Beer Roundup (Winter 2019)



このコーナーで紹介するビール関連の話題を探していると、ビール業界とビール文化の面白さに改めて気づくことが多い。まるで、風変りで素晴らしい人々や、頭が良くてクリエィティブなタイプ、そして起業家精神に溢れていたり、冒険好きな人々を世界中から引き寄せる磁石のようだ。例として、チーズ、チョコレートやワインなどの商品に関する記事の見出しを見てみると、興味を引くような驚きが少ない。これらの商品に関わる人たちは、あたかもお上品なイメージを守らなければいけないかのようだ! そして、ほかのいくつかの商品と同じく、ビールも消費者層の人口構成は幅広い。つまり、ビールのニュースや新情報は、多様な場面や場所から出てくる。今秋、話題となった出来事を見てみよう。

一部の業界観測筋によると、現在流行の兆しを見せているのは、注目を浴びること間違いなしの1500ミリリットルのマグナムボトルだ。ワインやシャンパンの世界では珍しいものではないが、ビール界では比較的目新しい。近頃、このタイプのボトルを手掛けるブルワリーが増えている。記憶している限りでは、アンカーブルーイングカンパニーが毎年末にスペシャルエールをマグナムボトルで発売していたり、ストーンのダブルバスタードの「ダブルマグナム(3リットル)」のボトルも見たことがあるが、それ以外はあまり目にしたことがない。詳しく調べてみると、トラピストビールを醸造しているベルギーのブルワリーのいくつかは、産業化以前にマグナムタイプのエールを販売していたようだ。現在はレフェやデュベルなどのブルワリーがその伝統を受け継いでいる。そこにクラフトブルワーや大企業の仲間が増えた。最近ではハイネケンとミラーハイライフのほか、小規模なヒルファームステッド、アラガッシュとミッケラーなどのブルワリーもマグナムボトルを販売している。棚のスペースと配送に問題を抱える日本では、このトレンドは広がっていかないかもしれない。しかし、もし大きいサイズのボトルを試したいブルワーがいるならば、我々は30リットルの巨大ボトル「メルキゼデク」をおすすめする。なぜか? なんとなくだ。友達と一緒に電車で長時間移動するときに、そのボトルを持ち込んだら楽しいと思わないか? 居合わせた乗客と一緒に飲まなければいけないだろう。持ち運びできる小さなクレーンも役立つかもしれない。

ビール業界以外の企業とブルワリーとのコラボも、その企業がコーヒーや果物など、特別醸造ビールの原料を供給している場合は特に目新しいものではなくなっている。しかし、ここ数年、様々な宣伝目的で、ビールとはほとんど、もしくはまったく関係のない企業との協業も増えている。米国でもっとも有名なドーナツチェーンの一つ、ダンキンドーナツは、ニューイングランド地方ではメジャーなハープーンと手を組み、コーヒーポーターを発売した。確かに、コーヒーポーターにドーナツをつけて食べるのは美味しそうだ。ドーナツとビールといえば、コエドビールがおすすめする、「紅赤(Beniaka、さつまいものエール)」と一緒に食すべき料理の一つにドーナツがある。これは我々も試したが、とても合うし、美味しい! ほかの意外な組み合わせとしては、米国の代表的なピーナッツブランドのプランターズピーナッツが、シカゴ近郊の小さなブルワリーのヌーン・ホイッスルとコラボし、ピーナッツIPAをつくった。不思議な組み合わせだが、地元紙『シカゴトリビューン』のビール担当記者ジョッシュ・ノエルによると、味はとても良いそうだ。我々は、何年も前にビアへるんのピーナッツエールを飲んだことがあるが、それもかなり美味しかった。

不思議といえば、見る人(または味わう人)によるのだろうが、合わなそうな組み合わせも中にはある。これはどうだろう? ビーガンアボカドビールだ。11月に、ロンドンにあるブルーパブ「ロングアーム」が、まさにそのビールを販売した。このビールには、アボカドをもてはやし過ぎて揶揄されたりもするミレニアル世代(1980年前後から2005年ごろに生まれた世代)を賛した名前「ミレニアルスタウト」と名付けられた(健康的なスーパーフードを好むのはそれほど悪いことなのだろうか?)。ビールはクリーミーなアボカドの味がするものの、アボカドの色はしていない。不思議な感覚だ。しかし、不思議でクールだ。紫色の茄子エールのように。そして、味噌がたっぷりかかったような味がする……ちょっと待て。それならば、味噌をつけた焼きナスを食べながらビールを飲めばよいのではないだろうか。

宣伝と戦略といえば、中東の一部地域と北米で展開しているファストフードチェーンのアービーズでは、「ビア缶チキンサンドイッチ」を試験販売している。これは、実は本誌でも何年か前にレシピコーナーで紹介した、面白いチキンの漬け込み方法を指している。ビア缶チキンは、丸どりのお尻部分に、開けたビールの缶を突き刺して、缶を土台にしてグリルする料理だ。立てて焼くことで均一に火が通り、ビールが蒸気となって内側に浸透し、とてもジューシーに仕上がる。アービーズでは、店舗で缶を開けてローストしている訳ではない。ビールを使った調味液に漬け込んでいるだけだ。それでもやはり、これは漬け込む方法そのものと同じくらい巧みなマーケティング戦略だ。

宣伝ばかりに特化していないという意味で、より信念に基づいているコラボレーションは、カリフォルニア州チコのシエラネバダで生まれた。11月に起こった、壊滅的な被害を及ぼした大規模な山火事は「キャンプ・ファイア」と呼ばれ、チコ近郊のパラダイスという町を焼き尽くした。これはカリフォルニア州過去最悪の犠牲者数を出した山火事となった。本記事を執筆している現在、12,000棟近くの家屋が焼失し、死亡者は88名、そして200名弱の人々が行方不明となっている。シエラネバダは、「レジリエンス・ビュートカウンティ・プラウドIPA」をリリースし、売上の100%をキャンプ・ファイア災害支援基金に寄付することでサポートすることにした。興味深いことに、シエラネバダはレシピを公開し、ほかのブルワリーでもそのビールをつくり、売上を寄付するよう訴えた。反響はとても大きく、ブルワリーのほとんどは米国だが、米国以外のブルワリーも含め、現在1200を超えるブルワリーがこのプロジェクトに参加している。その中には、日本の消費者にもなじみがあるファイアストンウォーカー、ヘレティック、ニューベルジャン、ジョージタウン、ファウンダーズ、ブルードッグ、ハーディウッドやガレージプロジェクトなども含まれている。

日本では、本記事を執筆している現在(12月初旬)、ブリマーブルーイングがこのチャリティーIPAをつくる計画がある。知っている人も多くいるかもしれないが、創業者であり醸造責任者のスコット・ブリマーは日本に来る前、シエラネバダで長年ブルワーを務めていた。妻の佳子とスコットの話では、山火事ですべてを失った友人や元同僚が何名かいるそうだ。彼らの醸造スケジュールによると、1月初旬から中旬に出荷される予定だ。日本の消費者も、支援のために是非このビールを探し求めて飲んでくれることを願っている。覚えている読者もいるかもしれないが、これに似たような動きは過去にもあった。2011年3月11日の東日本大震災が起こったとき、ベアードビール、グアムのイシイブルーイングと米国のストーンブルーイングがコラボして緑茶IPAをつくり、日本赤十字へ売上の64,000米ドルを寄付した。一方、日本各地のブルワーは、東京で開催された、売上をすべて災害支援に寄付するという大規模なフェスティバルに無償で樽を提供した。慈善活動は長い間クラフトビール文化精神の一部を担っていて、この伝統が続くことを本誌は願っている。ブルワーの皆さま、ありがとう!

(The Brimmer family at Sierra Nevada's Torpedo Room in Berkeley, California)


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