1720年代、ロンドンでは労働者達にポーターが日常的に飲まれていました。生牡蠣もまた、ロンドンではとても手に入り易く安価な食材だった為、ポーターを飲んで牡蠣を食べていれば労働者たちの飲食代はとても安上がりだったと言われています。
1770年代ポーターは英国から海を渡りアイルランドに伝えられました。アイルランドのダブリンにあるギネス社では、このポーターに手を加えアルコール分を強化して「スタウト・ポーター(ストロングポーター)」と言うビールを造りました。「スタウト・ポーター」はその後、単に「スタウト」と呼ばれようになっていきます。スタウトが誕生したアイルランドでも牡蠣はとても手に入り易すい食材で、生牡蠣をつまみにスタウトを飲むという習慣が広がっていきまいた。牡蠣のデリケートな潮の香とスタウトの香ばしいモルトの風味は口の中で絶妙にマッチした為、牡蠣とスタウトの組み合わせは、料理と酒の最も理想的なサンプルになりました。
当時は戦争による物不足も関係していたそうですが、牡蠣の殻もビール醸造に使われていた様です。牡蠣の殻はアルカリ性なので粉末にしてビールに投入する事でビールの酸味を消して口当たりの滑らかなビールになると言う効果があったようです。また不用な成分の沈殿を促進する清澄剤としても使われていたといいます。
本物の牡蠣を使ったスタウトを造った最初のブルワリーは、驚くことにニュージーランドの『ヤン&サン ポーツマスブルーイング』と言うブルワリーが1929年に醸造した物だそうです。その後1930年代後半にイギリスのキャッスルタウンブルワリーが『マンクス オイスタースタウト』として牡蠣が入ったスタウトを醸造したようです。
日本でも素晴らしいオイスタースタウトが幾つか醸造されています。岩手県にあるいわて蔵ビールがレギュラーで醸造しており、三重県の伊勢角屋麦酒と茨城県の常陸野ネストビールが季節限定でオイスタースタウトを醸造しました。興味深いことに、伊勢角屋麦酒では、地産の美味い牡蠣を焼いたものをネットに入れ、これを麦汁に浸してボイリングするそうだ。 皆さんも、オイスターとスタウトの組み合わせを是非楽しんでみてください。
by Kido Hirotaka
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