Okinawa: Hop-Stepping From Island to Island

by Kumagai Jinya

夏。突き抜ける青空、透き通る碧い海、そして実は最高気温がめったに35℃までは上がらない、亜熱帯の160もの島々からなる、沖縄。新鮮なビールを飲むにはたまらないこの環境で、最初に飲むのはオリオンビールでもいいかもしれない。では2杯目以降に飲むべきビールは?クラフトビアファンの欲求を満たすべく、沖縄のビアシーンが盛り上がりを見せている。

ここ数年の沖縄のビアシーンにおいてホットな話題の一つは、2010年10月に製造・販売を開始した宮古島マイクロブルワリーだ。高橋正規と美起の夫妻がブルワリーと併設パブを営んでいる。

高橋正規がもともとビールを好きになったのは、今から15年ほど前にバス社のペールエールを飲んでからだ。さらに2006年頃、新聞記事で知った埼玉の麦雑穀工房ブルワリーを訪問、初代醸造長の馬場勇と出会い様々なアドバイスを受けたことで、ビール造りに対するリアリティーを得た。

宮古島は隆起サンゴでできた島で、川がない。水道水は地下水で、石灰質の隆起サンゴで濾過された雨水。もちろん硬水だ。高橋がこの水質を馬場に報告したところ、ペールエール発祥の地であるイギリスのバートン・アポン・トレントの水に似ているから、まったりとした良いペールエールができるかもしれないとアドバイスを受ける。高橋の原体験であるバスペールエールと、彼自身の人生が一つにつながった瞬間だ。そして2008年、この島に移住し、2010年8月には発泡酒醸造の免許を取得、10月から製造・販売を開始した。

ラインナップはペールエールスタイルの「コーラルエール」、宮古島からほど近い多良間島の黒糖を使った「コーラルダーク」、そして麦雑穀工房ブルワリーで惚れたスタイル、「ヴァイツェン」だ。

パブの営業時間は15時から日没まで。さらに曜日によっては電話予約が必要だ。これは「居酒屋感覚ではなく、試飲に来てほしい」という高橋の思いの現れである。ラストオーダーの声を聞く頃には、きっと素晴らしい夕日が見られるだろう。

昨年、とても沖縄らしいビール「ゴーヤーDRY」が、インターナショナル・ビアコンペティションのフリースタイル・ライトラガー(ボトル/缶)部門で金賞を、BeerFes横浜では神奈川県知事賞と横浜市長賞を獲得。一気にクラフトビアファンへの認知度を高めたのが、ヘリオス酒造(名護市、本誌2010年夏号にも掲載)だ。

彼らの歴史は決して浅くはない。1996年のビール規制緩和後、早い段階からビール造りを進めてきた。当初のラインナップはラガー、ペールエール、ヴァイツェン、ポーターであり、翌1997年には冬季限定の「サンタビール」、そして2003年にはゴーヤーDRYの発売を始めている。

ビール醸造15周年に当たる2011年、彼らは沖縄県外への展開を図った。まずはゴーヤーDRYの缶が首都圏の高級スーパーなどに置かれるようになり、9月には横浜でBeerFesへの初出展を果たす。さらに2012年4月に東京・秋葉原で開催されたニッポンクラフトビアフェスティバルに、同年6月にはBeerFes東京にも出展した。これらすべてに参加した東京支社取締役営業本部長の松田あすかは、「会場の熱気とファンの声に手応えを感じた」と振り返る。

ヘリオス酒造のビールをケグで飲みたいなら、那覇市の国際通り沿いにあるヘリオスパブに行くのが最も確実だ。首都圏では横濱チアーズや、沖縄出身の内間安理が店長を務めるクラフトビアマーケット虎ノ門店で、タイミングが合えば飲めるかもしれない。

同じく受賞の面で話題なのは、沖縄本島南部・南城市の観光施設「おきなわワールド」内にある、株式会社南都の南都酒造所だ。ここで造られるビールは「ニヘデビール」という名前を冠したソフト(ケルシュ)、ハード(アルト)と、2012年2月に登場したブラックエールの3種類である。

工場長を務める我那覇生剛は2000年に入社。翌2001年にニヘデビールの製造・販売が開始される。我那覇のビール造りは、ある中古の醸造設備を買ったことから始まったが、前オーナーがそれを手放した理由が洗浄の不徹底によるビール造りの失敗だったことを知る。当たり前のことかもしれないが、このときから我那覇は洗浄の徹底を肝に銘じた。ビール造りにおける汚染事故を一度も出していないことが、その表れだ。

スタイルとしてケルシュとアルトを選んだ理由は、一定の人気が期待できること、誰もが飲みやすいさっぱりとした飲み口ながら大手メーカーのピルスナーとは差異化を図れることだ。

2004年からインターナショナル・ビアコンペティションでも受賞するようになり、自信を得て、2006年のワールドビアカップに「試しに」出品したところ、ソフトが銀賞を受賞してしまった。「まだまだ勉強しなければならない。ソフトだけでなくハードも金賞を取るまでやります」と我那覇は意気込みを見せる。

ブラックエールは横濱チアーズのハウスビールでもある。当初は限定醸造の予定だったが、濃厚そうな見た目に反してスッキリした味を実現、沖縄のイベントで人気を博し、定番アイテムとなった。

「石垣島地ビール」のブランドを展開する石垣島ビール株式会社代表取締役の塩谷篤は、祖父の代から石垣島の住民である。1994年に会社設立、1997年に製造・発売開始したが、会社設立以前から「この暑い島の特産品としてビールを作りたい」というメンバーが集まり、1991年には早くもドイツへビール研修を実施していた。そして1994年のビール規制緩和を受けて醸造免許の取得の準備を進めた。

規制緩和と同時にドイツのビール醸造所であるダックスブロイ社と業務提携し、製造法と酵母の提供を受ける。そしてヴァイツェン、へレス、デュンケル、ピルスナーの4種類で製造・販売をスタートした。ヴァイツェンはダックスブロイのそれと同じく褐色がかっていて、どっしりした味わいだ。

現在は「ヴァイツェン」「マリンビール(前述のへレスを改良)」「デュンケル」「白ビール(いわゆるヘーフェヴァイツェン)」「夕暮れ海岸ビール(赤みがかったラガー)」を展開している。島内では土産物店の「ことぶき」や居酒屋などで、ケグで石垣島地ビールを楽しめる。ボトルはコンビニエンスストアでも販売されており、塩谷はもっと島の住民にも飲んでもらいたいと願っている。そのため、石垣島地ビールの空きビンを工場まで持って行くと、1本につき地域通貨10円分と交換する取り組みも実施している。

石垣島特有の、ビール造りにおける苦労がある。石垣島を襲う台風は、県外のそれと比べれば「若手」であり、威力が強い。台風シーズンには、仕込み時に停電で温度コントロールが不可能になってしまう事態を避けるため、台風情報をにらみながらビール造りをしなければならない。

沖縄のブルワーの誰もが一様に語るのが、横濱チアーズの代表・堀川秀樹の貢献である。店で沖縄のビールを積極的に提供するだけでなく、年に数回は自身が沖縄を訪れ、ブルワーたちとコミュニケーションを取っている。さらに、興味のある同業者・ファンとブルワリーとのつなぎ役も買って出ている。

那覇空港に就航するローコストキャリアの拡充に伴い、沖縄県内のビアパブも増えており、クラフトビアファンにとっては快適な環境が整いつつある。この夏はビアバカンスを楽しむために訪れてみてはどうだろう。

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