Echigo

エチゴビールは国産クラフトビア第一号。1994年12月9日にビール醸造ライセンスを取得、翌1995年2月16日に創業した。それはオホーツクビール創業の前日のことだった。規制緩和によって幕を開けた日本のクラフトビア業界の先駆けとなったわけだが、そこに至る道のりは決して平たんではなかった。先駆けだったからこそ、まだクラフトビア文化も無ければ、指標となるものも無い状態でスタートせざるを得なかった。

ビール醸造を始めることを決めたのは最初のオーナー、上原誠一郎。ヨーロッパ暮らしが長かった彼は、なぜ日本はこんなにビールのバリエーションが少ないのだろうと感じていた。エチゴの初代醸造士はバワ・テムヤコというガーナ人で、彼は広島の農業学校を卒業し、ギネス社で働いた経験も持っていた。海外からたくさんの専門書を購入してレシピを入手、醸造に必要な技術は幸いバワがすでに習得していたので創業にこぎ着けることが出来た。1996年、エチゴビールのスタウトはワールドビアカップで銅賞を受賞、国産ビール初の受賞となった。

Bawaは3年間エチゴで働いたのち退職、エチゴビールの醸造は新しく入社した2人の外国人、Bob Malone(現在はアメリカのフライングドッグブリュワリーに在籍)とマルクス・ルツェンスキ(注釈参照)に引き継がれることになった。「彼ら3人の業績は醸造所にとって大変大きな財産になりました。今使っているレシピは彼らが作ったものがベースになっています」と現社長の行田宏文は言う。

現在エチゴビールは新しいビールを考案する際にはチームでの話し合いによる体制を作っている。エチゴ独自のシステムは新作ビールをテストする際にある種のパイロットシステムのような機能を果たすものだという。現行システムがうまくいけば、さらに大規模なシステムに移行していく予定だ。

エチゴビールは年に3回の新商品を出すことを予定しており、2012年初となる新商品は「ビタネスユニット100」というもの。実際に100 IBUという苦みがあるのか確認したわけではないが、モルトとビタネスのバランスが素晴らしく、苦みの中にもほんのりと甘みも感じる風味に仕上がっている。IPA風に仕上がっているのは単なる偶然ではない。「あえて逆らう場合もありますが、流行もちゃんと追っています。」と行田は言う。

まだ実験を試みる余裕はあるものの、すでに施設の製造能力は限界近くに来ているという。「夏には在庫分を完売します。今は何とかしのげていますが、すぐにタンクを増やさなければいけないでしょう」。幸いにも敷地にはまだいくらか余裕があるので、屋外にタンクを設置することになるだろうと言う。

缶ビールも同社の主力商品。1999年に生産規模を拡張した際に缶ビールの製造を開始したが、行田によると缶ビール製造が本当に軌道に乗り始めたのは2005年から。「ビール好きの人たちが歳をとり自然に飲む量も減ってきました。そして飲むなら美味しいものを飲みたいという気持ちを持っていました。そこに我々の缶ビールがマッチしたのです。です。缶ビールなら大手ビールメーカーと同じ土俵で勝負しやすいですしね」。グラスが無くても缶ならどこでもいつでもビールが飲める、というメリットもあると行田は付け加えた。

コンビニでビールが買えるようになったお陰で僕らはいつでもビールが飲めるようになった。僕がそのことに触れると行田はこう言った。「コンビニへの働き掛けも行なっていますがなかなか難しいのが現状です。エリアを限定して置いてもらうなどの方法が当面は現実的かもしれません。コンビニエンスストアの数は半端ないですから」。また数年前からエチゴビールは海外の需要にも対応し、商品の輸出を行なっている。アメリカのレストランは瓶ビールを好むので今のところ輸出はすべて瓶だという。ラベルに太鼓の絵をあしらったエチゴのスタウトはエチゴビールの中でも特に美味しいビールとして人気が定着している。

また他社との契約による醸造も同社のビジネスの一つとなっている。飲食店限定のガージェリーもその一つ。英国風パブHUBのハウスビールもエチゴが造っている。実際、驚くほど多くの日本のクラフトビア醸造所が製造能力の問題からエチゴビールにレシピを提供し、製造委託を行っているのだ。しかし前述のようにエチゴ自体ももう能力の限界が近い。しかしクラフトビアの需要がこれからも増えてくれるのは大歓迎だ。そうすればエチゴビールもこれからまだまだ大きくなっていくだろうし、コンビニもビールの棚を増やす必要にせまられるかもしれない。

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