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どこの醸造所も最初は似たようなものだった。「ビール造りの事なんか何も分かってはいませんでした」。富士桜高原麦酒の宮下天通もそうだったという。

1996年、地ビールブームに乗ろうとしていた同社は宮下にドイツに渡って知識と技術を習得してくるように打診した。「僕はドイツ語なんか喋れないし、もともと語学は苦手なので無理です」「わかった。では通訳も同行させるからなんとか頼む」。

宮下は回想する。「まず広島で2ヶ月間勉強しました。ドイツの醸造専門学校を卒業した醸造技師が広島にいたのです。その後ドイツに渡り6週間勉強しました。帰国して岩手でさらに2ヶ月間学びました」。

第一次地ビールブームの頃は誰もがドイツタイプのビールを目指していたようだ。ドイツビールが「基準」になっていた。しかし富士桜はちょっと違う見地からこの業界に参入してきた。

「富士桜の直営レストランは富士山の麓にあり、森の住人たちを意味する『シルバンズ』という店名がついています。お客さんに地ビールをゆっくり楽しんでもらいたいという願いが店名に込められています。会社としては爽やかな味わいのピルスとヴァイツェンに加えて、私にラオホの造り方も学んできて欲しいという希望がありました。シルバンズを取り囲む赤松林の香りとラオホのスモーキーフレーバーがベストマッチです」。

麦芽を乾燥させる際に燻煙するスモークビールは日本では馴染みがないし、世界的に見ても決してメジャーなタイプのビールではない。ほとんど忘れられかけていた時期もあった。スモークビールはちゃんとしたものを造るのが難しいということもある。しかし宮下が造るラオホは日本国内ではもちろんだが、世界的に見ても非常にレベルが高いという評価が味にうるさいビール愛好家の間でもなされている。それを裏付けるように、ビールのオリンピックといわれるワールドビアカップで2000年にラオホが、2010年にはラオホボックが受賞している。

「初めてラオホを飲んだときは美味しくないと思いました。僕には合わないなと。でも実際にラオホに取り組んでいくうちに美味しいと思うようになりました。最初の頃はお客さんも一口飲んで何だこれは!という顔をしていました。ビールを飲む大人を見て子供が『なんであんな苦いものを飲むんだろう?』と感じるのと同じようなものでしょう。しかし味の感じ方は年齢と共に変わってくるものですね」と宮下は笑いながら話してくれた。

失敗して廃棄したことなどは?

「ラオホを駄目にしたことはありませんが、ヴァイツェンの発酵段階で温度を間違えたことがあります。22℃でやらなければならないのに24℃でやってしまいました。失敗は成功のもと、といいますが、その時は廃棄したくなくてそのまま続行したところ、意外にもいいものが出来上がり、これは行けるぞ!と思いました」。

そのヴァイツェンの「失敗作」は2008年にワールドビアカップで銀賞を受賞。宮下がドイツで初めて飲んでその美味しさに感動したのがヴァイツェンだったという。

「こんな美味しいビール造れるかな、と思いました。その美味しさから醸造技師の心意気が伝わってくるようでした。それが僕も出来たらいいなと思っています。僕のビールに対する思いを飲む人に感じてもらえるようなビールを造りたい」。

他に桜ボック、デュンケルヴァイツェン、スモークヴァイツェン、ラオホボック、ヴァイツェンボック、チョコレートウィート、オクトーバーフェストメルツェン、オクトーバーフェストヴァイツェン、なども造っている。直営レストラン「シルバンズ」ではシェフと宮下が話し合ってどのフードにどのビールが合うのかを決めており、メニュー表を見るとそれぞれのフードに合うビールが写真付きで紹介されている。

宮下は各地のビアフェスにもよく顔を出し、他社の醸造技師たちとも良好な関係を保っている。彼らとビール造りに関する情報交換などもすることもあるのか、と聞いてみた。

「もちろんです。門司港レトロビールの技師もうちの醸造所に来られて1週間ほどおられました。ヴァイツェンやスモークビールについても色々なことを聞かれます。私の方からもサンクトガーレンとイクスピアリに行って色々伺ってきました。企業レベルではこうした交流について否定的な意見を持っている人もいるかもしれません。しかしこの業界では情報交換と協力は必要なことなのです」。

シルバンズ
〒401-0301山梨県南都留郡富士河口湖町船津字剣丸尾6663-1
TEL:0555-83-2236
www.sylvans.jp

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