Grain

by Kido Hirotaka

穀物とは、植物の種子であり、デンプン質を主体とする食材です。

その栽培の容易さや保存性の高さ、そして人々に必要な栄養を得る為に、昔から主食として用いられてきました。

ビール醸造に使用される穀物と言えば、大麦・小麦が主に使用されます。

大麦や小麦は、世界で最も古い作物で約1万年前から栽培されていると言われています。麦は、とても生産性が高く、新石器時代にシュメール人が、麦を栽培したことにより、人々が農耕だけに専念しなくてもよくなった為、文明を生むきっかけになったといわれています。(食物が豊かになったので、他の事も出来るようになった訳ですね。)

つまり『大麦・小麦は、人類の文明を作った食物!!』と言っても過言ではないでしょう!

ビール醸造には、この大麦・小麦が主原料となり、ホップ・水・イーストで造られます。ですが、ビール醸造には、これ以外にも様々な穀物が使用されています。

ベアードビールの季節限定『ブルーマスターズナイトメアー“ライ”IPA』や伊勢角屋麦酒の季節限定『“ライ”ツェン』に使用されているのは、『ライ麦』です。

もともとは、小麦畑の雑草だったと言われている『ライ』の種子、『ライ麦』は、パンにして焼いたり、ウイスキーやウォッカの原料でもよく使われています。

特有のスパイシーな風味と粘り気をビールに与えてくれますが、この粘り気が少々厄介で、醸造工程のロータリングという、ろ過の工程で、目詰まりを起こす原因となる為、ブルーマスターの高度なテクニックが要求される原料です。

ライ麦の他には、朝食でお馴染みの『オートミール』がよく使用されます。日本では『エンバク』や『カラスムギ』と呼ばれています。『オートミール』は、脂肪や油が多く含まれる為、ビールがなめらかな口当たりになります。オートミールスタウトとして、少し濃いめのスタウトに使用される事が多いようです。

麦以外にも、大手ビールメーカーでは、ビールに米やコーン、スターチを使う事がほとんどです。これの目的は、麦の風味を抑え、スッキリとしたビールに仕上げる為に使用されます。米やコーン、スターチをビールに使用するのは、『ビール原価を下げる為』と思われがちですが、麦芽に比べて、米の方が原価的に高くなります。コーンも、それ自体は、麦芽より安価ですが、加工するコストを考えると、麦芽と同じくらいか、それ以上になってしまいます。ちなみに、『スターチ』は、大手ビールメーカーの表記だと、『米、コーン、スターチ』と書かれている為、『コーンスターチ』と捉われがちですが、これは間違いで、ただの『スターチ』です。片栗粉の様な、なんだか分からないデンプンが使われています。

米は、麦芽風味を抑える為だけに使用される訳ではありません。伊勢角屋麦酒が、季節限定で醸造する、『古代米エール』や『玄米エール』は、大手ビールメーカーの米の使い方とは、まったく逆で、米の特徴を顕著に出しています。

どちらも、昔よくおばあちゃんが餅を乾燥させて、砕いて揚げて作ってくれた“あられ”の様な、お米の香ばしいフレーヴァーが楽しめます。日本人には、とてもなじみ深く、海外の方々にとっては、珍しいテイストになっています。

人類の主食。酒の主原料。そして、文明の主人公を作った“穀物”。人類は穀物なしでは語れませんね。

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