Beer Roundup (Summer 2018)


君のジェットパックの燃料は入ってる? いちかばちかに賭ける冒険への準備はできてる? まだだって? うーむ、だったら、せめてビールを手に取り、この数カ月にビールの世界で起きたことをのぞいてみよう。

ほとんどのクラフトブルワリーにとって最大のイベントである、ワールドビアカップ(WBC)とクラフトブルワーズカンファレンス(CBC)がこの春、米国テネシー州ナッシュビルで開催された。2年に1回開催されるこのWBCは、日本を含めた世界各国から集まった2,515のブルワリーから8,234の銘柄が出品され、これまでの開催の中ではずば抜けて、最大の規模となった。2016年の前回と比べて実に25%増えた! カテゴリーの数も拡大しているが、新興のビアスタイルとして増えたのはわずか5であり、前回の96から101に増えた。ということは、出品銘柄数の25%増は、競争が驚くほど激しくなったことを意味する。そして審査員たちはそれまでよりももっと多く飲まなければならなくなった。

日本勢は、いつもいくつかは少しばかりの金を含むメダルを獲得してきた前の開催までのようには、まるでいかなかった。今回獲得したのはわずか2つであり、いずれも銀だった。ジャーマンスタイルヘーフェヴァイツェン部門(カテゴリー)でのコエドの白と、ゴールドまたはブロンドエール部門での麗人酒造の信州浪漫オリジナルエールである。その一方で、日本に輸入されている銘柄も受賞している。その中でかなり印象的と思えたのは、チャカナットの2つの金(ピルスナーとケルシュ)と、ファイアストーンウォーカーによる4つ(主力銘柄のDBA、アメリカンスタイルのサワーエール、アメリカンスタイルのペールエール、ケラービア)というとんでもなく素晴らしい結果だ。

誰がどのようにそうした結果を決めているかって? 33の国と地域から295人という、これも過去最大の規模となった、本当に多様性がある審査員たちだ。72%は米国外からやって来ていて、日本からの9人もその中に含まれている。ジャパン・ビア・タイムズの発行人のライ・ベヴィルも審査員を務めてこう振り返る。「それぞれの部門は一般的に3ラウンドで審査され、IPAのような非常に人気があるものだともっと増える。それぞれの部門の中で、審査員たちは複数テーブルのそれぞれでだいたい10以上の銘柄を審査し、優れた銘柄3つを第2ラウンドに送り込む。第1ラウンドから選び出されたすべてのビールは、第2ラウンドで再び同様に審査される。審査員たちはそこでまた上位3銘柄を選び出す。その後それらは、どの銘柄が受賞に値するかを決めるために再び審査される。人気のあるカテゴリーでは、数を減らしていくためにもっと多くのラウンドがある! 各テーブルに座る審査員たちに求められるビールに関する知識の水準は、醸造技術に関する専門知識から官能審査に至るまで、驚くほど幅広い。だからもちろん、どれが受賞されるかにはある程度まで、審査員の好みが必然的に反映されるが、品質とスタイルへの忠実さの観点からは受賞にふさわしいことに変わりがない。

受賞にあまり興味がない人にとっても、興味深い統計データは確認しておいた方がいいだろう。最も出品数が多かった部門は377のアメリカンスタイルIPAで、受賞銘柄は実に5つのラウンドを通過しなければならなかった。全部門での平均は82で、アメリカンスタイルIPA部門でいかに競争が激しかったか、さらにいかにクラフトビール業界の主流になっているかが分かるだろう。米国は242の受賞数でもってこれまでの開催に続いて全体をリードし、カナダの14、ドイツの9が続く。しかしながら米国からはなんと5,814も出品されていて、受賞率で言えばたった4%だ。これより高い国が6つあり、例えばビール醸造の世界の巨人であるベルギーは10%、英国は5%だ。日本からは151の出品があったので、受賞率は約1%。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年にはもっとチャンスがありますように!

初めの方で触れた、部門数の拡大に戻ろう。それはどのような影響を与えたのだろうか。これは審査会を超えて興味が広がっている話題である。新しいビアスタイル部門の新設に関する助言が、流行やサブスタイルを見ている審査員から審査会期間中に持ち上がることが、ときどきある。例えば、IPAという単一の部門について考えよう。それらの中には伝統的なイングリッシュIPAと比べると、カスケードやセンテニアルという(米国産の)ホップを使用して劇的に異なる味わいの特徴を持っているものがあると、審査員たちは長年気がついていた。だから彼らはアメリカンIPAという新しい部門を設置することを提案した。これはよく知られている実例だ。

審査員たちは仕事を簡単にするために新部門の設立を提案することも、ときどきあるかもしれない。木樽長期熟成ビールという部門がかつてあったことを考えよう。ワイン樽に詰めて酸味を付けたゴールデンエールと、バーボン樽で長期熟成させたアルコール度数の高いスタウトは、どう比較すればいいのだろうか。もちろんそれは難しい。だから2つの新しい部門を設ける(例えば、一つは木樽長期熟成サワーで、もう一つは木樽長期熟成ストロングエール)。もちろん、これらすべての「部門」はビール団体が単に、ブルワーと消費者の間の現場ですでに起きていることを形式化しているだけのものだ。



新しいビアスタイルは、歴史的には特定の地方から現れてきた。特定の原料や気候、特定の技術を触れたり知っていたりすることができるか、そしてその地域の味の好み――。これらの傾向が反映されるためである。それらにはときどき意識的に、テロワールという表現が用いられる。時折、それらは単に自発的なものであったりする(グースアイランドでは「なあ、このエールをウイスキー樽に入れたら何が起こると思う?」とかつて誰かが言った)。ニューイングランド地方から出現した、濁っていて、果汁の感じがあって甘い、ほかのどの場所でつくられるIPAとも全く異なるという、ニューイングランドIPAについて我々は昨年掲載した(本誌第31号)。その人気はうなぎ登りとなり、今や日本を含む全世界で醸造されている。部分的には西海岸スタイルの非常に苦いIPAという刺激に対する反応でもあった。
さてそこで今、新しいIPAのスタイル(もしくはIPAの中の一つの流行)が、サンフランシスコ沿岸地域から出現した。その名は「ブリュットIPA」で、発泡性が高く、あまり苦くなく、ボディーは軽くてさっぱりとしている。「ブリュット」は、シャンパンの世界で「爽快な」を意味する言葉だ。サンフランシスコのいくつかのブルワリーが、麦汁に残っている糖分を完全に発酵させるのを促進する酵素を使っている。これはある複数の酵母とホップを組み合わせて使うことによって、驚くほどシャンパンに近い味わいを持たせることができる。ラフィングモンクというブルワリーが(トリプルヴードゥーというブルワリーとの協働で)つくったものを飲んでみたら、非常に爽やかだった。ミモザ(シャンパンとオレンジジュースのカクテル)のように、オレンジジュースを入れたら、「ビモザ」が出来上がるだろう。

流行や変化は他にもある。興味深い提供のしかたの発達としては、ビール泡アートがある。ラテアートに似ていて、ビールを注ぐ人が泡に何かの絵や図形を描く。もちろんギネスを注ぐ人は、クローバーを描くなど同様のことをこれまでもしてきた。しかしリップルズという企業がこれを完全に次のレベルに進めてしまった。同社は最近、ほとんどどんな絵や文言でもラテの上に描ける、プログラム制御可能な機械を発売した。この新しい機械の機能は、ビールの泡にも使えるのだ。ちょっとしたいたずらもできるかもしれない。「彼女にプロポーズせよ」とビールの泡に描いたりね。

ブルワーたちは長年、古い(時々、古代のものもある)株の酵母を復活させてきたが、オーストラリアから伝わってきた情報が我々の関心を引いた。1797年に、ある英国の船舶がインドから航行してきて、タスマニア島付近の小さな島の近くで沈没し、20年以上前に発見された。船の中から瓶のビールが見つかり、クイーンヴィクトリア博物館・美術館(QVMAG)に寄贈された。そしてQVMAGと協働しているブルワーたちが、その瓶から採取した酵母を使って220年前のビールを再現している。その名は「沈没保存エール」で、聞いたところによると香辛料の特徴があるポーターだ。このビールを持って船に乗っちゃだめだ。

最後に、もっと変わった話題を……。米国には今、二つのビール温泉があって、いずれも「ホップ(「植物のホップ」と「飛び込む」のダジャレ)・イン・ザ・スパ」という名前の会社が経営している。湯船にはホップと穀粒が入っている。これにつかったブルワーたちは、それまでと同じようなにおいがした。湯船に入っている液体は、彼らが仕事としてつくっている麦汁のようであるからだ。みんなも家でやってみることができるよ。がんばって!



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