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(TDM 1874's kölsch; photo, Mark Meli)


ドイツ・ケルン地方の方言で「ケルシュ」という語は、ケルンに関係するあらゆる物事を表す形容詞である。ビアスタイルとしてのケルシュはEU(欧州連合)の法律の下で地理的保護表示の対象となっており、ケルン市から50キロメートル圏内で醸造されたもののみをケルシュと呼ぶことが許されている。この取り決めとスタイルの特徴については1986年のケルシュ協定に明記され、それによるとケルシュは、明るい液色、十分な発酵を経ており、ホップが利いて、濁りはなく、上面発酵、アルコール度数はおおむね4.5~5.2%、と定義されている。ドイツ純粋令に沿ってつくられていることも必須のため、麦芽、ホップ、酵母、水のみを原料とする。また上記協定では、ケルシュは、シュタンゲと呼ばれる細身で円筒形の200ミリリットルのグラスで提供されるべきだと記載されている。

世界中を見渡してみても、ケルシュほど一つの都市に密接した関係を持つビールはないだろう。ケルンの北にあり、ライバルでもあるデュッセルドルフさえ、この町で敬愛されているアルトビールについてそこまで厳格に定めているわけではない。しかしながら、ケルシュスタイルのビールがケルン以外でつくられていないということではない。EU圏内においてのみ、ケルン近郊以外でつくられたケルシュスタイルのビールはケルシュと呼ぶことができないということだ。ドイツ国内のその他の地域のブルワーたちは、そのビールのことをへレス、上面発酵ビール、コローニア(ケルンのラテン名)などと称している。無濾過のケルシュは、ケルンの方言で白を意味するヴィースという呼称で呼ばれ、地理的保護表示の対象外である。

では、ケルシュとは一体どんなビールなのだろうか。金色のエールで、エールとしては珍しく低めの温度(約15~18℃)で発酵させ、ラガーのように低温で数週間熟成させる。十分な発酵過程を経ているため、発酵後は糖分がほとんど残らない。また、ホップの特徴が出ていることも重要である。
したがって、ケルシュは決して甘みは強くないが、パンを思わせる芳醇な香りがあるため、モルティ(麦芽が利いている)だと感じられることもある。エール酵母由来のフルーティなエステル香をいくらか伴うこともあるが、低温でのラガーリングによってその香りはかなり抑制される。ホップのアロマとフレーバーの両方が表に出ていなければならないが、使用されるホップは伝統的なノーブルホップであり、ドライホッピングもおこなわないので、ホップの個性の出方はあくまでも控えめであり、アメリカンIPAのような派手さはない。ケルシュは基本的に大変繊細で、あまりにも地味なビールのため、無濾過のIPAばかり飲んでいる者はケルシュの魅力を理解しないことも多い。しかしこのようなビール愛好家にとってケルシュの魅力を知ることは重要である。ケルシュは繊細なビールの極みであり、少しのミスも許されないがゆえに、ブルワーの技術が最も試されるスタイルなのだ。

現在稼働中でケルン・ブルワーズアソシエーションに所属しているブルワリーは9つあり、その多くは、いくつかの異なる銘柄のケルシュをつくっている。実際のところ、多くの銘柄は規模の大きいブルワリーで委託醸造されている。地元の小規模ブルワリーには、ミューレン、フリュー、ペフゲン、ズュンナーなどがあり、どれも行ってみることを勧める。ケルンでのケルシュの標準的な提供の仕方は、木製あるいはスチール製のカスク(樽)から直接、炭酸ガスは使わずビールの重さのみで注がれる。地元の小規模ブルワリーのほとんどは通常この方法でケルシュを提供している。カスクビールは炭酸が弱くとても飲みやすいため、小さいグラスを何杯もお代わりできてしまう。心配しないでもらいたい。名高いケルンのウエイターがあなたの空のグラスに気づけば、すぐにお代わりを持ってきてくれるだろう。コースターでグラスにふたをすればもういらないという合図になる。

筆者も含め、ケルンを訪れたことがある人の多くが、ぺフゲンケルシュがとにかく一番だという意見を持っている。最も小規模なブルワリーでつくられるこのビールはカスクでしか提供されておらず、ブルワリーのタップルームか、ブルワーの厳しい要求に応えられる店でしか飲めない。適切に管理され、なおかつ、回転が早い店、ということが条件だ。カスクには酸素が入るので、1日以内に飲んでしまわないと鮮度が保てない。ぺフゲンケルシュは軽く爽やかな口当たりで、他の多くの銘柄と比べると、フルーツや草を思わせるホップの個性がはっきりと感じられる。麦芽由来の控えめな甘味と、パンを思わせる風味がある。とても飲みやすいため、1杯でとどめるのは不可能に近いだろう。

本場のケルシュは日本にも数種類輸入されているが、鮮度を十分に保ったものにはまだ出合えていない。ほとんどが瓶詰であることと、保冷輸送管理がなされていないことが原因である。米国からもケルシュ風のビールが多種類輸入されており、中には状態の良いものもあるが、ホップを利かせすぎているものが多い。唯一の例外がチャカナットケルシュで、日本にも時々入ってくる。

まずは、国産のケルシュ風エールをいくつか飲んでみるといいかもしれない。日本で小規模醸造が始まった1994年以降、実に多くのビールがケルシュとして販売されてきたが、そのほとんどは本場のケルシュとは似ても似つかない代物だった。イングリッシュあるいはアメリカンスタイルのエール酵母を使って高温で発酵させたものが多く、このようなビールは本来のケルシュよりもはるかにエステル香が強くなる。その他の銘柄についても、甘味が強すぎたり、ホップが利きすぎるものばかりだった。しかし現在では、いくつかの本格的な味わいのケルシュがつくられるようになっている。田沢湖ビールのケルシュはそれらの中で最も歴史が長く、いつ飲んでも爽やか且つ軽やかで、雑味がない。最近同社はそのケルシュをベースに、ドライホッピングを施した「シトラスシャワー」つくった。これはこれで美味しく飲めるが、本来のケルシュとは全く別物である。ロコビアの「佐倉香りの生」はほのかに甘くフルーティでありながら、ドライな後味とともにいつ飲んでも大変飲みやすい味が再現されている。大山Gビールが限定でリリースしたケルシュも本物の味わいで、レモンを思わせるような軽やかな口当たりで、芳ばしいホップの香りがする。また、芳醇且つ洗練された麦芽の特徴があり思わずもう一杯欲しくなる。限定と言わずもっとつくって欲しいものだ。この夏、筆者の一番のお気に入りは、TDM1874ブルワリーの夏季限定ライトゥングスワッサー(「水道水」の意味)ケルシュである。麦芽が利いたパンのような香りと、ハラタウトラディションホップ由来のレモンとオレンジの香りがあり、ビスケットを思わせる麦芽の豊かなフレーバーを備え、ほのかな甘さと軽やかでフルーティなエステル香を感じる。レモンのように爽快で、夏にとてもおすすめだ。

その他の日本国内のケルシュは季節醸造あるいは限定醸造がほとんどである。ベアードのオールドワールドケルシュは毎年秋季限定である。まさに正統派ケルシュに仕上がっているベアレンのコローニアも限定醸造で、時折リリースされる。デビルクラフト、ワイマーケット、マルカも最近ケルシュを出した。奈良醸造は2種類のケルシュをリリースした。もしあなたが繊細なビールを味わう準備ができているなら、何種類か飲み比べてみてほしい。また、テイスティング用にシュタンゲもぜひ手に入れよう。シュタンゲで飲むのと飲まないのでは確実に味に違いが出る。

All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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