Session IPA



全く新しいビアスタイルについてコラムを書ける機会はそうあることはないが、今回はそのチャンスがめぐってきた。筆者としてとてもエキサイティングに思う。最近、たくさんの日本製もしくは米国製のたくさんのクラフトビールを飲んできたのであれば、「セッションIPA」という新しいビアスタイルの存在に気づいただろう。このセッションIPAが本当に新しいビアスタイルなのかどうかは少しの間置いといて、とりあえず新しいビアスタイルであると仮定しておこう。セッションIPAの定義は何だろうか。

日本語では飲み会とも訳される「ドリンキングセッション」は、ビールを飲むのに費やす連続した時間であり、それは昼下がり、もしくは夕方、さらにはその両方にまたがる時間かもしれない。この飲み会という言葉には、1、2時間というよりもっと長い時間の意味を含んでいる。だからセッションビールは、飲み会の最初から最後まで酔っぱらうことなく飲み続けられるように、アルコール度数が十分に低い。英国では、典型的なセッションビールはビターというビアスタイルであり、通常はアルコール度数が4%未満である。米国では、「『酔っ払いすぎず』に飲めるビール」という説があるように、アルコール度数が5%未満である。

アメリカンセッションエールは、米国のクラフトビールの中の近年の大きなトレンドに対する形で、ここ数年で人気が上がってきた。そのトレンドとは、あらゆるものを派手に、そして力強くするという米国人の特性に由来している。インペリアルスタウト、ダブルIPA、バーレイワイン、バーボン樽熟成などなど、すぐに思い浮かべられるだろう。あまりにも多くの人が酔っ払いすぎることになり、味わい深くありながらもっと軽いビールを求め始めた。さまざまな種類のセッションエールとセッションラガーこの需要に応えて登場したが、近年ようやく米国人にとって真に理想的なビールがつくられるようになった。それがセッションIPAである。

セッションIPAは通常は金色から薄い琥珀色をしている。たいていは、ピルスナーモルトまたはペールモルトが共通して持っているシンプルな麦芽の特性があり、同様に小麦が加えられることもある。クリスタルモルト由来のカラメル風味が感じられることはまずなく、あってもごくわずか。弾けるようなホップの味わいと米国もしくはニュージーランド産のセパージュワイン(ラベルにブドウの品種名が明記されたワイン)のような香りがはっきりと感じられるべきである。さらに、たいていは草や干し草、松やにというよりは柑橘類やトロピカルフルーツのような味わいがある。しかしながら苦すぎであってはならない。セッションIPAで重要なのは、派手なホップの香りがしつつも、その割にホップの苦味は弱いことである。つまり、口の中がしびれることなく、ホップの華やかさを楽しむことができるのだ。もっと重要なのは、アルコール度数が5%以下であることだ。

「それって単にペールエールじゃないの?」と言う人がいるかもしれない。英国スタイルのビールが好きな人にとっては、ホップをきかせたゴールデンエールに思えるかもしれない。そこが話がはっきりしないところである。セッションIPAというカテゴリーを支持したい人は「アメリカンペールエールは一般的にセッションIPAよりもっとクリスタルモルトを用い、ホップの香りは弱く、苦味が強い」と主張する。「伝統的な英国のゴールデンエールは香りがより少ない、もしくはホップの特性が違う」とも言う。

大きな流行ができるきっかけとなった米国のいくつかのセッションIPAは、日本でも手に入る。例えば、ラグニタス醸造所のデイタイム、ストーン醸造所のゴートゥーIPAだ。これら両方の色は比較的淡く、モルト風味はクリーンで、それぞれの醸造所のペールエールと比べると香り高い。先述の英国スタイルが好きな人たちの疑問に答えるのはもっと難しい。しかし、本当にホップがきいた英国スタイルのゴールデンエールは日本ではほとんど手に入らないので、この疑問に答えるのは時期尚早である。敢えて言うならば、セッションIPAを語るときに、専門家じみた言葉は使わない方がいい。少し飲んでみて、自分のためだけに特徴を表現する言葉を見つけてみてはいかがだろうか。

ほとんどのビール愛好者は気が付いているように、日本のいくつかの醸造所は既にこの時流に乗っている。この春、コエド、あくら、ワイマーケットブルーイングのセッションIPAを特においしく飲んだ。しかしほかにも、銘柄名は合致するようには思えないが、特徴からするとセッションIPAに当てはまるビールはたくさんある。例えば、箕面ビールのセッションエール、志賀高原ビールのアフリカIPA、そしてオゼノユキドケのIPAだってそうだ。それらすべてはこの上なくホップの特徴を持つが、アルコール度数は5%以下だ。

セッションIPAが本当に新しいビアスタイルなのかどうかにかかわらず、アルコール度数は低めで香り高いビールが日本で大ヒットすることが予想できる。

日本での飲み会では、米国や英国と比較するとアルコールの消費が概してかなり少ないのだ。セッションIPAは、夏の午後のピクニックの間や夏の晩にパブを訪れたときに思わず飲みたくなる、素晴らしいビールである。

by Mark Meli

All Beer Styles articles are written by Mark Meli, author of Craft Beer in Japan.


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