Beer Flakes



工場からは必ず廃棄物が出ます。ビール工場や食品加工工場からは廃水も出ます。最近まで廃水の処理には抜本的な解決策がありませんでした。大手ビールメーカーでは廃水処理コストもそれなりに大きなものになり、例えば米国ではビールメーカーが廃水を安全な方法で適切に処理するよう法律で義務付けられていることもあって、何百万ドルという費用をメーカーは強いられています。

環境に配慮した廃棄物処理の重要性がますます叫ばれるようになっている今日では、コストはあまり問題ではないかもしれませんが、このような現状の中、米国の生物学者がビールメーカーにとっては大変ありがたい商品を開発して売り出しています。

コロラド州の小さな町アイダホスプリングスにあるオベロンFMRという会社の創業者でもあるアンドリュー・ローガンは食品由来の廃水を取り込む特殊な微生物を造り出しました。この特殊な微生物を混ぜた廃水を乾燥させたものが単細胞たんぱく(SCP)を豊富に含むフレーク状の魚のエサとして販売されているのです。これは一般家庭の観賞魚用ではなく水産養殖業者向けに販売されていて、市場規模は1000億ドル以上と推定されています。獲り過ぎによってある種の魚は絶滅の危機にさらされていることから、水産養殖業界は急成長しており、それに伴って魚用のエサの需要も増えているのです。当初はカタクチイワシなどの小魚から作る魚粉がメインだったのですが、カタクチイワシも漁獲量が減ってきたため、高たんぱくでもあるFMR(Fish meal replacement)の需要が大きくなってきています。

今から10年以上前のこと、魚に関する研究をしていたローガンと同僚のセス・テリーは改良された微生物を使ってたんぱく質を作る技術の可能性について本で読んで知りました。そこで彼らは、彼らが研究を行っていた大学院のすぐ近くにあったクアーズ社(コロラド州ゴールデン)の廃水を使って研究を始めました。その後二人はFat Tire aleというビールで知られるNew Belgium Brewery社と共同で、1年半の実験計画を始めます。「私たちにはある程度広い研究スペースが必要でした。Fat Tireは環境問題にも積極的で私たちに研究場所を提供してくれたのです」とローガンは説明してくれました。そして現在彼の会社はミラー・クアーズ社と強力にタイアップし、順調に事業を展開しています。

ビール工場から出た廃水は無償でオベロンFMR社に提供されます。ビール工場にとっても廃棄コストが掛からないのですから双方にとって好都合です。そして現在彼らは次のステップに進もうとしています。二回目の資金調達も順調に運んだことで彼らにとって初めての工場を建設する計画が進んでいます。そしてさらなる資金調達によって海外に事業を展開する計画です。まずは南米、そして南アジアと中央アジア。中国は世界最大の水産養殖大国ですし、タイは世界最大のエサの生産大国。しかしFMRの需要はオーストラリア、インドネシア、そしてもちろん日本にも広がってきています。ビールメーカー、環境保護団体、養殖業者、そしてローガンが共に祝杯をあげる日も近いかもしれません。

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