キンシ正宗株式会社が経営する「京都町家麦酒」は京都市の中心部にある。造り酒屋としての創業した場所に残っていた建物を博物館として開設した「堀野記念館」の中に醸造所があるが、小ぢんまりとした建物なので気を付けていないと通り過ぎてしまいそうだ。堀野記念館は元々古い蔵で、現在は小さいながらも造り酒屋の歴史と町家の生活文化を伝える博物館となっている。清酒キンシ正宗で有名な同社だが、ビアマイスター三好ちづ子の手により、ケルシュ、アルト、ドライスタウトの3種類のビールが造られている。堀野記念館中庭の井戸から汲み上げられる上質の水を使って美味しいビールが造られる。ビールのテイスティングコーナーでその素晴らしい味を旬の魚介類と共に楽しもう。
電車に乗ってしばらく南に行くと伏見に着く。歴史を感じる町並みの一角に黄桜の醸造所はある。ここも清酒のメーカーとして有名だが、清酒の他にちょっと変わったビールを造っている。「ホワイトナイル」「ブルーナイル」「ルビーナイル」はそれぞれ異なった小麦を使って造られており、ホワイトとブルーは古代エジプトで栽培されていた種類の小麦を、高アルコール(7%)のルビーは1920年代まで栽培されその後忘れられていた種類の小麦を使っている。どうやってこのような古い種類の小麦を現代に甦らせることが出来たのだろうか。実はこれらの小麦は早稲田大学エジプト考古学研究チームと京都大学植物遺伝学研究チームの協力により現代に復活したもの。ウェブサイトにpdf形式で興味深い経緯が説明されているので読んでみて欲しい。世界最古のビール文化(エジプトのピラミッド建設現場で働いていた労働者たちが報酬としてビールを供給されていたことが象形文字の解読で判明している)に対するオマージュ的発想に基づいて造られたこれらのユニークなビールの今後は、我々地ビール愛好家に掛かっているともいえる。古代エジプトに想いを馳せながら、飲むほどにハマっていく独特の風味を楽しもう。またこれらユニークなビール以外にも同社はアルトとケルシュも造っている。僕らが訪ねた時はちょうど季節限定の「しそビール」が出来上がったところだったので飲ませてもらったが、甘酸っぱい味で美味しかった。黄桜直営のパブレストランに行けばタイミング次第で美味しい季節限定ビールに出会えるかもしれない。
「周山街道ビール」を造っている羽田酒造は京都北山の町周山にある。深みのあるコクが素晴らしい、バランスのとれた「周山街道アンバーエール」は近年関西を中心に各地の地ビールバーでよく見掛けるようになった。ビール造りを一人で行っている林晋吾はアンバーエールの他、ケルシュとヴァイツェンを造る。彼のお気に入りでもあるヴァイツェンは力強いアロマと程良くフルーティな味わいが特徴。醸造所の2階にはカジュアルな雰囲気のレストラン「ビアハウス」があり、美しい山並みを眺めながら新鮮なビールが楽しめる。しかし京都の中心部からかなり離れた田舎に位置しているので熱心なビールファンは別として、気軽に行けるところではないかもしれない。京都からバスに乗ると曲がりくねった道を、山をいくつか越えて行かねばならない。紅葉が美しい季節には景色を眺めながらのんびり行くのもいいだろうが、現地でビールをたらふく飲んで、帰りのバスに揺られての道中はちょっとお腹が重く感じた。ちょっと昼寝でもして夜に備えることにしよう。
地ビールをめぐる京都の旅はTadg’s(タイグ)に行かずしては終われない。20を超える樽生、各種料理が陽気で心地良い雰囲気の中で味わえる(本誌ウェブサイトに同店の特集記事を掲載)。帰りの新幹線用に、あるいは宿泊先のホテルでの部屋飲み用のビールの調達に「山岡酒店」に立ち寄ってみよう。地元で採れた新鮮野菜や各種乾物に加え、約100種類に及ぶ地ビールの品揃えが圧巻だ。今年は京都で初めての本格的な地ビールイベント「地ビール祭京都」も開催された。来年は今年以上に盛大なイベントになることを期待して、乾杯!
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