Bohumil Hrabal



日本の地ビールメーカーのリストを4ページに亘って掲載していますが、もちろんこれはすべての地ビールメーカーを網羅したものではありません。日本には200を超える地ビールメーカーがあり、巻頭でも述べたとおり、残念ながらこれらの地ビールすべてが高品質の手造りビールというわけではない、というのが実態です。本誌掲載のリストは手造りビールの専門家の皆さんの編集によるものであり、内容は変更されることがあります。

ここが載ってないのはおかしい、というメーカーをご存知ならそのメーカー名を明記の上、お知らせください。もしあなたが自ら地ビールを手造りしていて、このリストに未掲載ならばお知らせください。また、あなたが造っておられる地ビールの品質を上げたいとお考えでしたらご一報ください。専門家にご紹介の上、技術指導等を受けられるようサポートいたします。本物の地ビールに携わる人たちは利益の追求ではなく、品質の向上とそのためのサポートを目指していると信じています。

チェコ共和国は美味しいビールの本場としてだけでなく、文学でも知られる。長くナチス・ドイツによる支配に苦しみ、共産党体制による文学の検閲、弾圧が続いたが、そうした中でもチェコ文学のクリエイティブな精神は生き続けた。もっともよく知られているのは世界的なベストセラー「存在の耐えられない軽さ」の著者ミラン・クンデラだろう。作家であり詩人でもあるロスラフ・サイフェルトは1984年にノーベル文学賞を受賞、その他にもヨセフ・スクヴォレッキー、イヴァン・クリーマなど20世紀を代表する作家がチェコから出ている。チェコスロバキア時代には大統領も務め、共産党政権打破の中心的役割を担ったヴァーツラフ・ハヴェルは劇作家・随筆家としても人気が高かった。そしてもちろんフランツ・カフカを忘れるわけにはいかない。彼はドイツ語で執筆したが生まれはプラハ。だがチェコで最も人気のある作家と言えばボフミル・フラバル(1914-1997)かもしれない。ここで彼を紹介するのは、今号でプラハのビールを特集したからだけではなく、彼の人生がビールとパブに深く結び付いていたから。彼の残した名声・功績は素晴らしいもので、前出のハヴェルやビル・クリントン米大統領(当時)も1994年にフラバルのお気に入りだったパブ「ゴールデン・タイガー」で彼と面会している。

フラバルはビール醸造所(ニンブルク)の息子として育ったので、彼の作品にはビールに関する用語がよく出てくる。おそらく彼は醸造所やパブで大人たちの会話を盗み聞きし、その会話の中に出てくるスラングや卑猥な言葉などを覚えていて自分の作品に取り入れたのだろう。文体は叙情的で大変表現力が豊かである。ときにコミカルで軽い調子かと思えば、深い洞察力を感じさせることもある。

彼の作品「The Little Town Where Time Stood Still」はビール醸造所を舞台に、そこで働く人々の荒々しい暮らしぶりを描いている。海外でもよく知られた作品「運命を乗せた列車」は1966年に映画化もされ、1967年にはアカデミー最優秀外国語映画賞を受賞した。この作品では、ナチス・ドイツ占領下のチェコの小さな鉄道駅で働く若者が不条理な恋に落ちていく様子を描いている。代表作のひとつ「僕はイギリス国王の給仕をした」は共産党政権の検閲によって出版が禁止されたが海外で話題を呼び、2006年にこれもやはりイジー・メンツェル監督により映画化された。僕が個人的に一番好きな作品「あまりにも騒がしい孤独」では故紙処理係の仕事をしている男の人生と心の内面を描いているが、この男がまた大変な酒好き。この作品だけは日本語訳されて2007年に出版されている。滑稽で詩的で思慮に富み、悲愴なはずのストーリーなのに読んだ後には美しいと感じさせる小説。ビール片手に読むのには最高の隠れた名作だ。

This article was published in Japan Beer Times # () and is among the limited content available online. Order your copy through our online shop or download the digital version from the iTunes store to access the full contents of this issue.