Minoh

箕面ビールほど関西地方に根付いているクラフトビールは他にないだろう。1996年にスタートし、今では全国にビールを出荷している。大阪には、提携企業が経営する「ビアベリー」という直営店が3軒ある。このうち今年4月にオープンしたばかりの最も新しい店舗は、狭い裏道やショッピングモールがあるファンキーなエリアにあり、今までで一番良い店のようだ。

箕面ビールの所有者で運営の大部分を行う大下ファミリーは、醸造所を開く以前の30年間、酒屋を経営していた。その全てを変えた出来事には醸造長で3姉妹の長女にあたる香織が関わっている。

「ある晩、家族で夕食を食べに行き、車で戻る帰り道。この場所を通りながら父が言ったんです。『明日からな。おまえはここでビールを造るんだ』。え?誰が?って感じでしたよ。」

ファミリーのボス大下の冗談は、しかし冗談では終わらなかった。彼は実際にニュージーランドから醸造システムを購入し、香織は本当に醸造を始めることになったのだ。それが「明日」ではなかっただけだ。彼女は神戸の工場でまず1ヶ月修行した後、広島県東広島市にある国税庁醸造研究所(当時)のとても小さな醸造システムで修行を続けた。しかし彼女にとって本当の修行は仕事を始めてからだった。

1年目は本当に辛かった、と香織は言う。今までの修行で扱ったものとは異なる自社設備の複雑さを理解すること、これが最初の難関だった。1996年の後半頃には、初期の地ビールブームが既に下火となり、醸造所が潰れ始めた。地ビールに対する世間のイメージが冷たい中で、縮みつつある市場で支持を得るのは厳しい戦いだった。

「スタイルについて教えてくれる人などいませんでした」と香織は認める。「失敗から学ぶしかなかった。レシピをひねり続けました。ありがたいことに、ビールの味は少しづつ改善されていきました。」

当初は麦芽エキスを使っていたので、醸造における労力は麦芽を使用する場合よりも若干小さかった。しかし2002年には麦芽の使用に切り替える。彼女がブルワーとして成長していく過程では、ブルワー仲間同士の情報交換にも大きく助けられた。伊勢角屋麦酒の中西は素晴らしいメンターだったと彼女は感謝している。
「ここ関西地方では、私達ブルワーはとても固く結束していて、醸造に関する情報交換も本当に盛んです」

殆どのレシピでエキスの使用をやめて麦芽へシフトしたのは、特に試練の時期だった。当時の地ビール業界は底を打っていた。自分達のビールが売れそうには見えなかったという。人々は90年代の話を引きずり、地ビールは不味くて高いと文句を言っていた。更に、地元大阪ならではの特徴も状況に拍車をかけたのではないか。大阪の人々はお得なものが好きで、遊興費に関してはつつましく倹約する傾向にある。大阪は日本で唯一、クラフトビールが地盤を確立できていなかったと思われる街だ。最近になってバーが次々とオープンするまでは、確固としたクラフトビールバーは、ビアベリー以外ではエニブリュとQbrickしか無かった。

「クラフトビールはまだ流行としての大きな人気を得てはいませんが、着実に成長してきています。それに、東京でクラフトビールが盛り上がる様子を見てきたバーのオーナーさん達が、関西を引っ張っています。

スタウトとインペリアルスタウトの人気は、疑いなく箕面ビールの成長に貢献している。豊かなフレーバーに良い香りとボディ。近年、箕面ビールはワールド・ビア・アワードで2度も金賞を受賞している。レシピはすべて香織のものだが、妹が、飲みたいビールのイメージを姉に伝え、それを香織が造ることもあるという。箕面ビールの中でも面白いビールの1つに「カベルネ」がある。箕面ビールでは当初からフルーツビールを造っており、理論的にはこの「カベルネ」も、その1種だ。しかしこれはサワービールに近いのだ。恐らく、日本で最初のサワービールの1つだろう。サワービールはアメリカで大きな人気があり流行している。箕面ビールにも是非、試みを続けてもらいたいものだ。

日本の女性ブルワーとしてアイコン的な立場にある香織は言う。「皆さんには、私ではなくビールに注目していただきたいです。品質が理由でビールが売れるようにしたい。」

速報!

箕面ビールのゆずホワイトがフルーツ・ウイートビールのカテゴリーで金賞を取ると、ワールド・ビア・カップの受賞ガラディナー会場では、日本人のテーブルから歓声が上がった。ヒューガルデンのようなウイートビールで広く使われているオレンジピールの代わりに、地元産の柚子とコリアンダーを使ったビールだ。本来は冬季限定のビールだが、受賞発表の後、箕面ビールは、ゆずホワイトを今年の夏にも出すと約束してくれた!
http://www.minoh-beer.jp

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