1年の時を経て、4月18日から再び発売開始することになったヤッホーブルーイングの「僕ビール、君ビール。続よりみち」。その試飲会が先日開催され、そこで彼らの説明の上手さが際立った。一つひとつを確認したい。
筆者が彼らの上手さが決定的だと思ったのは、社長の井手直行が昨年著した書籍『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』の巻末付録の、エールとラガーの説明である。前者を「陽気」、後者を「クール」と呼び、製法と出来上がりの特徴とその違いを実にうまく説明している。製品を売るための努力の末の結晶だと思う。
そして今回の試飲会では、「よりみち」だけでなく、2015年10月から定番銘柄に昇格した「僕ビール、君ビール。(僕君)」も提供された。これは、「僕君」シリーズとして改めてアピールするという目的もあっただろうが、同社の中で味わいのバランスが似ているこの2銘柄を並べることにより、それぞれの特徴がより鮮明に感じ取れるという好結果ももたらした。
実際の試飲に入る前には、「よりみち」という製品をより深く理解するため、「ビアスタイル」と「クラフトビール」の説明もあった。
ビアスタイルの説明で優れていたのは、「ご当地ラーメンのようなもの」というものだった。確かに、構成する要素として基本となる麺とスープの二つは、麦芽とホップの構図と似ていなくはない。外来文化であって、日本の食材を使って独自の発展を遂げているものもあれば、あくまで本場の味わいを目指しているものもある。新しい味わいをつくるための実験は日々どこかで行われていて、人気が出れば新しいスタイルとなるし、既存のスタイルの流行り廃りもある。
またクラフトビールについては、これは英語というよりも米語と言うべき、米国で生まれた言葉であり、実際、欧米各国では使われ方が異なる。だから日本はこの言葉に必ずしも乗ることはなかった。しかし一方で、現在はクラフトビールと並行して使われていて、以前は支配的に用いられていた「地ビール」と比べると優れた製造に着目した言葉であり、つくり手に広く支持された。Craftは「匠(たくみ)」とも訳される言葉だからだ。
同社は業界シェアトップとして、クラフトビールの説明について端的な答えを持っていた。それが「小規模な醸造所がつくる多様で個性的なビール」である。これは、「小規模」と「多様(で個性的)」という要素が二つ並行にあって、両方を満たしている状態を指しているのではない。まず小規模であることが先にあって、ビールづくりが事業として存続・成長していくためには大規模のところとは違うことをしなければならず、そのために多様なビールが自然と姿を現してきて、消費者がさまざまな銘柄を楽しめるということである。
例えば、大規模がつくっているようなビールが広く支持されているからといって真似てつくっても(そして真似しなくても)、価格は高くなってしまう。だから周囲ではまだ珍しい味わいや、自分たちにしか出せない味を追究する。そうした背景や品質に納得すれば、比較的高い価格にも納得できる。だから、この「小規模」と「多様」は図にするならば、「小規模」が下、「多様」が上に来るという、2層構造になっている。つまり、小規模であることが前提で、その土台の上に多様性が成り立っているということだ。
「小規模があれば多様性がある」という命題が真であることを証明するために対偶を取ると、「多様性がないならば小規模はない」となる。日本のビールづくりの歴史を見れば、多様性がなかった時期はかなり長く、そしてそれは大規模メーカーの寡占となっていた時期である。実際、大規模メーカーとの差異化を図って商機をつかんでいる小規模メーカーの経営者が「さまざまなコストばかりかかる多品種少量生産ではなく、1銘柄だけつくっていればいいのであれば、どんなに楽なことか」と言っているのを聞いたことがある。
肝心の試飲の結果について触れよう。セゾンというビアスタイルに分類される「僕君」を改めて味わうと、見た目はよく透き通っていて輝くような金色であり、鼻を近づけるといくつかのスパイスとハーブが混ざったような複雑な香り、青リンゴのような香りがして、口に含むと後者が際立つ。苦味は中程度もしくは弱めにあって、すぐにきれいに消える。
アメリカンウィートエールの「よりみち」の色は淡い黄色で、透き通っている。香りはマンゴーやレモンなどのフルーツが混ざっていて、これはモザイクという米国品種のホップの特徴がよく出ているからだという。このスタイルにしてはフルーツ香が強い(もちろん好むかどうかはあなた次第だ)。苦味はこちらも中程度ないし弱めである。
二つの銘柄は味の面では似ていて、その分、香りの違いが際立つ。並べて味わうとそれがよく分かるのだ。しかも基本的には誰にでも。
この「よりみち」を開発するに当たり、1枚の写真を目標にしたという。そこには、緑の丘に森、そして山が下半分に写っていて、上半分には雲が薄くかかった青空が広がっている。多くの人が「爽やか」と思うかもしれない。これはメンバー間で共通のゴールのイメージを持つための、その名も「ビッグピクチャー(全体像、大局)」というビジネスの手法でもある。実際、缶のデザインは緑色の背景に、青い輪郭を持った白いカエルである。
上で挙げた『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』は井手が売りたいのに売れないよなよなエールを捨てざるを得なかった経験も綴られている。ヤッホーブルーイングの説明の上手さには、そうした悔しい経験から学んだ力強さすら感じる。
by Jinya Kumagai