラボレーションビール、Unite Pale Aleがリリースされた。アメリカをはじめ、ビール文化が盛んな国々の中でも日本は飛び抜けて女性ブルワーの比率が高いことはちょっと意外な事実である。
今年のRussell Schehrer Award for Innovation in Craft Brewing(醸造における革新性と素晴らしさに対するラッセル・シェラー賞)はストーンブルーイングのミッチ・スティールに贈られた。覚えている読者もいると思うがストーン、ベアード、そしてグアムのイシイブルーイングのコラボにより東日本大震災の応援ビールが震災後間もなくつくられた。ミッチ・スティールが訪日する話や、コエドとストーンによるコラボの噂もある。
CBCのイベントの中で私たちの一番のお気に入りはBrewExpoだ。これはサッカー競技場ほどもある広大な展示ホールに関連業者のブースが無数に立ち並ぶイベント。出展業者は醸造設備メーカーからホップや大麦の栽培業者まで多岐にわたる。アメリカのクラフトビール業界のスケールの大きさと多面性を肌で感じることはとても刺激的な体験となる。本誌を愛読してくださっているブルワーの皆さんも是非一度はこの大イベントに参加してみてほしい。
週末に行われたワールドビアカップアワード受賞式では、コエドがまたもや受賞の栄誉に輝いた。アメリカンスタイルアンバー部門で伽羅が銀賞を受賞したのだ。またこちらもアワード受賞式でおなじみのブルワリーである富士桜高原麦酒のヴァイツェンがジャーマンスタイルヘフェヴァイツェン部門で銀賞を受賞した。そして、やはりいいものはいい、ということだろう。インターナショナルスタイルラガー部門でアサヒスーパードライが金賞の栄冠を勝ち取った。WBCはワールド“クラフト”ビアカップではないから、どんな大手ビールメーカーも参加できるし、彼らが実際に賞をとることもある。ここで一つ提案。日本の美味しいクラフトラガー、例えば富士桜、コエド、田沢湖、ベアード、横浜ビールなどのビールを飲むときにアサヒスーパードライと飲み比べてみてはどうだろう。皆さんの感想を聞きたいところだ。
ミドルクラスの最優秀ブルワリー/ブルーマスターに選ばれたのはサンディエゴのコロナドブルーイング。彼らのビールはナガノトレーディングが輸入しており、同社の醸造チームは昨年来日してビアフェスに参加したり、コエドとコラボビールの醸造を行ったりした。日本のクラフトブルワリーもいつの日かこのような大きな賞をとることがあるだろうか? コンペにビールを出して受賞を狙うのはギャンブルみたいで嫌だという人もいるようだが、色々と思いを巡らせ、想像するのはやはり楽しい。
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