Swan Lake Beer

全国のビール醸造所が仮に同じレシピに従ってポーターを造ったとしても一つとして同じ味のものは出来上がってこないだろう。そしてどの醸造所もスワンレイクほど美味しいポーターは造れないかもしれない。それほどスワンレイクポーターは素晴らしい。2000年にニューヨークで行われたWorld Beer Cupで彼らが作ったポーターが初めて金賞を受賞、その後も素晴らしい味のポーターを造り続け、ここ10年の間に数々の賞を受賞し、さらに昨年はWorld Beer Awardsで最高賞であるWorld’s Best Porterを受賞するという快挙を成し遂げた。しかし大会で受賞することだけがもちろんすべてではない。

また、スワンレイクの例を見れば分かることだが、レシピがすべてというわけでもない。ハイクオリティなビールをたゆまぬ努力によって造り続ける一貫した姿勢がスワンレイクを日本の、いや世界のトップクラスの醸造所たらしめている、ということは多くの人たちが認めているところだ。

スワンレイクビール醸造所では創業以来本田と渡辺の二人によってビール造りが行なわれ、オーナーであり双子の兄弟である古田によって営業活動や管理業務が行なわれてきた。我々が同醸造所を見学に訪れて話を伺った際、彼らが創業時にEd Tringaliという醸造技術者から醸造のノウハウを教わり、ほとんどのレシピについても彼から教わったものを使っているという事実を我々に率直に明かしてくれたことには正直かなり驚いた。1997年8月に創業した同醸造所だが、同時期にビール醸造を始めた他のほとんどの醸造所がそうであったように、彼らもまた創業にあたって海外の醸造技術者からのノウハウの伝授を必要としていた。

本田が創業時の様子を次のように語ってくれた。「私がここに来たのは創業時の7月のことでした。Edはその1ヶ月後には日本を離れることになっていたのでその限られた時間で出来るだけ多くのことを彼から学ぼうと努力しました。Edは日本語が全く喋れませんでしたから通訳を介して彼から技術を教わっていきました。専門用語になると通訳の人も訳し方が分からないようでしたが、専門用語は訳してもらえなくても私が知っていましたから大丈夫でした」。

本田と渡辺の二人は新潟の専門学校で清酒の醸造技術などを共に学び、スワンレイクビール醸造所創業と同時に一緒に入社した。今思えば当時はまだ手造りのビールというものについて本当には理解できていなかったと感じているという。

ビール醸造に古い歴史を持つ国々の技術者たちから見ればこのように手探りに近い状態でビール造りを始めるなどということは滑稽にさえ思えることだろうが、当時の日本ではどこの醸造所もそれが普通だった。そんな状況だったから当初は日本中で品質の怪しい手造りビールが出回り、そのために世間では地ビールは美味しくないというイメージが形成され、やがて多くの醸造所が潰れていくことになった。地ビールに対する悪いイメージは今日でも一般の人々の間に残っている。しかし本田と渡辺はたゆまぬ努力によりこの業界で生き残ることができた。幸運にも恵まれていたかもしれない。「世の中は地ビールブームでしたが私たちはそれに乗るつもりはありませんでした。それが逆によかったようです」と古田は語る。ブームに便乗しようとせず、地ビールに対する需要がどれくらいあって実際どれくらい売れているのかということをシビアに見ることが出来ていたことが彼らの生き残りにつながったといえるだろう。

創業当時、本田と渡辺の二人は地ビールへの取り組みについてとても慎重な考えを持っていた。「4種類のビールのレシピについてEdから直接教わりながら一緒に造ってみることが出来たのですが、彼は日本を離れる際にさらに別の2種類のレシピを僕らだけで造ってみるようにと残してくれていました。しかしその2種類のレシピはその後2~3年間実際に使うことはありませんでした。当面はEdと一緒にやってみたレシピだけに従ってやっていたのです。2001年になって私たちは初めてレシピを作りました。バーレイワインのレシピです。でもそれから4年くらいはそのレシピの見直しを続け、実際にバーレイワインを造ったのは2005年のことでした。さらにちょっとした手直しをして翌2006年にもう一度バーレイワインを造りました」。

スワンレイクバーレイを飲んだことがある人なら彼らが単に他人のレシピを真似てこのビールを造ったのではないと感じるだろう。それは彼らのオリジナルであり、素晴らしい出来である。その後2010年にはインペリアルスタウトを生み出した。インペリアルスタウトは長期熟成による重厚な口当たり、麦芽とホップの絶妙なバランス、そして高いアルコール度数によるパンチが効いたこれも素晴らしいビールである。

二人が仕事をする上での役割分担もまた興味深い。本田が醸造の大部分を担当し渡辺が主に原料の調達を担当しているようだがこれまでに失敗はなかったのだろうか。「大量に廃棄処分しなくてはならないような事態になったことは幸い一度もありませんが・・・」と言いながら二人は顔を見合わせ、「創業当時の頃のことですが、発酵タンクのバルブの詰まりを取ろうとしてバルブを緩めたらすごい圧力で噴き出してきて止めることもできず、予想外の展開に慌てたことがありました。若気の至りでしたね」と笑った。

麦芽やアメリカ産のホップがたくさん貯蔵してある倉庫も見せてもらった。「私たちが主に造っているのはアメリカンスタイルのビールで、ホップについてもアメリカ産のセンテニアルとカスケードをずっと使っています」という。醸造所は明るく清潔感に溢れ、ユニークな三角形の建物の中に立派な醸造設備が配されている。隣接するレストランにはこれまでに受賞してきたメダルなどがディスプレイされ、またレストランは吹き抜けの開放感溢れる作りで大きなガラス張りになっているので間近に醸造工程を見ながら出来たてのとびきり新鮮なビールと美味しい食事を楽しむことができる。

また、スワンレイク・キャンパスとでもいうべき「五十嵐邸ガーデン」は明治・大正期に建築された優雅な邸宅と美しい日本庭園からなり、ここはウェディングや各種パーティーなどに利用され、味わい豊かなコース料理が供される。

スワンレイクへのアクセスは新潟駅から在来線に乗り継ぐか、バス、あるいはタクシーで行くことになるので、便利なロケーションとは言えないが、少々長い道中のお陰でさらにビールが美味しく飲めるというものだ。近くには温泉もいくつかあるのでそちらも一緒に楽しむつもりで足を運んでみてはどうだろう。また、現地に赴かずとも日本各地で本物のクラフトビアを扱っている地ビールバーに行けばきっとスワンレイクのビールが見つかるだろう。

新潟からビールを愛するすべての人々に乾杯!そしてスワンレークビールに乾杯!

www.swanlake.co.jp

http://gozu.jp (onsen)

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