By Eli Raffeld
マウイ・ブリューイングは2005年にギャレット・マレーロとメラニー・オクスリーの二人が創業、短期間でハワイ最大の地ビールメーカーに成長し、これまでにグレート・アメリカン・ビア・フェスティバル、ワールド・ビア・カップなどで数々の賞を受賞してきた。2008年にスコット・フレータス(元デシューツ・ブリューイング、ワイルドダック・ブリューイング)を醸造責任者に迎えてさらに製品のラインナップが充実した。工場はマウイ島のラハイナにあり、そこから6マイルほど離れたカハナ地区に直営のビアパブがある。製造工程は100%マウイ島内でなされている、本物の楽園ビールである。
ラハイナの工場でギャレット・マレーロに会い、その製品や将来の展望などについて聞いた。
“Brewed with Aloha”という製品キャッチコピーについてお聞かせください。
このキャッチコピーはビールの造り手である私たちの気持ちを表現したものです。アロハという言葉は物質的なことよりも精神的なことを指していて、愛情を注ぎながら丁寧にビール造りを行なっているという意味です。当社では自然な製造方法により(無ろ過、化学物質・保存料不使用)ビール造りをおこなっています。そして直営のパブで供されるビールや料理の味には造り手の心が自然に出てくるものだと思います。いい加減な気持ちからはいい味は生まれてきません。
そして私たちはハワイでビールを造っていることに誇りを持ち、いつも明るい気持ちでビール造りに臨むことを忘れないようにしています。何をやっているのかということを意識するだけでなく、なぜそれをやっているのかということを常に意識することが大切だと思います。
アロハの精神を注ぎながら手造りするビールが私たちの持ち味です。ドッグフィッシュヘッド・ブルワリーのSam Calagione氏が言う「風変わりな人たちのための風変わりなエール」や、ストーン・ブリューイング社のビールのラベルに書いてあるyou’re not worthy(あなたはこのビールを飲むに値しない)などといった強烈なキャッチコピーも大変魅力的ですが、アロハの精神に基づいて造られた当社のビールにはyou’re not worthyという過激なセリフは似合いませんし、彼らよりも中間市場をターゲットにしている我々のビールには風変わりなエールというセリフも似合いません。ハワイには世界中からたくさんの人たちがやってきます。そして彼らが当社のビールの缶を開ける時、そのラベルにまず注目するでしょう。当社のラベルの完成度も本物の証。見た目にもセクシーなデザインですが、味もセクシーです。ビキニ姿のハワイアンガールのイラストが印象的なビキニ・ブロンド・ラガーを飲みながらハワイならではのバケーション気分に浸ってください。
原料の調達に苦労はありませんか?
マウイ島では穀物の栽培は行われていないので麦芽は島外から仕入れてくる以外ありません。大麦が栽培されていませんし、大麦の加工場も島内にはありません。ホップの加工場もありません。以前ホップの栽培を試みたことがありましたが気候が合わず育ちませんでした。当社では年間約24000ポンドのホップを使いますが、それだけのホップを栽培するには広大な畑が必要になりますし、肥料代も膨大です。原材料のコンテナの到着スケジュールには特に気を使います。海が荒れて船が遅れることもありますし、荷崩れなど起こしたら大変です。ビキニ・ブロンド・ラガーを造る予定を立ててもピルスナーモルトが入ってこなければ造れませんから状況によって他のビールに予定変更しなければならない場合もあります。近年は自然災害も多くなっています。水が手に入らなかったり停電になったり、従業員が出社できなかったりして仕事にならない事態も考えられるのです。
不確定要素が多い中で島内での仕事はカレンダー通りにはいかないことも多く、朝9時に始業して夕方5時で終わり、とはいかないこともあります。また麦芽を発注してもすぐには入荷しないので、在庫については常にある程度の余裕を持たせておく必要があります。ハワイには受注の翌日に発送、というシステムは存在しないので、急ぐ場合はこちらから飛行機で他の島へ必要なものを取りに出向いたり、機械の部品などについては本土で誰かに調達してもらい、飛行機で持ってきてもらったりします。物が入ってこないと騒いでも入ってこないものは入ってきませんから。ここでは本当に時間がゆっくり流れていることを感じます。
缶ビールにこだわる理由は? 「マイクロキャニング革命」と呼ばれる新技術とは?
マイクロキャニング革命という言葉はコロラド州のオスカーブルース・ブルワリーのデール(私は彼をマイクロキャニング革命の父と呼んでいます)という人が最初に使いました。缶の製造に関するこの新技術を使った醸造所としては当社は11番目になります。そして現在では100を超える醸造所がこの技術を利用しています。カリフォルニアのシエラネバダ醸造所も缶ビールの製造を考えているようです。私たちはこの度、14年以上瓶ビールを造ってきたアルカディアン醸造所に従来の缶ビール製造ラインを売却しました。革命とは言え、今ではすっかり業界に浸透している技術ですからもはや革命とは呼べなくなっている感もあります。缶は光を遮断しますし、ビールの酸化も抑えますし、酸素の侵入も許しません。缶は理想的な状態でビールを密封することができます。ハワイには瓶ビールもありますが、瓶に対する課税は大きいですし、ビーチで瓶が割れたりしたら危険ですし、重い瓶ビールは輸送時にも大変です。缶ビールなら一つのコンテナで2000ケースも運べますが瓶ビールならせいぜい1200ケースでしょう。缶自体はオアフ島で現地労働者によって製造された後に私たちのところにやってきてラハイナの当社工場で缶ビールとなります。私たちは地域経済の活性化にも寄与しています。
ハワイの地ビールメーカーの中でマウイ・ブリューイング・カンパニーの特色は?
まず私たちはハワイという地元に根差してビールを造っているもう一つの正真正銘のハワイビールメーカーであるハワイ・ヌイ・ブリューイング・カンパニーに敬意を表したいと思います。2年前の時点ではハワイでクラフトビアを造っているのは私たち2社だけでした。
コナ・ブリューイング・カンパニーと私たちの違いは、私たち2社はハワイでビールを造っているということです。日本でもおなじみのコナ・ビールは実はハワイ産ではありません。コナのアロハ・シリーズのビール、もちろんココナッツ・スタウトも含めて、あたかもハワイ産であるかのようにデザインされていますが実はハワイ産ではありません。コナは2003年以降ハワイでビールを造っていません。私たちは私たちが造るビールの方が美味しいという信念を持って造ってきました。そしてハワイ最大のビールメーカーに成長することが出来ました。こう言うとコナは異議を唱えるでしょう。確かに世界的に見れば彼らの方がたくさんのビールを製造していますから。でも彼らが造るビールはもはやハワイ産ではありません。
当社のビールは今後もハワイ産にこだわっていきます。本物のハワイビールにこだわっていきたいのです。もしハワイ内で生産が追いつかないくらいの売り上げ規模になる日が来たら、その時は規模拡大を打ち止めにし、パブもそれ以上増やしません。規模拡大や利益追求のために純粋なハワイアンビールのファンを騙すことは当社の理念に反することです。それはアロハの精神にも反します。ファンを騙して造られるビールが美味しいはずは無いのです。
日本のビール好きにメッセージをお願いします。
もっともっとたくさんビールを楽しみましょう!ハワイではビーチでもビールがよく飲まれています。日本でもマウイ・ブリューイングのビールを飲んで私たちのアロハの気持ちを感じてもらい、しばしハワイ気分に浸って頂きたい。そしてマウイでしか飲めないビールもたくさんありますから是非マウイ島に来てください。アロハ!
マウイ・ブリューイングで以前、醸造助手をしていたダニエルという男はココナッツ・ポーターを造るためにひたすらココナッツを焙煎していた。ココナッツを一日中焙煎して仕事を終えたダニエルが地元のバーでいつものように一杯やっていると、彼の体に染みついた甘いココナッツの香りに誘われて女たちが次々に寄ってくるのだった。やがてダニエルがその中の一人と結婚する事になり、会社も辞めて新しい人生をスタートさせることになったとき、マウイ・ブリューイングでは誰が次にココナッツ担当になるのか、そして甘い匂いを振りまくモテ男になるのか、を巡って一騒動あったらしい。
日本ではナガノ・トレーディングがマウイ・ブリューイングの缶ビールと樽生を扱っている。
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