先日、私があるブルワーから教えてもらった言葉だ。
ビール造りにおいて、人間以上に必要不可欠なもの。それはイーストである。
イーストは、ビールにフルーティーなエステルと言う香気成分を生成しアルコールと炭酸ガスを与える。
ビールの醸造工程は、全て、如何に効率良くイーストが活動しやすい環境を作るかを考えて、最善の方法が取られている。
例えば、ビール造りの最初は、麦芽をある程度まで細かく挽いて、お湯に浸し粥状にする。そうする事で、麦芽に含まれるデンプンを効率良く糖分に変える事が出来る。この工程で得られた糖分は、イーストが活動する為の栄養分となる。次に、この粥状のものから、液体(麦汁)だけを分離させる。この時、濁りの多い麦汁になってしまうと、イーストの活動の妨げとなってしまう為、濁りの少ない、キレイな麦汁だけを摘出する工夫が成されている。
キレイになった麦汁は、次に90分ほど煮沸される。この煮沸も色々な意味があるが、最大の目的は殺菌である。発酵時にイースト以外の雑菌が悪さをしない様、煮沸して雑菌を死滅させる。その後麦汁は、冷却されイーストが活動しやすい温度に管理されたタンクで発酵させられる。このようにして、ブルワーが十分な栄養分とストレスが無い環境を作り、のびのびとイーストを活動させる事で、美味しいビールが出来上がる。
一昔前のビール醸造は、常に腐造との戦いだったという。最も、発酵と腐敗は、背中合わせで、人にとって有用な場合にのみ“発酵”と呼ばれ、それ以外は、腐敗とされている。その境目は、紙一重だ。
ビール醸造から、この腐造のリスクを大きく遠ざけた人物がいる。それは、オランダの菌学者で当時、カールスバーグ醸造所の研究所で、『ビール醸造による腐敗の原因の解明』について研究していた“エミール・クリスチャン・ハンセン”だ。ハンセンは、パスツールが提唱した理論を元に『酵母の純粋培養法』を確立した。純粋培養とは、食品のサンプルから菌を培養すると、いろんな菌が生えてくる。その菌達は、それぞれ「コロニー」という小さな集落を作る。そのうちの1つだけを取り出し、他の培地に植え替えて培養すると、その菌だけが培養されるという。ハンセンは、バクテリアやワイルドイーストなどの「汚染菌」から単一酵母を分離させ、酵母を飼い慣らし、ビール醸造から不確実性をなくしたのだ。
ハンセンのおかげで、今やイーストは、豊富なバラエティーが揃い、その中から、造りたいスタイルの物を好きな時に、容易に手に入れる事が出来ようになった。
美味しいビールを造るには、ブルワーがイーストの特性を十分に理解し、上手に育ててやること。ブルワリーとは、云わば「イーストファーム」の様なものなのだ。
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