ジェイソン・コーラー
ベルギー・アントワープ市の東北東の方角に位置し、牧草地などが広がる緑豊かな地方にあるウェストマール醸造所が造るビールは数少ないトラピストビールの一つで、その素晴らしい味は多くの追従者を生んでいる。ここで日々祈りを捧げ、勤勉な生活を送る敬虔な修道士たちの手によって1836年以来今日まで、伝統に則ったアビイ・スタイルのビールが造られてきた。一般人が修道院内や醸造所内に立ち入ることはできないが、そこで造られているビールは修道院の向かいにあるカフェで飲むことが出来るし、ベルギー各地にあるカフェやレストラン、そして日本を含む世界各国に流通している。
修道士たちは厳律シトー修道会に属し、フランス・ノルマンディーにあるラ・トラップ修道院に因んでトラピストと呼ばれており、手仕事によって生計を立てることがそのイデオロギーの一つになっている。そして我々ビール好きにとって嬉しいことに、その手仕事の一つが美味しいビール造りというわけだ。
ビールを造っている修道院のうち、ウェストマール修道院は有名なシメイ修道院に次いで2番目の規模を誇る。修道士たちは厳しい戒律に従って生活しており、ビール醸造の全てのプロセスに直接関わってはいるわけではない。それでも彼らは厳しくビール醸造プロセスに対する指導・監督を行い、細心の注意を払うことによって最高水準の品質を誇るビールを生み出している。
他のトラピストビール同様、ウェストマールも製造コストや品質の面では恵まれた状況にある。ビールの製造は慈善事業とされ、得られた収益は様々な使途に充てられるが、彼らは利益の追求も経費の削減も考える必要がない。修道士たちはトラピストビールに対する需要の拡大にも関わらず年間製造量を最大16,000klまでとしている。熟成には充分に時間が掛けられ、醸造所の地下貯蔵庫でさらに瓶内発酵させる。瓶内2次発酵の期間は2週間から4週間、ビールの種類によって異なるという。広々とした地下貯蔵庫の上の緑豊かな牧草地では修道院が放牧している乳牛たちが草を食む。
フランス産モルトにチェコ産とドイツ産のホップ、地元の天然水、そして独自のビール酵母を使用してウェストマールの代表的な2種類のビールは造られている。アルコール度数7%の「ウェストマール・ダブル」と9.5%の「ウェストマール・トリプル」である。ダブルには濃色の砂糖、トリプルには淡色の砂糖がそれぞれ使われていて、特にトリプルの方は甘みが強く仕上げられている。ホップは醸造技師の経験に基づく感覚によって、香りや色を見ながら投入量が決められる。残った穀類は乳牛の飼料に回され、乳牛から搾った乳を原料として今でも修道士の手によってチーズが造られている。
ウェストマール醸造所は黄金色でアルコール度数の高いビールに「トリプル」という名称を使った最初の醸造所であり、現在トリプルという名で流通しているビールの原型はトーマス神父という人物によって生み出されたものである。彼は優れた醸造技術者であり、ウェストマール退任後、ベルギー南部のアヘルという村にあるベネジクトゥス修道院が1998年にビール醸造を再開した際にその指導に当たった。彼はその際、製品ライン充実のために全面的な協力を行った。現在はベネジクトゥス醸造所からも退任しているが、1970年代に使っていた酵母を復活させ、その菌株は現在でも同醸造所で使われている。
ウェストマールのビールは日本にも小西酒造によって輸入され、特にビールに強い全国の酒店、ベルギービールを置いているビアバーなどで飲むことが出来る。
ウェストマールビールについて詳しくは下記を参照:
http://www.trappistwestmalle.be
http://www.konishi.be
This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.