Pasteurization

by Kido Hirotaka

日本は、島国でその国土の地形から、ほとんどの地域が海からの産物が新鮮なまま入手できていた為、諸外国からは、あまり理解されない『生食文化』が発達したのだろう。この事から、日本人は“生”と言う言葉から『新鮮』を連想させるのではないだろうか。生=新鮮で旨いと・・・。

日本酒の業界では、『火入れ』と言う工程で、熱処理されていない酒を『生酒』という。賞味期間は、非常に短くなるが、しぼりたてのフレッシュな味が楽しめるもので、昔は醸造所の近くの一部の人たちにしか出回る事のない、とても貴重なものだったようだ。日本のビール業界もこれに乗じてか、樽や瓶に詰める直前、もしくは、その直後に熱処理されていない物を『生ビール』と言っている。

だが日本酒とビールとでは、その醸造工程に大きな違いがあり、同じ『生』でも、大きく意味が変わってくる。

日本酒においての『火入れ』の目的は、火落ち菌と呼ばれる、お酒を腐らす菌を殺す目的と、『酵素の失活』の為なのだとか。日本酒は、ビールと違い糖化と発酵が同じタンクで同時に行われる為、その途中で熱を加える事が出来ない(途中で火を加えると、糖化も発酵も止まってしまうからだ)。その為、出来上がった酒の中には、麹菌による糖化酵素が残っていて『火入れ』されていない『生酒』は、短期間で低温による輸送・保管が行われないと、簡単に変質してしまうのだとか。

では、糖化と発酵が別々のタンクで行われる『ビール』の場合はどうだろうか。糖化が終わった麦汁は、別のタンクに移送され『煮沸』される。この時に最大の目的は、雑菌による腐敗のリスクを下げる為だ。その後冷却され酵母が投入され発酵が始まる。

酵母が別のタンクで、糖化後に投入されるビールは、醸造工程の途中で、熱を加える事ができ、非常にリスクを下げる事が出来る。

更にビールには、ホップが使用されている。ホップは、ビールに爽快な香りと苦みを与えてくれる他、“ハードル効果“に大きな役割を果たしており、雑菌の繁殖を抑えてくれるという効果がある。特に大量のホップが使用されているクラフトビールの場合、その効果はより大きなものとなっている。

しかも、『生ビール』は、熱処理こそされていないが、フィルターにより酵母や微生物が除去されている。(現在の大手ビールメーカーのフィルターは、アメリカ航空宇宙局NASAが開発した、『マイクロフィルター』を使用しており、微生物は、もちろん、味や香り成分まで濾過してしまうほどの細かな目のフィルターを使用している)

煮沸もされていて、イーストは愚か、微生物も存在せず、フィルタリングにより味の成分を削りとられたビールが、何を持ってして、『生』なのか!?それは、日本酒の『生酒』の希少価値を利用し、消費者を混乱させた大手ビールメーカーのイメージ戦略でしかないのではないのか?!

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