Hakone Beer



by Ry Beville

箱根ビールは、優れたクラフトビアを造っているにも関わらず、日本のクラフトビアシーンではあまり知られていない。この小さな醸造所は山と温泉で有名な観光地のほど近くにあるが、併設レストランの外にはビールがそれほど出回っていないのだ。それ以外で箱根ビールを味わえる唯一の機会はいくつかのビールフェスティバルで、箱根ビールがフェスティバルに参加するようになったのもごく最近のことだ。かといって当地を訪れない理由はない。なにしろビール巡礼の旅に値する…この辺りでのハイキングや観光へ向かう途中や帰り道ならば絶対に。箱根ビールは魅力的な同族企業の一部で、この企業は醸造所周りに他のベンチャー事業を複数抱えている。それは蒲鉾製造だ。

1865年以来、箱根ビールの親会社である鈴廣は人気製品を作り続けている。食品に詳しくない人のために述べておくと、蒲鉾とは、白身魚のすり身に添加物を加えて楕円形の塊に形作ったものを、再び固まるまで蒸したものだ。鈴廣の場合は天然添加物のみを使用していて、可能な限り地元産の新鮮な原料で製造する。鈴廣は、海洋保全の実践や企業社会責任を果たすことの必要性も理解していて、企業方針にはその哲学が反映されている。つまり鈴廣は魚加工界のクラフトブルワーというわけだ。幅広い種類の蒲鉾が持つ控えめな魚の風味、これに合うビールの製造を試みることは正に彼らにぴったりだと言えよう。

簡単なことではありません、と直販営業部の石川雅也部長は言う。結果として、第一に蒲鉾と同じように控えめな味わいを持つビールを製造するようになったのだ。箱根ビールには味覚を破壊するような力強いIPAはない。あるのは、どちらかと言えばごくごくと楽しめて品質の安定度が極めて高いセッションビールだ。

箱根ビールは1997年7月に立ち上げられ、現醸造長の廣田氏はその当初か箱根ビールと共に歩んできた。彼は多くの日本人ブルワーと同様、酒造りを意識しつつ東京農業大学で醸造技術を学んだ。しかし鈴廣での職を得て、荷物をまとめてビール造りの道へと入ったのだった。

廣田氏は次のように言う。「始めは生麦で2週間、キリンビールの社員から学びました。そしてその後何年間も学んだレシピを変えませんでした。そもそも私はアシスタントブルワーだったのでレシピを変える機会もありませんでした。」

廣田氏は2002年に醸造長となるが、不安がない訳ではなかった。「既に5年間ここで働いていましたが、また新しいプレッシャーが生まれました。当時石川は弊社の醸造所併設レストランのマネージャーでした。彼は挑戦することが大好きな男でした。彼は箱根ビールをあるコンペに応募したのですが、コンペ参加の際に得られたコメントは芳しくありませんでした。そこで我々は、変化が必要なのだと気付き、実行したのです」

「良いビールとは何だ?」の1点に考えを集中させながら廣田氏はレシピをいじり始める。「まず発酵が正しく進まなくてはなりません。そのためには殺菌を行うことです。品質を確保するために、私は基本的に各醸造プロセスについてそれまで以上に集中しました。ある選択に迫られて分かれ道に差し掛かった時は、自分が選んだ答えの正当性を述べられる時だけ決断をしました。醸造に関して勝手な決断は一切しませんでした。」

結果的に箱根ビールの品質は向上し、クラフトビールファンの間でも以前よりずっと強く推薦されるようになった。醸造所のフラッグシップは2種類。きりっとしたピルスナーと、ブラウンエールの「小田原エール」だ。固定の季節限定ビールは3ヶ月ごとに入れ替わる。風祭スタウト(冬)、ペールエール(春)、ヴァイツェン(夏)、レッドエール(秋)だ。他にも爽やかなレモンビール、オレンジビール、大勢が賞賛したゆずエールなどの限定ビールを醸造している。

「フェスティバルへの参加を始めた頃は知らないビールが多くありました。サンクトガーレンの岩本さんがされていることに感銘を受けて、そこからレモンやバレンシアオレンジを使うビールのアイディアを得ました。果汁を使うだけではなくて、自分達で皮を剥いた果実も投げ込みます。一方、ペールエールのレシピは私が最初にキリンビールから学んだものに基づいています。けれど私はよなよなエールのようにしたかったので、レシピをひねる際にはそれを基に使いました。」と廣田氏は言う。

箱根ビールを味わうのに最適な場所は、メインの醸造所併設レストラン「えれんなごっそ」だ。3種類のビール(2種の看板ビール+季節限定ビール)が1,680円で80分間飲み放題のスペシャルメニューがある!レストランには、新鮮な蒲鉾はもちろんのこと幅広いメニューが楽しめる大規模なビュッフェを提供している。



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