Destination: Sapporo



札幌はおしゃれで素敵な街。住民たちにとっても観光で訪れる人たちにとっても、そしてクラフトビアを愛する人たちにとっても札幌は魅力に溢れる街である。

雪解けでぬかるみがちな季節はさておき、夏になると涼を求めて全国から観光客が押し寄せる。穏やかな気候の土地柄、通り沿いに軒を連ねるカフェやレストランの中には道路にまで椅子やテーブルを並べている店も多い。快適な都市環境に恵まれた札幌だが、郊外に出れば北海道の広大な自然の景観が広がり、沿岸地域は海産物の宝庫でもある。札幌は魅力が詰まった街なのだ。

また札幌市周辺にはクラフトビアの醸造所もいくつかあるし、そこで造られた新鮮なビールを提供するお店も十数軒はある。札幌自体、クラフトビア造りが盛んな街だが、その割にはなぜかビール好きの巡礼コースから外れている事も多い。しかし実際、札幌は日本でも最も早くクラフトビアを提供する店がオープンした街でもあるのだ。フレッド・カフマンが経営する「BEER INN麦酒停」は1980年のオープン以来、美味しいクラフトビアを提供し続けている。

「瓶ビール、缶ビールを問わず、輸入できるものは何でも入れるようにしてきましたが、1984年ごろ缶ビールのブームがあり、そのお陰で売り上げが大きく伸びました」とフレッドが説明してくれた。

大手ビールメーカーがこぞって様々なラベルやデザインの缶ビールを展開した当時のことも今では語られることが少なくなったが、考えてみれば似たような中身のビールを缶のデザインを変えて別の商品として売るというのはビールメーカー一流のギミックであった。とはいえ、色々なデザインの缶を集めることは楽しいもの。ビルの地下にある麦酒停の壁は天井まで何百種類ものビールの空き缶で埋め尽くされていて壮観だ。またいくつか並んだ冷蔵庫には世界の300種類ものビールが冷やされている。樽生も6種類ほどあり、フレッドは日本各地のクラフトビア・バーで主力商品になっているローグ・ビールの公認インポーターでもある。

「1994年でしたか、私はローグ社が認めた初めての公認インポーターになることができました。当時私は世界のビール市場で名の通ったビールを店の看板商品にしようと思っていましたし、ローグ社の創立メンバーの一人であり現在CEOを務めるジャック・ジョイスを以前から知っていましたから」

フレッドとジャックのアイデアは当たった。ローグの主力ビールの中からいくつか選び出し、それらに北海道の野生動物をモチーフにしたネーミングやラベルを付けて売り出したのである。「丹頂鶴麦酒」「北狐レッド麦酒」そして「ひぐま濃い麦酒」などである。「フレッドの寝酒ビール」という名前のバーレイワインもある。

フレッドがローグから輸入しているビールは札幌市内のあちこちの飲食店でお馴染みとなっている。ラーメン横丁の「ひぐま」ではラーメンとともにひぐま濃い麦酒がメニューに入っている。居酒屋「へのへのもへじ」は気軽に入れる雰囲気の店で、海鮮系のメニューが手頃な価格で楽しめるとともに、ローグも何種類か置いている。「Go-tsubo」ではオイスターをつまみにベルギーのスヘルデ醸造所によるオイスタースタウトが飲める。日本料理が好みなら「Jumbo」で「宇宙人肉つくね」を肴にクラフトビアを頂こう。ホテルの部屋で一杯飲みたいなら酒と煙草の専門店「MOMOYA」に行けば瓶入りの各種クラフトビアや煙草を豊富に取り揃えているのでここで調達して帰ろう。

その他にも札幌市内にはフレッドやナガノトレーディングを始め、日本の地ビールメーカーから樽生を仕入れているクラフトビア・バーが多くあり、特に「HIGURASHI(ひぐらし)」では各種クラフトビアを樽生で楽しめる。こぢんまりとした佇まいながら雰囲気を感じさせるインテリアで、2種類のリアルエールを含む8種類の樽生が楽しめる。アメリカ西海岸の樽生も常時在庫しており、早朝4時まで開いているのでハシゴ酒の締めくくりに立ち寄るのもいいだろう。

Higurashi



狸小路7丁目にある「カラハナ」は深夜3時までの営業、5個のサーバーがあり、国産クラフトビア、ヴェデット、生シードルなどを提供する。冷蔵庫には他ではあまり見かけない珍しい外国産クラフトビアがたくさん入っている。店の雰囲気もとてもいいので、ビールのつまみに当店自慢のタパス・スタイルの美味しいフードメニューを頂きながら心地よい時間を過ごそう。

Kalahana



「アダノンキ」はいわゆるクラフトビア・バーではないが、古本とビールを楽しめるというユニークなお店。2種類の樽生の他、アメリカのカルデラなど瓶ビールと缶ビール合わせて10種類ほどがあるので懐かしのプレイボーイ誌などとともに楽しもう。カウンター席のみの店内は6人ほどしか座れないので一人で時間つぶしにでも利用するのがいいだろう。

クラフトビア好きなら札幌の「ノースアイランドビール」をはずすわけにはいかない。2フロアからなる「ビアバーノースアイランド」はビール職人兼オーナーのたがやたけし氏によって運営され、有限会社カナディアンブルワリーが経営母体となっている。

「カナダでビール醸造を学び、醸造設備も現地から運んできましたのでそれに因んだ社名になっています。ある知人がカナダではクラフトビアが流行るというので僕たちもクラフトビア造りに取り組む事にしました。カナダのビール職人たちはみな自由な発想を活かしてブリティッシュエール系からチェコ系まで多種多様なスタイルのビール造りをしています」。

North Island



ノースアイランドビールで現在用いられているレシピは当醸造所の2人のビール職人がカナダで学んだレシピに基づいており、そのレシピは年数を経て改良を加えられてきたが、6つのスタイルが基本になっている。ピルスナー、ブラウンエール、ヴァイツェン、スタウト、IPA、そして彼らが誇るコリアンダーブラックである。それぞれが最も美味しく飲める温度で供され、ソーセージやフィッシュ&チップス、パスタなど自慢の料理の味もさらに高めてくれる。

一方、「ビアホールノースアイランド」は元々たまねぎの貯蔵庫だった倉庫を利用して作られており、1階にはカウンター席、2階はジャズライブなども行われるステージを備えた広めのダイニングエリアとなっている。木材をふんだんに使った天井と年季の入ったシンダーブロック壁のインテリアはロッジ風な趣がある。是非行ってみよう。

札幌のビアホール「Leibspeise(ライブシュパイゼ)」では小樽ビールが飲めるが、時間があるなら日帰り旅行気分で小樽まで足を運び、実際に小樽ビール醸造所を訪れてみよう。海辺の街、小樽は海岸沿いを走る電車からの景色も美しく、レトロな建造物も多い素敵な街。当然ながらここで飲む小樽ビールは特に新鮮で美味しい。ガイド付の醸造所見学ツアーもあるので利用しよう。

小樽ビール醸造所の建物は100年を超える歴史を持ち、2階建ての大きなビアパブ兼醸造所となっている。ブラウエンジニアの資格を持つドイツ人醸造技師ヨハネス・ブラウンが醸造責任者を務めており、ドイツの厳格な「ビール純粋令」に基づいたレベルの高いビール醸造を行っている。日本で本物のドイツビールの味が楽しめるわけだ。醸造には小樽の水を使っているが、小樽の水はミネラルのバランスが優れている事で知られ、素晴らしい水質を持つ。

小樽ビールはピルスナー、ドンケル、ヴァイスの3本柱に、季節限定ビールが加わる。季節限定ビールには4月のヘレス、6月の醸造長おすすめビール、7月のシュヴァルツ、9月のフェスト、12月のドンケル・ボック、などがある。ビールに合うフードメニューはドイツ料理と欧風料理がメインで、ソーセージ各種、ポーク、ビーフステーキ、ピザ、パスタ類などがある。純粋なドイツビールで知られる小樽だが、ここのメニューにはレモネードビールやライトビールなどもあって面白い。そしてビールの値段も500mlほど入る中ジョッキが690円と良心的な設定。また、毎週木曜日と土曜日限定で2200円の飲み放題もある。

もう一つの日帰りコースとして鬼伝説ビールと温泉がある登別に行くのもいい。札幌市の北に隣接する石狩市にも近年、地ビールの醸造所ができた。本記事でご紹介した札幌市内のクラフトビア・バーでも石狩のビールをメニューに加えているところが多い。

札幌にいれば近隣の美味しいものはたいてい手に入るというわけだ。素敵な札幌に乾杯!

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