琵琶湖が京都から近いということは都合がいいはずだが、近すぎるが故の弊害もあるようだ。琵琶湖は日本最大の淡水湖で、その美しさでもよく知られている。京都駅から電車で琵琶湖南岸沿いに位置する大津駅までたったの10分という近さだが、実際にそのルートで旅をする人はほとんどいない。かつては琵琶湖の美しさを称えた詩歌が頻繁に詠まれ、美術の世界でも題材としてよく取り上げられたものだが
(歌川広重の有名な錦絵「近江八景」など)、近頃では琵琶湖の美しさが忘れ去られているように思える。琵琶湖と京都が近すぎるために、大抵の観光客は古都京都の見どころを時間を掛けて満喫しようと琵琶湖に目もくれず京都に行ってしまうのだ。
実際、京都にはおびただしい数の神社仏閣ときれいに整備された砂利の庭園が至る所にあるのだが、それらがあまりにもたくさんあるものだから見て回っているうちに疲れてくる。そんな時、葦が茂る琵琶湖の湖岸の美しい景色が心も体も癒してくれるだろう。人も少なく、ほとんど観光地化していないからこその、色褪せない魅力が琵琶湖にはある。
琵琶湖の最大の楽しみは湖畔の城下町、彦根だろう。彦根市は国宝級の建造物を有し、一日掛けて観光するのにちょうどいい。彦根市以外にも見所は多く、例えば湖北地方の大部分を占める長浜市も美しい城下町で、古い町家を活用した店舗が立ち並ぶ「黒壁スクエア」と呼ばれる情緒溢れる町並みは湖北最大の観光スポットとなっており、ギャラリーやガラス工房の軒先には美しいガラス工芸品がたくさん展示販売されている。湖岸沿いの桜並木を楽しめるクルーズ船も風情があるし、小さな無人島、竹生島(土産物店、寺社などあり)に渡るのも楽しい。鉄道マニアなら、現存する日本最古の駅舎である旧長浜駅舎が保存されている鉄道保存展示施設「長浜鉄道スクエア」を外すわけにはいかない。黒壁スクエアにある「海洋堂フィギュアミュージアム黒壁」は世界初のフィギュア専門ミュージアムで、海洋堂のフィギュアをジオラマ展示し、販売もしている。長浜市には寺院も多く、よく保存整備された古い街並みの中にある大通寺は長浜御坊とも呼ばれ、堂々とした風格を誇っている。「総持寺牡丹まつり」が開催される4月から5月にかけては牡丹が次々に花開き、特に見頃となる。紅葉の季節には「近江孤篷庵」という美しい庭園の散策がお勧めだ。日本三大山車祭の一つ「長浜曳山祭り」は400年の歴史を誇り毎年4月に開催される。華やかな舞台付き曳山での子ども歌舞伎の上演が見どころとなっている。
琵琶湖の南西部に位置する大津市の石山寺には、寛弘元年(1004年)、紫式部が当寺に参篭した際、八月十五夜名月の晩にこの地で源氏物語の着想を得たという伝承が残っている。石山寺本堂には「紫式部源氏の間」が造られており、執筆中の紫式部の像が安置されている。石山寺は国の天然記念物にもなっている珪灰石という巨大な岩盤の上に建っていることから大きな岩があちこちに見られ、一年を通して見事な景観が楽しめるが、梅の花が見頃を迎える春先がベストシーズンだろう(石山寺は「花の寺」とも呼ばれている)。
ワイルドな旅を楽しむなら、断層崖が急激に湖に落ち込んでいる琵琶湖西岸、「八ツ淵の滝」へ行こう。ここの登山道には刺激的でちょっと怖いくらいのワイルドさがある。冷たい水しぶきを浴びる登山道(と言っても岩に付けられた赤い目印だけを頼りに登って行くのだが)は急坂、滑りやすい岩場、鎖場を登って滝の上流を目指すもので、充分な装備と覚悟が必要。登山靴、手袋着用は必須でヘルメット着用が安心だ。万一の場合に備えて保険にも入っておくことを勧める。ロンリープラネット社が発行するハイキングガイドには、「八ツ淵の滝」の難コースを制覇した者には琵琶湖の絶景が待っている、と記されている。
琵琶湖周辺に滞在するにせよ、ただ通り過ぎるだけにせよ、近江牛は絶品なので是非食べて欲しい。クセのある風味ながら鮒寿司も有名な郷土料理となっている。この地には、長浜浪漫ビールがあるのでぜひ試してみて欲しい。歩き疲れた旅を締めくくるのに、長浜市内のビアパブが最適だ。
アクセス
京都から新快速で長浜まで約70分(米原駅で乗り換え)。新幹線ならもっと早い。石山寺へは京阪石山寺駅から徒歩10分。「八ツ淵の滝」へは近江高島駅から江若バス、黒谷行きに乗車し鹿ヶ瀬道で下車。暗くなる前に帰着するために朝早めの出発を勧める。
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