Yona Yona

七夕の夜によなよなエールの歴史は始まった・・・

今や世界的にその名を知られるようになった「よなよなエール」がこの世に初めて出たのは1997年の七夕の頃のこと。醸造所設立のきっかけは、親会社の社長である星野佳路がアメリカ旅行の際に現地のクラフトビア、特にエールに魅せられ、日本でも美味しいエールを造りたいと思ったことから。そしてよなよなは今でもエールに特化してビール造りをしている。CEOの井手直行いわく、「香りとコクのビール、それがエールです」。

日本のクラフトビア産業に対するよなよなの貢献は大きい。優れたマーケティングにより日本全国に広まった彼らのリアルエールとハンドポンプはたくさんの人たちがクラフトビアの世界に魅せられるきっかけを作ってきた。同社は缶ビールも創業当初から造っていて人気が定着している。

「家庭で気軽に飲めるようなビールを目指しました。大手のビールメーカーも家庭で気軽に飲めるということについてよく理解しています。しかしグラスに注いで飲むのは重いですし、割れたりすると環境にも優しいとはいえません。一方、缶は軽くて取り扱いも便利ですし、省スペースなのでスーパーなどでは在庫が楽です。私たちは創業当初から、会社が大きくなるためには缶ビールが重要だという考え方を持っていました。しかしすべて自社でやろうとしていたので始めの頃は缶の中身が泡だらけになるなど失敗の連続で、結局は立派な製缶機械の購入に大金が掛かってしまいました」と井手が説明してくれた。

小さな醸造所ではそのような高価な機械を購入する余裕はないし、醸造所によって条件に差があるのは当然のこと。しかし井手は言う。「当社でも製缶機械に関しては購入から利益が出るまでに8年も掛かりました。ある種のビールをある種の方法で造ろうとしただけなのですが、結局そんなことになってしまいました。しかし、売り上げ目標達成には自信を持っていましたし、とにかく前進するしかありませんでした」。よなよなは年間生産量を公表していないが、クラフトビアメーカーとしては現在最大手だと思われる。しかしその地位に到達するためには多くの苦労があったわけである。

2002年は売り上げが伸び悩み、試練の年となった。地ビールブームが去り、業界全体が停滞したのだ。よなよなは自社ビールを全国のパブに広めようとしたが、当時は受け入れられなかった。しかし、東京の某有名パブがよなよなエールの取り扱いを始めたことから突破口が開けた。このパブは同業他店のオーナーたちが新しいビールのチェックに頻繁に訪れるような店だったので、よなよなにとってはいい宣伝になり、同社のビールは他店にも広まっていくことになった。ハンドポンプは当時まだ日本では珍しく、ビールを注ぐこと自体がある種のパフォーマンスとなり、お客の目を楽しませたことから、よなよなを飲むこと自体がちょっとした話題性を持つことになった。

しかし井手はリアルエールの世界を冷静に見ている。「リアルエールはまだまだニッチなビジネスです。ビールマニアにはもてはやされますが、一般大衆のビール消費の主流になるにはまだまだです」。よなよながリアルエールの製造から撤退するのではという噂があるようだが、井手はこれを否定した。「撤退の予定はありません。それどころか、新開発の缶でさらにリアルエールの世界を広げていくつもりです」。

今年よなよなは新しいスタイルのビールにも注力しようとしている。ホッピーなIPAである。醸造長の田口昇平に聞いてみよう。

田口は1999年に初めてアンカースチームを飲んでクラフトビアの魅力を知った。その後アンカーのオーナー兼ブリューマスターであるフリッツ・メイタグが書いた本を読み、ビール職人になることを夢見て2000年にはホームブリューを始めた。6年後、群馬のキャンプ場にあった店舗で働いていた時に、よなよなの社員が営業に来たので、田口はその場で雇ってくれるように頼んで入社にこぎ着けた。入社後しばらくは、横目で醸造所内の様子を羨ましそうに見ながら缶ビールを箱詰めするような仕事しか与えらず、醸造を手伝いたいと何度か願い出たがそのたびに却下された。しかし諦めず、やがてチャンスをつかむ時が来た。

出来上がったビールをテストするのに同社がパイロットシステムを採用していることは興味深い事実である。ホームブリュワーには最適な方法だが、田口によると「醸造の規模やレベルによってパイロットシステムの意義は異なります。ホームブリューの場合は味の変化も楽しみの要素となりますが、醸造所では一貫性が大事です」ということである。彼の目下の関心事はサワーマッシュとのこと。ドライホッピングを行わずにいかに魅力的なホップアロマを付けられるかということについて研究を重ねているらしい。「色々なビールを造ってビールの世界に新風を吹き込みたい」。特に好きな銘柄はないというが、コロラド州にあるニューベルジャン醸造所は気になる存在で、特に彼らの環境問題に対する姿勢を尊敬しているという。

よなよなが掲げる新しい目標は拡大するクラフトビア市場によくマッチしたものだ。「日本のビール文化をもっともっと充実させたいと考えています。ビールを通じて幸せを提供すること、それが私たちの使命です。多彩なスタイルのビールを造っていきたいですし、もっとたくさんの場所で多くの人たちに私たちのビールを楽しんで欲しい。より豊かな香りとコクを持つビールを造り、色々な可能性を試していきたい」と井手がコメントしてくれた。そしてびっくりするようなことを口にした。「今年の後半には東京に直営パブを開店します」。田口が今後も香りとコクのビールに取り組んでくれることを期待しよう。

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