The Bright Star from Dark Star

祖国イギリスのダークスター醸造所での仕事を辞したジョージ・ジュニパーは今年1月早々、常陸野ネストビールの製造元である木内酒造に入社、国際販売及び製品開発部門の一員として仕事をスタートさせた。本誌は13歳から自家醸造をやっていたという彼にインタビューを行い、クラフトビアに対する熱い思いを語ってもらった。

「自家醸造のノウハウは母から教わりました。ワイン好きだった母は僕が小さい頃から家でワインを造っていて、あるとき自家醸造に必要な道具一式を僕に買い与えてくれました。母は僕が家でゴロゴロしているよりも趣味と実益を兼ねて自家醸造を楽しんでくれれば、と考えたようです。イギリスでは自家醸造は合法ですから何の問題もありませんでした」

ビール造りに対する熱い思いは10代から、日本語を独学で学び始めた20代に入っても続いていた。「日本という国に興味があって旅行で来たのですがすっかりその魅力にハマってしまいました」。そして日本のビールの美味しさにも驚いたという。「志賀高原IPAが一番のお気に入りです。最近は横浜ビールもよく飲んでいます」。

日本に興味を持ったのはビールがきっかけ? 

「日本に行きたいという気持ちは何年も前からありました。何回かの訪日で知り合いがたくさんできていたこともあり、去年になって日本で働いてみたいと思うようになりました。僕が初めて日本に来た時と比べると日本のビールは品質面でもバリエーションの豊かさの面でも大きく成長していますが、それでもまだまだ成長の余地はあると思います。例えばイギリスなどと比べてもビール造りの歴史が浅いこともあり、明確な基準となるものが見えていない造り手が多いと思います」。

ダークスター醸造所での4年半の経験は彼にビールについての明確な基準となるものをしっかりと身に付けさせてくれたようだ。

「ダークスターでは生産部長として、かつての自家醸造で得た知識と経験を活かしてロンドンブラウンエールなどに深く関わりました。ロンドンブラウンエールは甘めでモルティな風味があり、アルコール度数は低めでホップは適度に抑えられた飲みやすいビールでした。ドライな風味のスタウトもありました。こちらもホップが強すぎないビールでした。僕はホップのアロマ香は好きですがホップの強い苦みはあまり好きではありません」。

イギリス人はホップの効いたビールをあまり好まないのだろうか?この疑問に対して彼はダークスターのロンドンブラウンエールとスタウトは今の流行とは違うタイプのビールだったと説明してくれた。

「イギリスでも今ではアメリカンタイプのビールがたくさん飲まれています。ダークスター醸造所が造るビールはアメリカ産のホップをたくさん使いながらブリティッシュエールタイプのボディと組み合わせることでWIPAほど重くないビールに仕上がっています。ホップの効いたビールが流行っていることは素敵なことだと思いますが、ホップを使いすぎるとどうしてもアルコール度数の高いビールになりがちです。しかしアルコール度数の低いビールでも風味豊かなものを造ることはできるのです。僕は風味の豊かなビールが好きですが同時にそれを出来るだけ長時間、たくさん楽しみたい。いつまでも飲めるビール、つまりアルコール度数の低いビールです。WIPAと言われるようなタイプのものは2~3杯飲んだら酔いが回ってしまい長く楽しめません。ダークスター醸造所のビールで一番売れていたのはホップヘッドという3.8%のビールでした。軽くて飲みやすく同時にホップのアロマが効いていました。WIPAを好んで飲んでいた人たちもホップヘッドのファンになってくれましたよ」。

ホップを効かせたタイプのアメリカ産地ビールの輸入が急激に伸びている今日、常陸野ネストもホップの効いたビールを造れば日本の地ビールファンに歓迎されるだろう。実際、国産地ビールでも横浜スラッシュゾーンのHopslaveや箕面ビールのWIPAといった苦いビールが大好評だ。しかし彼の目指しているものはちょっと違うようだ。「僕はダークスター醸造所でセールスアドバイザーの仕事もやっていたのでどんなビールが売れるかということをいつも考えていました。木内酒造でも醸造技術者たちに低アルコールで風味豊かなビールを造るように働き掛けたいと思っています」と彼は付け加えてくれた。

仲間とワイワイ楽しむのにちょうどいい低アルコールビールは今後日本でも人気が出るのではないだろうか。さて問題は常陸野ネストビールがそれを造ってくれるかどうか、ということだが、様々なチャレンジを続けている常陸野ネストビールがやらないはずはない。そう信じよう。

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